百醜千拙草

何とかやっています

ZFN臨床応用、盗作辞任、メア騒動

2011-03-11 | Weblog
3/3/11号のNatureフロントページから。
AIDSに対する新しい遺伝子治療法が臨床私見に入ったととの話。これがうまくいけば美しい科学の勝利なのですけど。二つのブレークスルーがこの治療法の基礎になっています。一つはCCR5という遺伝子の変異があるとHIVウイルスが感染できないという発見。CD4(+)T細胞にHIVが感染するのにこの遺伝子産物が必要なのだそうです。もう一つは、最近注目を浴びている遺伝子操作法、ZFN (Zinc Finger Nuclease Technology)という技術の開発です。この技術は遺伝子配列特異的にDNAに結合するzinc finger domainを持つDNA結合蛋白をデザインし、それにDNA切断酵素(Fok I)をくっつけたものです。いわば制限酵素反応を生体内でやってしまおうという発想です。これを目的細胞で強制発現させて、塩基配列特異的にDNA二重鎖切断をおこさせ、その修復過程で変異を意図的に導入するというやり方です。この方法を使って、ラットのノックアウトなどが作られています。生きた細胞内でこの反応が特異的に効率よく起こるならば、ES細胞の培養が困難なラットや他の動物でも、直接受精卵の中でノックアウトできるわけで、これまでマウスの専売特許だったノックアウト技術が広がります。ただ、かなり長い配列を特異的に認識するようなキメラ酵素をデザインする必要があるのでこの部分がそう簡単ではないこと、またマウスのES細胞でやるような凝った変異は入れる事はできません。

AIDSでのこの発見と技術の応用は、AIDS患者からCD4(+)T細胞をまず単離し、CCR5を特異的に認識するZFNを発現させてCCR5を潰したT細胞を再び患者さんへと返すというやり方です。現在6人の患者さんがこの治療を受け、免疫細胞数の増加が5人で認められているという話で、期待を煽られます。まだ、数も少なく、T細胞増加が本当にCCR5変異を誘導したせいかどうかもはっきりしていないし、副作用(非特異的変異の導入など)も明らかでないので、ちょっと先は長そうです。レトロウイルスを使った遺伝子治療で白血病が頻発するということも報告されていますし、まだまだ多くのハードルを越えなければなりませんが、もしこれがうまくいった場合は、科学研究成果に基づいて理詰めで病気に勝つという美しい話になると思います。

ゴシップ欄では、ちょっと下世話な話で、ドイツの防衛省大臣、Karl-Theodor zu Guttenberg氏の辞任について。辞任理由は違法献金ではありません。大学院時代に学位論文で盗作をしたのがバレたからという情けない理由。ドイツの首相、Merkel氏は大学院時代の不正行為はGuttenbergの政治家としての価値を減ずるものではない、と弁護したが、バッシングを受けて辞任に至ったとのこと。ドイツの大学人や院生はMerkel氏の弁護は学問における盗作の問題を軽んじるものだとして非難。そりゃそうでしょう。学問で盗作とか捏造とかはfelonyですからね。学問界ではいわば重罪人だが政界では関係ない、という理屈がすでに、国民に奉仕する公僕としての意識に欠けるというものでしょう。論文で盗作するということは、自分の利益のために人の物を盗むということです。そういう人が大臣として権力を持つということに危機感を持たない方がおかしいでしょう。利己的でズルい人間が権力を持ったら、国民にツケが回ってきます。そういう危険をあえて冒したいと普通の人は思わないでしょう。無論、盗人にも5分の理もあり人権もあるので、日本の朝日新聞のように無罪主張をしている人間に向かって議員をやめろとか開いた口が塞がらないとかいうような無茶苦茶な言いがかりをつけて魔女裁判をやるのは許されません。しかし、盗作を確認した大学から証拠を突きつけられたのだから、本人自らが「出処進退」を明らかにして、国民の判断を仰ぐのがスジというものでしょう。Merkel首相はそういうべきでした。

アメリカ国務省のメア日本部長の「沖縄はゆすりの名人」発言が表面に出て、非難を受け、結局、更迭となったという事件に関して。私は、こんなことがここまで日本で大騒ぎになると私は思っていませんでした。
 日本以外の国で、国際政治を多少知っている人なら、おおむね日本はアメリカの属国だと考えていると思います。だから、あれほどの経済的貢献をしながら、いつまで経っても日本は国連の常任理事になれないのです。他の国々は、日本はアメリカの属国でアメリカの言いなりだ、日本に票を与えることはアメリカに二票やるのと同じことだと考えているわけです。特に、満州侵攻されて国を蹂躙された中国の、アメリカとの戦争に負けてその属国となった日本に対する目は厳しいと思います。少なくとも中国は日本をまともな独立国であるとは看做しておらず、正直なところ日本をバカにしていると思います。しかし、その理由は日本の戦後の政治体制にあり、いわば身から出た錆であり、これでは中国でなくてもバカにするわな、と私は思います。そして現政権に対しても、例えば尖閣諸島問題での対応を見て中国政府は日本の政治の実力(のなさ)を改めて確認したことでしょう。
 それで、このメア部長の話がなぜ日本でここまで大騒ぎになるのかですけど、日本人の国民性とそれを利用した言論統制のせいだろうと私は思います。それについてはまた後日、機会があれ書きたいと思います。

いずれにしても、こういう発言が表に出て大騒ぎになるのは良い事です。新聞や学校教育を使って国民に信じ込ませて来た日本官僚と55年体制政治のついてきたウソが表にでてくる分けですから。それを恐れる官僚、そしてアメリカがこの正直な国務省日本部長を更迭したのは当然のことです。シッポ切りですね。
コメント
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