本年のノーベル医学生理学賞の発表があり、ジーンターゲッティングの技術の発見、開発に対して、ユタ大学のマリオカペッキを含む3人に賞が与えられたというニュースを聞きました。マウスのジーンターゲッティングの技術は、現在でマウス遺伝学手技を用いた研究を行うものにとっては必須のものとなっており、この技術が現代の医学生物学研究に与えた影響を考えると、ノーベル賞は当然です。結局これだけノーベル賞が遅れたのは、おそらく誰を受賞者の3人に絞るかという点が問題になっていたのでしょう。この技術は数多く技術革新が複合的におこってはじめて可能になったものです。まずは安定したES細胞の培養の確立、これはフィーダー細胞やLIFがESの分化抑制に有用であるという発見が不可欠でした。またES細胞とホストの胎児とのキメラマウスを作成する技術、違った種類の細胞を混ぜ合わせて一個体をつくるための技術、そのキメラの胎児を代理母の子宮へ返して育てる技術、決して簡単に開発できたものではありません。そして何より大きな技術的革新が、ES細胞のゲノムの一部を外来性のDNAで置換する技術(狭義にはこれがジーンターゲッティングですが)で、マリオカペッキの貢献はここにありました。アメリカの医学生物科学への主たる研究基金であるNIHは非常に保守的な機関で、研究計画の審査に当たっては、リスクの小さい研究、即ち研究の結果が確実に知識の増大につながるようなものが優先されます。成功すればその成果は大きいが成功する見込みが小さいか、あるいは成功する見込みが読めないような研究は、歓迎されません。ちいさなことをコツコツやるような研究計画が好まれるのです。ある意味、知識の隙間を埋めるような、最初から結果やその成果が予測できるような研究(逆説的には、やってもやらなくても大して変わらないような研究)が好まれます。カペッキのジーンターゲッティングのアイデアも当然ながらハイリスクであると考えられて、初期の研究資金の獲得に苦労したという話を聞いた覚えがあります。1980年代の後半、多くのグループがノックアウトマウスの作成にほぼ同時に成功したので、なおさらこの技術に関して誰が最も大きなクレジットを取るべきかという問題があったようです。
マリオカペッキは現在ユタ大学在職ですが、イタリア移民で、数年前Natureのフロントページで彼が特集された時、その小説のような生涯に興味を引かれたものでした。イタリアでの幼少時は恵まれず、貧乏の中、盗みを働いたりして生き延びたというようなことが書いてあります。アメリカに渡って学問を志し、アメリカンドリーム研究者版を実現しました。彼はハーバードではDNA二重螺旋のジムワトソンのポスドクで、大変面白い現象を発見したにもかかわらず、ワトソンがそれを認めようとしなかったので、実験ノートを焼き捨ててしまったみたいなエピソードが披露されています。結果、誰かがすぐ彼の発見を再発見し、彼のせっかくの努力はワトソンの見る目の無さのために報われなかったのでした。ワトソンは学問を追及する科学者と言うよりは、例えは悪いですが、成功願望の強い山師的な人のように思います。ノーベル賞の相棒、クリックが学者の鑑みたいな人で、二重螺旋以外にも多くの非常に重要な科学的発見に寄与し、ノーベル賞受賞後も生涯一研究者であることを選び、一研究者として亡くなったことを考えると、ワトソンはクリックとの二重螺旋の後、研究的にはぱっとしませんでした。しかしハーバード、コールドスプリングハーバーと要職に就き、政治的な意味で科学界に貢献したのは事実で、ヒューマンゲノムプロジェクトなどの彼が主導した企画の成功が、現在の医学生物学研究に大きく寄与しているのは疑いもありません。
私がカペッキの実物を見たのは一回だけです。小さな講堂だったので間近に話を聞きました。パターン形成に重要な働きをするHox遺伝子群の機能をマウスリバースジェネティクスを用いて解明するというのが彼の主な研究テーマです。訥々と誠実に研究の成果を語る様子が、ワトソンとはウマが合わないだろうなと思わせました。
私の現在リバイス中の某米国雑誌投稿中の論文と以前の同雑誌論文もアソシエイトエディターとしてカペッキを選びました。何となく、私にとってはラッキーパーソンのような気がしているので、彼の今回のノーベル賞受賞は、私もうれしく思っています。(実際、彼がジーンターゲッティングのアイデアを思いつかなかったら、私のこれらの論文はありえませんでした)
マリオカペッキは現在ユタ大学在職ですが、イタリア移民で、数年前Natureのフロントページで彼が特集された時、その小説のような生涯に興味を引かれたものでした。イタリアでの幼少時は恵まれず、貧乏の中、盗みを働いたりして生き延びたというようなことが書いてあります。アメリカに渡って学問を志し、アメリカンドリーム研究者版を実現しました。彼はハーバードではDNA二重螺旋のジムワトソンのポスドクで、大変面白い現象を発見したにもかかわらず、ワトソンがそれを認めようとしなかったので、実験ノートを焼き捨ててしまったみたいなエピソードが披露されています。結果、誰かがすぐ彼の発見を再発見し、彼のせっかくの努力はワトソンの見る目の無さのために報われなかったのでした。ワトソンは学問を追及する科学者と言うよりは、例えは悪いですが、成功願望の強い山師的な人のように思います。ノーベル賞の相棒、クリックが学者の鑑みたいな人で、二重螺旋以外にも多くの非常に重要な科学的発見に寄与し、ノーベル賞受賞後も生涯一研究者であることを選び、一研究者として亡くなったことを考えると、ワトソンはクリックとの二重螺旋の後、研究的にはぱっとしませんでした。しかしハーバード、コールドスプリングハーバーと要職に就き、政治的な意味で科学界に貢献したのは事実で、ヒューマンゲノムプロジェクトなどの彼が主導した企画の成功が、現在の医学生物学研究に大きく寄与しているのは疑いもありません。
私がカペッキの実物を見たのは一回だけです。小さな講堂だったので間近に話を聞きました。パターン形成に重要な働きをするHox遺伝子群の機能をマウスリバースジェネティクスを用いて解明するというのが彼の主な研究テーマです。訥々と誠実に研究の成果を語る様子が、ワトソンとはウマが合わないだろうなと思わせました。
私の現在リバイス中の某米国雑誌投稿中の論文と以前の同雑誌論文もアソシエイトエディターとしてカペッキを選びました。何となく、私にとってはラッキーパーソンのような気がしているので、彼の今回のノーベル賞受賞は、私もうれしく思っています。(実際、彼がジーンターゲッティングのアイデアを思いつかなかったら、私のこれらの論文はありえませんでした)