徒手空拳の強さ
『懐郷』(熊谷達也著 新潮文庫)
昭和30年代を生きた男女が主人公になっている短編集である。
奇抜なストーリーや大袈裟な事件などを扱っているわけではないが、妙に心に沁みる物語ばかりである。
東北が舞台になっているものが多いせいもあるだろう。ノスタルジーというのではないが、その時代の背景についてはほんのわずかな体験めいたものもある。
描かれる人物の心にすっと入っていけるような感覚で、その世界に浸ることができた。
きっとその時代から、この国に住む人々はたくさんのものを抱えるようになった。
そしてそれらの価値もあまり考えないまま、手離せない状態になっており、持つことだけに力を使って、自分自身の力を弱めていったのではないか。
何も持たない強さ…言うには容易いが、手遅れであることは意識せねばならない。
今あるものをただ捨てていったとしても、その手に力がどれだけ残っていることか。
『懐郷』(熊谷達也著 新潮文庫)
昭和30年代を生きた男女が主人公になっている短編集である。
奇抜なストーリーや大袈裟な事件などを扱っているわけではないが、妙に心に沁みる物語ばかりである。
東北が舞台になっているものが多いせいもあるだろう。ノスタルジーというのではないが、その時代の背景についてはほんのわずかな体験めいたものもある。
描かれる人物の心にすっと入っていけるような感覚で、その世界に浸ることができた。
きっとその時代から、この国に住む人々はたくさんのものを抱えるようになった。
そしてそれらの価値もあまり考えないまま、手離せない状態になっており、持つことだけに力を使って、自分自身の力を弱めていったのではないか。
何も持たない強さ…言うには容易いが、手遅れであることは意識せねばならない。
今あるものをただ捨てていったとしても、その手に力がどれだけ残っていることか。