百醜千拙草

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アプローチ

2020-10-30 | Weblog
心房細動と心不全で入院して薬を始めて三日目、電気的除細動をやろうということで、絶食して食道エコーの段取りをして、あと一時間ちょっとで施術予定時間というところで、ふと繋がれている心電図に目をやると、心房細動が治っていました。使用している薬剤だけでは治らないと予想されていたので、意外です。急遽、処置はキャンセル。とりあえずは、このまま様子をみて、長期的治療については外来で考えようということになりました。その後は不整脈チームの人、心不全チームの人々がやってきて、同じような質問。一応、冠動脈の評価のためにCTをやって、心筋症評価のためのMRIは外来でということで退院となりました。

心臓病といってもいろいろ専門が分かれているので、この3日ほどの入院で十人以上の専門家や研修医やナースにあいました。若手の医者にはいろいろ新薬を勧められました。そもそも医者嫌いで薬嫌いですから、薬はできるだけ少なく、新薬は遠慮します、とお願いしましたが、心臓専門医はどうも共通して押しが強いようで、そんな検査はいいじゃないの、とような検査をガンガン入れてきて、そんな薬飲まなくてもいいだろうと思うような薬をガンガン処方してきます。

ということで、質問です。高血圧と心房細動からの急性心不全回復期の私に、心不全チームが処方した3つの薬は次のうちどれでしょう?ちなみにベータ阻害剤とカリウムチャンネル阻害剤と血液凝固阻害剤は不整脈対策で別に処方されています。私は内分泌異常、糖尿病はありません。

1. カルシウムチャンネル阻害剤
2. アンギオテンシン受容体阻害剤
3. SLG2阻害剤  (訂正 - SGLT2阻害剤です)
4. サイアザイド利尿剤
5. 抗アルドステロン薬
6. メトフォルミン
7. ジギタリス製剤

正解者にはさらに10ポイントをプレゼント。正解者の方も不正解の方もツイッターで「スガは憲法を守れ!」と心ゆくまでツイートしてください。というか、あのポンコツは憲法も自分の職務もろくに理解していないようですけど。

一応、薬に関しての希望はのべたのですけど、希望は聞き入れられず。どうも彼らには検査や治療方針に関しては信念があって、その信念は何があっても揺るがないという信念ももっているような感じです。つまり、信念が信念で固められているので、抵抗は容易ではありません。

しかし、その信念も実は現時点でのコンセンサスに基づいているに過ぎません。数々の過去の知見を総合して理論的に導き出された現時点の最適解にすぎないのであって、10年後もそれが正しい可能性はむしろ低いでしょう。テクノロジーの進歩や臨床知見の蓄積などで、大体、医療の常識は10年単位で変わっていきます。20年前の医学の常識は現在の非常識です。そうやって、医学はある意味、誤った治療の不幸な経験から学んで徐々に進歩していくもので、私もそれは理解しています。

血液型という概念もない時に輸血したり移植したりして大勢の患者さんが死にましたが、そういう犠牲がなかったら、現代の移植免疫の知識は得られていなかったかも知れません。同様に、私が現在、よい治療を受けれるのも、過去の少なからぬ不幸な結果に終わった例から医学が学んで知識が蓄積されたゆえです。コロナにしても最近、抗サイトカイン療法が効かなかったとかクロロキンは効かなかったとかいうデータがでてきています。どんな結果であれ、医学の知識の蓄積という意味では有意義ですけど、一人一人の患者さんの立場に立って見れば、そうした実験的治療に一縷の望みをかけています。効かなくてお亡くなりになり残念でした。それでは次の治療を試しましょう、ってな具合には行きません。

よりよいものを目指すという共通の目的へのアプローチに保守的なアプローチと革新的アプローチがあると思います。私は保守主義ですから、歴史に試されて価値が証明されたものを尊重し、その上で不都合な部分を少しずつ工夫していく、ボトムアップアプローチが好きです。一方、これまでの研究成果をもとに理論を構築してトップダウンで治療法に革命を起こすことに興奮を覚える若い人もいるでしょう。患者にとってどちらがいいかは患者さん自身の好みにも左右されると思います。現実と過去を尊重し慎重に改善を目指す保守的アプローチ、過去と現実を一旦更地にして、そこに理論にしたがって新しくて良いものを作り上げようとするアプローチ、長所と短所がありますけど、失敗した場合にダメージが少ないのは前者、成功した場合に効果が大きいのが後者ですかね。

しかし、当然ながら、理論は現実の抽象に過ぎないのであって、現実なしに理論はありません。そして、患者としての私からみた現実は、今の私自身の体の状態以外にありません。心臓専門医は専門家なので、最新の治療法も理屈もその成績も知っているのは当然ですけど、その知識はあくまで抽象であって、私の現実に必ずしも合致するとは限りません。そうした知識の使い方にはその人の好みや主義が関わってくると思います。私にとっては、理論に患者を合わせるのではなく、患者の唯一の現実をまず尊重してくれる医者が好ましいです。
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