すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

その勇気も力も覚悟も…

2022年09月09日 | 読書
 九月に入ってから読み始めた単行本二つ。手練れの作家ではあるが、正直どちらも少し頼りなさを感じた著書だなあ。


『夏の騎士』(百田尚樹 新潮社)

 本の帯には、百田版「スタンド・バイ・ミー」というフレーズが…。題名からしてそんなイメージだ。まあ「稀代のストーリーテラー」という評価は確かにあろうし、読ませ方は上手だ。ただし、百田小説にしては今回いささかダイナミズムに欠けるように思えた。著者はエピローグに、いわばこの話の核をこう記す。

「勇気は決して天から舞い降りてきたものではない。幸運に恵まれて道端で拾ったものでもない。(略)人はみな勇気の種を持っている。それを大きな木に育てるのは、その人自身だ。そして勇気こそ、人生で最も大切なもののひとつだ。」

 確かにその通り…ただこの著者がこう語れば、なんとなくその「勇気」の使い方に方向性が定められる気もしてくる。「何を語るか」が肝心だけれど「誰が語るか」によって左右されるのが、今の日本だ。それは「丁寧に説明」と言ったきりで自分たちの思う通りに物事を進めてきた、ここ10年の政権の責任が大きい。




『もう一度歩き出すために』(伊集院静 講談社)

 週刊誌連載コラムをまとめた「大人の流儀」シリーズ。第11巻は著者が病から復帰した後に長年連れ添った愛犬を亡くし、いわばペットロスのような心境でコロナ禍の社会を語っている。お気に入り(今回はゴルフの松山選手など)について書く文より、やはり家族のエピソードの方が著者らしい味わいが出ているなあ。

「いいか、失敗、シクジリなんて毎度のことだとおもつていなさい。倒れれば、打ちのめされたら、起きればいいんだ。そうしてわかったことのほうが、おまえの身に付くはずだ。大切なのは、倒れても、打ちのめされても、もう一度、歩き出す力と覚悟を、その身体の中に養っておくことだ」

 おそらく「書名」が選ばれた訳になる。この父の一言の強さは生半可には培われない。人が経験できることは限られているし、それぞれの生涯も大きく違う。ただ、自ら選び進んだ道で、愚直に物事に対する精神こそが「力と覚悟」をつくる糧であるのは確かだろう。この国の道が薄暗くなっている今こそ、意識したい。