すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

やや落ち着いて秋読書

2022年09月17日 | 読書
 小説を続けて読むことは少ないが、珍しく2冊続けて目を通した。沁みる言葉が多かった。


『いのちの停車場』(南杏子 幻冬舎)

 昨年映画化されている。吉永小百合のイメージに合うのかどうか微妙だが、まあ佳作ではある。診療所の面々が行きつけにするSTATIONというバーのバーテンダー柳瀬の存在がピリッとしている、若い頃モンゴルを放浪していた経歴があり、医師やスタッフたちにかける言葉が味わい深い。現実には少なくなったなあ。

 一日を終えて飲む場にふさわしく、安堵感と希望をしみ込ませるような一言。例えば「明日のことは、明日案じよ…」という諺がある。そして、最も印象深いのは、苦しくてどうしようもない時どうするかという主人公が訊いたとき、発せられたモンゴルの格言…「思って行けば実現する、ゆっくり行けば到着する




『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(東野圭吾 角川書店)

 映画化された作品を観ていた。ただ、中学校から依頼された集会でこの本について語る子がいるというので、ざっとでも目を通すかと気持ちで図書館に並んだものを借りページを開いた。最初は映画のシーンなど思い出しながら、やや雑に読んでいたのだが、いやいやさすがは東野圭吾と舌を巻く。読み手を引き込む。

 フィクションだから当然とはいえ、「奇蹟」と名づけられるエピソードの組み立ての素晴らしさ。映画には登場しない物語も、時代の空気を上手く織り込みつつ、人の成長・変化に寄り添っている。映画とは強弱のつけ方が異なるが、ラストシーンで読まれる白紙の手紙への回答は、若者に向けるメッセージが鮮やかだ。

地図は白紙では困って当然です。誰だって途方に暮れます。だけど見方を変えてみてください。白紙なのだから、どんな地図だって描けます。すべてがあなた次第なのです。