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危機に強くなるしか

2017年09月26日 | 読書
 「危機」とは「大変なことになるかも知れないあやうい時や場合」を指すが、目に見える時とそうでない場合がある。危機が突然訪れるのは天災や不慮の事故等が代表的だ。それ以外の多くは徐々に迫ってくると言えるだろう。その道筋を読み解くこと、気配を感じ取ること、リーダーに限らず凡人にも必要だと思う。



2017読了94
 『日本人へ 危機からの脱出篇 』(塩野七生 文藝春秋)


 この女性作家の存在は知っていたし、月刊誌で論考を読んだこともある。しかし世界史に興味がなく縁遠い存在と感じていて、単行本は手にしたことがなかった。イタリア在住半世紀を超えるという「外から祖国を見る人」の先駆者的存在の、日本論はいかなるものや…理解できない箇所もありつつ、なかなかだった。


 「賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ」を「真っ赤な嘘」と宣う。その訳を「歴史は経験の集積に過ぎないから」と言いきった。なるほど、そうであれば愚者がなぜ歴史や経験から学べないかがわかる。つまり、愚者は自らの思想や事象にとらわれるからだろう。賢者と愚者を分けるのは、俯瞰性と想像力か。


 ジョークとして流布している、世界に絶対ないものの一つとして「日本人のプレイボーイ」がある。それは外交下手を指しているわけだが、つまりは「悪知恵」がないことらしい。「相手と良識や善意を共有する」環境に恵まれている我ら日本人が、グローバル化に対応できるためには、悪知恵を鍛えるしかないのだと…。


 今、日本を覆う危機は…外交面は心配だが、それ以上に人間を重視しない政策進行に歯止めが必要だ。この書の結びにある「イデオロギーは人々を分裂させるが、危機意識は団結させる」を私達はどんな形で実感できるか、ここ数年が肝心だ。もはや「脱出」などできない。危機に強くなることだけが求められている。