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桜と絵本と豆乳と

また一人、彼岸へと…

2022年09月23日 | 雑記帳
 どんなジャンルであっても「本物」には触れたいと思い始めたのは、五十歳近くなってからだった。正直、遅きに失した。行動力の無さを嘆いても仕方ない。例えば先日『日本の芸能』で放送された、第十八世中村勘三郎の舞台も見逃した一つだ。同齢である思い入れもあり、つくづく残念だ。そしてまた一人旅立ち…。


 宮沢章夫が亡くなった。齢は違うが同年生まれである。十数年前からその独特のエッセイに惹かれて興味を持った。いつか演出した演劇を観たいと思っていたが…。チャンスはあったはずだ。しかし、この十数年は芸能といえば落語などが中心になり、情報収集もしなかったし、コロナも…これは言い訳にならない。



 宮沢の本を読んだ感想メモ(特に印象深いのは「茫然とする技術」「牛への道」など)を読み直すと、なんだか自分でも面白い。そして密かに名づけている「素振り」という語は、宮沢の文章から引いていたのだと思い出した。素振りというのは、実はこのブログのことである。漫然とした文章になっている自覚はあるが、繰り返して振り続けることに意味を見い出している。



 この頃更新の頻度が落ちたのは、明らかに体力不足、集中力低下。何かこの先のめあてが明確な訳ではないが、甲子園大会を目指す球児のように(笑)連日振り続けていたら力はつくと漫然と続けたツケが出始めた。宮沢ならさしずめ「素振りのふり」と切り捨てるかもしれない。それでも振らないよりはましか。


 TVで勘三郎の「平成中村座」の様子を見て、大学に入った頃、初めて観たアングラ演劇の舞台が蘇る。客席後方から「つかまらせてください」と歩んでくる複数の出演者たち。その声は今も耳と目に残っている。あれは宮沢本人ではなかったが確かに同時代を生きた者たちだ。その手を離してから長い時間が経った。