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言葉が掘り出す人間性

2016年11月14日 | 読書
『父からの手紙』(小杉健治  光文社文庫)

 初めて読む作家。400ページを超す長編ミステリである。失礼ながらなんとなく予想がつくような展開だった。二人の主たる視点人物の独白が冗長に感じられたのは、文体のせいか。人物のキャラがあまり統一されていない点も気になった。しかしそもそも人間とは複雑な生き物、当然かもしれないと読後にそう浮かぶ。



 使ったことのある言葉であり、読めるけれども自分が書くときは漢字ではないという言葉がいくつか出てきて、またそんなところを気にしてしまった。例えば「相伴」(しょうばん)、例えば「縒り」(より)、そして「縋る」(すがる)…そう挙げてみると、人との関係性を表していることに気づく。少し距離を感じる。


 「相伴しようか」などと使うのは、人が集まったときだな。「縒りをもどそうよ」なんて色気のある話は…昔からないか。「縋って追いかける」ことも同様だろう。小説の設定とはある意味で特殊状況なのだから、当然、そうした人間の持つ機微にふれることが表現される。そう考えると、言葉が掘り出す人間性は結構多い。


 題名の「父からの手紙」に詳しく触れられない。ただ、主人公へ毎年送られた手紙の背後には、夥しい数の読まれない手紙があったことが最後に描かれる。主人公はその父からの手紙の言葉に勇気づけられ、前に進む。人の心に届く言葉とは、言葉そのものではなく、込められた深さが必ずあることは確かに違いない。