6年前のNew York Timesベストセラーとなったドキュメンタリー、「Nickel and Dimed」をこの夏休みに読みました。ジャーナリストである著者、Barbara Ehrenreichは、アメリカの低賃金労働者の実際をよりよく知るため、自身が低賃金労働者となってアメリカの3都市、フロリダ州マイアミキーウエスト、メイン州ポートランド、ミネソタ州ミネアポリスで、低賃金労働者の生活を約1年にわたって経験します。ウエイトレス、ホテルの清掃員、クリーニングサービス、老人ホームの介助係、ウォールマート(アメリカ最大のスーパー)店員といった職業に就き、その賃金で生活するということがどういうことかを書き綴っています。あらためて思い知らされたのは、この世界一豊かな国の低所得者層は、普段人の目につかないところで、とんでもなく貧しい生活をしているということでした。市場原理による競争を原則とする資本主義社会では、富は偏在し、競争力は経済力に比例して増加しますから、金持ちはますます金持ちになり、貧困層は競争力が低いためますます困難な生活へと追いやられています。過去日本の大勢であった中流層は競争原理が押し進められた結果、地盤沈下し実質下流層へ格下げされつつあります。本が書かれた当時のアメリカ人の平均収入は年間約40,000ドルで現在もそう変わっていないと思います。平均値からみると収入がそれだけあれば中流といえるのですが、それらの人々が中流といえる生活が本当にできているのかというのは疑問です。この本によるとウォールマートの店員などの非熟練職は時給7ドルぐらいです。1日8時間、月に20日働いて、年間13,000ドル強にしかなりません。養っていくべき家族のある人は、こうした職を2つ3つと掛け持ちし、休日なしで働き続けることになります。小さい子供がいて預けなければならない場合は、その費用に収入の半分近くをあてなければならないこともあります。年収が30,000ドルに満たないアメリカ人は約60%おり、シングルインカムで家族を養っている場合は、食べていくことは何とかできても、殆ど何の余裕もありません。因みにアメリカでのポスドクの最初の給料はこれくらいでしょう。アメリカが豊かに見えるのは、豊かな部分だけが目に見えるからです。普段目に見えない一般アメリカ人は、いざという時の貯蓄をする余裕もなく、市場原理で値段をつり上げられた不動産のために家を買ったり部屋を借りたりすることも満足にできなくなって来ています。とくにこの住居問題は近年大きく、食費の家計に占める割合で貧困を測ると、貧困層は一見減少しているように見えるのですが、住居費の家計に占める割合は食費よりもはるかに大きくしかもそれは急速に上昇してきているため、実際の生活レベルは悪化しているようです。著者はミネアポリスでは、供給不足需要過多による家賃の高沸により、収入に見合ったアパートを見つけることができず、長期滞在者用のモーテルに寝起きせざるを得ませんでした。その最低レベルのモーテルでさえ結局はウォールマートの賃金だけでは収支をあわせることはできなかったのでした。低賃金労働者の中にはアパートを借りる事もできず、トラックや車のなかで寝起きするものもあります。サンフランシスコでは終日営業の巡回バスを寝床にしている人の話も聞きます。豊かな国のアメリカの低賃金労働者の生活レベルは極めて低く、著者はアメリカの豊かさはそうした人々の犠牲の上に成り立っていると言っています。アメリカは裕福層が巧妙に社会システムを操作し、経済的クラス分けを行うことで、裕福層の利益を守り、貧困層が容易にはそのクラスを出る事ができないようにしています。ちょうど江戸時代に農民が搾取されていたのと同じ構図です。ジョンエドワードの言う二つのアメリカというのがこれで、裕福層が貧困層を搾取することによって、裕福層は苦労無く裕福であり続けられ、貧困層はいくら働いてもそこから抜け出られないのです。アメリカの後を追いつづけている日本でも同じことが起こっていると思います。一部の裕福層は金で社会を操作できます。残りの大多数の国民は彼らに搾取され続けられています。そのうち、アメリカや日本でこの経済的カースト制を倒そうとする動きが起こるでしょうが、それは強い痛みを伴うことになるでしょう。いつも傷つくのは弱者なのです。
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