私にとって、2年振りの、生拓郎ライヴ。体調もしっかり整え、完璧なコンディションで臨んだ。「つま恋」後の拓郎が抜け殻のようになっていないだろうかと気がかりだったのだが、その心配は杞憂であった。
開演前に、「会場内での飲食等はご遠慮下さい。ロビーにてグッズ販売を致しております。想い出づくりにいかがでしょう。タバコは喫煙所でご自由にお吸い下さい。さて、そろそろ開演です。みなさん、席にお着きください」との拓郎自身のアナウンスがあった。2年前の札幌でもそうだったが、出演者本人が、こんなアナウンスをするのは極めて珍しい。これも、お茶目な拓郎らしくて、実にヨイ。
「とんとご無沙汰」に続けて「ペニーレインでバーボン」でオープニング。今回も、つま恋と同様に「例の部分」は「蚊帳の外で」と歌詞を変えて歌ってはいたが、やはりこの曲のパワーには脱帽だ。
そして、彼は開口一番「今日のコンサートにアンコールはありません。もう、いい年なんだから、勘弁してください。」と言ってのけたのだった。開演早々「アンコール無し」を宣言するライヴを見たのは初めてだ。これは、ひょっとすると「予定調和的なアンコールは、もう止めようヨ」という拓郎のメッセージなのかもしれないし、ただ単に「疲れるからやりたくない」ということなのかもしれない。その真意は謎である。
コンサートは進む。そして「こんな曲をあの頃に作ってしまったオレは素晴らしい」と自画自賛しつつ歌う「知識」。この曲を生ライヴで聴くのは初めての私は、感動に打ち震えていた。この曲が世に出たのは「国家の品格」が出版される30年以上前のことなのだ。
中盤のひとつのヤマは「虹の魚~この指とまれ」であった。
土曜の夜に観た柳ジョージは必要最小限のバッキングで、
「♪俺たちはただの魚さ 河の流れまでは変えられない」(コイン ランドリィ ブルース)と歌う。
昨夜の拓郎はビッグバンドを従えて、
「♪川を逆のぼり・・苦しくても 息切れても 泳ぐしかない」(虹の魚)と歌う。
好対照のようでいて、底辺には、なにか共通するスピリットを感じる。
「永遠の嘘をついてくれ」。この曲は、かつて拓郎が「さんまのまんま」に出演して「あの頃の僕の歌は全部嘘なんです!」と発言した放送を見た中島みゆきが、その放送にインスパイアされて作詞・作曲し、これを拓郎に提供したとのこと。この話を知ってから、私はこの曲のオーラが増したような気がした。そして、同時に、中島みゆきの拓郎に対する愛を強く感じる。
NHKでは放送されなかったが、つま恋終了後に、この二人は熱い抱擁を交わしたそうだ(拓郎談)。
ラストは「春だったね」「落陽」「人生を語らず」「今日までそして明日から」の4連発。「今日までそして明日から」は、昔(中学時代)聴いた時には「です・ます調のなんだか軟弱なフォークソングみたいでイヤだなあ」と思っていたのだが、40近くなった私の心に、この曲はとても響いた。胸が熱くなった。20代の拓郎がコレを作ったことに驚きを禁じえない。やはり、それが才能というか、吉田拓郎が現在も支持される理由がそこにあるのだ。やっぱ、世に出るべくして出た人なのだ。
・・・「サマータイムブルースが聴こえる」「流星」「どうしてこんなに悲しいんだろう」も、聴きたかったなあ。来年お願いしますよ、拓郎さん!