百醜千拙草

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ヒ素細菌の顛末

2012-08-21 | Weblog
一昨年の年末、「ヒ素をリンの代わりにDNAに取り込む細菌を発見した」と大々的にマスコミに発表したNASA研究者の論文がありました。論文はScienceに発表され、分子生物学の常識を書き換える大発見と、かなりの衝撃をもって世間に受け取られましたが(当時の記事)、発表直後から各方面から、怒濤のような批判を浴び、結局、その後、筆頭著者は研究所を辞めた、という話を聞きました。その反駁論文が二報、ついこの間のScienceに出ていました。一報は、最初の論文発表直後から、かなり厳しい批判を繰返して来たカナダのRosemary Rosefield。論文を「ペテン」とまで自身のブログで酷評。(Scienceの論文がペテンならば、この人に批判させたら、ドジョウや空きカンはどう呼ばれることでしょうか?)
この事件をカバーしたこんな記事を見つけました。一部、勝手に要約。

「宇宙の生物を発見」という2010末の誇大広告と劇的展開をみなさんは覚えておられるでしょう。
もっとも大きな問題は、論文の中身ではなく、SicenceとNASAが行った発表のやり方と、発見者の態度でした。
これは様々なレベル全てで誤りが連続した驚くべきケースです。即ち、研究者、研究指導者、レビューアー、雑誌、および所属機関(NASA)の全レベルでです。
分子生物学と微生物を知っている人々にとっては、この厳密さに欠ける論文は出版されるべきではなかったとすぐにわかりましたし、ましてやScienceのような一流雑誌に掲載されてはならなかったのです。
誰もこのような価値のない研究の追試に時間を費やしたくはないものですが、2つのグループが追試を行いました。

簡単に結論を言うと、
リンを厳密に除去すると細菌は生育できない。
細菌のDNAに結合したヒ素は検出されない。
細菌の糖分に極少量のヒ素が検出されたが、それは生体活動と無関係である。

要はこのヒ素細菌はヒ素に耐性があり、少量のリンの存在下でも生育できるが、ヒ素をリンの代わりに使うことはできないということでしょう。

当事者の反応というと、

Wolf-Simon(最初の論文の筆頭著者):これらの新しい論文と私たちの論文に別に矛盾はない。(私の感想 - ドジョウなみの開き直り)
Olemland(ヒ素細菌の研究指導者):現時点では、ヒ素細菌の可能性は更に詳しく調べる価値がありそうだ。(これまた、往生際が悪い)
Tainer (Wolf-Simonの現指導者):いろんな原因で(最初の結論が得られ)「ない」ことは起こりうる。私は家のカギがたまに見つからなくなるが、だからといってカギが存在しないとは言えない。(枝野氏も真っ青の詭弁。再現性がないものを科学とは呼ばない)
New (NASA本部): これらの論文は、オリジナル論文のいくつかの結論に疑義を唱えるが、2010のこの驚くべき微生物の発見を否定するものではない。(オリジナル論文の最も重要な結論が否定されているのですけどね。今や、リンの代わりにヒ素を使う全く新しい生物が発見されたというのではなく、単なるヒ素耐性菌というだけの話でしょ。)

科学は真理への漸近的なアプローチです。しかし、真理に到達するには、我々は、心理的に肩入れしているかも知れない仮説を手放す必要があります。これは多分、良い科学を実践する上で最も困難な内的な障害でしょう。仮説への愛着とオリジナルで斬新な発見をしないといけないというプレッシャーが、数々の危険な行為を引き起こします。(厳密なコントロールをとらないような)横着をしたり、「合わない」データを除いたりすることです。、、、

Calvin and Hobbes

私は、正直は最上のポリシーであると信じております。あいにく現代社会では正直者がバカを見ることが多いですが。ただ、このヒ素論文に関しては、著者らは、意図的な研究不正を行ったのではなく、データを過剰解釈しすぎて、衝撃的な結論に飛びついてしまい、それを客観的に冷静に再評価する慎重さを欠いていたというだけのことのように思います。この研究をRosefieldが非難したのは、研究不正を行ったという意味ではなく、その発見の「売り方」がペテンであるといういう意味でしょう。非難のされるべきは、彼らが科学者としての厳密さが足りなかったことに加えてメディアを使って「不治の病も治る奇跡の健康食品」を押し売りするようなということをやったという点をです。いずれにせよ、これだけ世間を騒がせたのですから、それなりの誠意ある対応というものがあって然るべきだと私は思います。しかし、上の当事者のコメントを見る限り、さすがはアメリカ人、己の非は素直に認めないのですね。(もちろん、正直なアメリカ人も中にはおります)
コメント
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