百醜千拙草

何とかやっています

旅の思い出 (研究篇)

2019-09-27 | Weblog
学会から帰ってきました。久しぶりにニュースを見ると、あいかわらずのアベ政権のバカさとデタラメ加減に腹がたちます。キリがないのでやめますが、トランプの罷免の調査が始まり、アベの国家内乱予備罪への告発がようやく東京地検へ送られたようで、この際、この二人まとめて政治の場から消えてもらいたいものだと思います。

さて、学会ではその前の週にパリであった数人の研究者とも再会。共同研究の口実でまたパリに呼んでくれるように頼みました。実現したら、今度こそモナリザを見て、それから前回行けなかったのでベルギーまで足を伸ばすつもりです。学会では、大勢の昔の知り合いと会って楽しかったです。
最近、九州地方の某大学の教授になって単身赴任したという昔の知り合いは、赴任先にユニークな天然化合物のライブラリーがあるというので、共同研究の約束。学会の内容はパッとしませんでしたが、昔の知り合いやお互い知っているけど会ったことのなかった人、グラントのプログラム担当者、雑誌の担当者の人、などなど直接話ができたので、参加した意義はあったと思いたいです。

さて、学会前のパリとストックホルムの旅行では数人の研究者と話をしました。研究者はどこでも大変だなあと思います。知り合いが働くパリの北駅のそばにある病院は昔の修道院の建物を使っており、病院と研究室のある建物が中庭を囲み、中央には礼拝堂があるという趣のある場所で、(歴史的建造物のため外観を変えることは禁じられているので)歴史の重みを感じる建物の中に研究室が病室と壁一つ隔てて並んでいるというユニークなところでした。しかし、中身と言えば、フランス政府の緊縮政策によって研究者は苦しい活動をしいられているとのこと。研究者の雇用体系は複雑で、私を呼んでくれた知り合いはフランスの研究を一括にマネッジするINSERMという組織に直接雇用されていますが、私も以前から知っている彼の同僚は病院や病院が関連する大学から金が出ているという話。それによって、研究、研究プラス教育、プラス臨床と義務が変わってきます。悩みは、いずこも同じ、カネ。
優秀な若手の研究者が欲しいけれども、誰もアカデミアで研究をしたいという人がいない。民間に出れば給料は二倍で、誰もポスドクなどやりたがる人はいない。カネも人も乏しい中、研究は世界との競争で、グラントはEU諸国との競争。
「十分な資金を得るのはなかなか難しい。小さなグラントを5つ集めてなんとかやっている。しかも、夏の間はすべてがバカンスのために仕事が止まってしまう。ただでさえ無責任な事務が休暇に入るので書類一つ、オーダー一つ通らず、実験にならない。そもそも、俺の給料をしっているか?」みたいなことをきかれました。晩飯をおごってくれようとしましたが、それを聞いて、割り勘にしました。
彼の同僚が面倒を見ている学生はふたりともPhDを間も無く取る予定とのことでしたが、一人はすでに軍隊付属の警察のScience degreeが必要なポジションへの就職が決まっており、もう一人はまだ将来のことはわからないが、ポスドクをやらないことは確かだ、という話。二人とも面白い研究をしているのですが。これでは理系のアカデミアは死ぬでしょう。

ストックホルムでは研究室をもっている二人と話をしました。研究所は比較的最近、新築したらしく、ノーベル賞の受賞講演が行われる建物は6年前にモダンな形のものに改築され、彼の研究室もガラスばりの近代的建造物になったそうです。しかし、スウェーデン政府は箱物には金をかけても、目に見えない中身には金をかけない主義らしく、ここでは、研究所の家賃から人件費、すべてに金を払う必要がある上に、もっとも大きいスウェーデンのグラントでさえ、それを賄うに十分ではなく、自分自身の給料と研究費を稼ぐために別の国にも研究室をもっているのだという話。間接経費がグラントに込みになっているそうです。グラントが切れたら研究室スペースを取り上げられ、実質、研究不可能になるという状態。かつて近所のアパートを借りてオフィス兼研究室の一部に当て、研究所のラボスペースを減らすことを真剣に考えて交渉したそうですけど、却下されたとのこと。
二人ともロシア人で一人はモスクワ、もう一人はウィーンに二つ目の研究室をもち、行ったり来たりして、やりくりしているようです。国の人口が少ないスウェーデンは当然、科学に回るカネも少ないわけで、その額は研究所を回していくには不足。そんな状況では、福祉国家のスウェーデンではスウェーデン人は誰も不安定な研究者になりたがらない、なぜなら適当な仕事につけば一生安泰だから、ということ。研究所にいるのは外国人ばかり。最近は、好調な中国経済のおかげで中国人学生が奨学金をもってきてくれるようになったので、助かっているのだそうです。
どうも福祉国家スウェーデンでは学生に対しては給料を支払う義務があり、給料であるがゆえに付帯する諸費用が高額なので負担がバカにならないのだそうです。一方、ポスドクには給料を払う必要はなく、Stipendでよいので、付属する諸費用をカバーしなくてもよい分、コストが抑えられるそうです。という理由で、奨学金を持っていない学生はとるつもりはないという話
学位取得のお祝いパーティーに一人だけいた日本人の人とも話をする機会がありました。イギリスに数年いてスウェーデンに移ってきて数年、独立したくてグラントに応募はしてみたが残念ながら運にめぐまれず、今年末に伝手を頼って日本の大学に帰るのだという話。

今や研究者は世界中どこにいっても「運」次第だと私も思います。「運も実力のうち」とはいいますが、私にいわせれば「実力も運のうち」です。しかし、ついていない時に運のせいにしたり、ついているときに実力だと勘違いすると、運は離れていくように思います。またこの運の動きには慣性の法則が働いているようで、離れていく運を引き止めるのは大変です。

彼は旧帝大出身で、ここの研究室からももうすぐN紙の姉妹紙に論文が通りそうだとのことなので、実力は十分です。成功する、しないの差は紙一重にしかすぎず、どちらに転がるかは運です。彼はこれまでのキャリアパスにあまり満足できていない様子でした。その原因は、ひょっとしたら、その眉間のシワのせいではないか、とひそかに思ったのでした。実力も運のうち、苦しい時こそ、ニコニコと楽観的に淡々と努力を継続すれば運が向いてくるのではと思うのですが。外国でアジア人研究者が集まっている時、日本人は割とすぐわかります。日本人は多くの人が難しそうな顔をしているのです。

パリもストックホルムも観光で行くには素晴らしいところだし、短期間住むのも楽しいでしょう。しかし、そこで長期的に研究者として生活していくのは大変です。パリの知り合いも郊外に5000万円ほどする家を25年ローンで数年前に買ったところで中学生の子供が二人。幸いヨーロッパはアメリカと違い大学費用が安いので子供の高等教育のために蓄財する必要はないのだそうですが、決して明るい未来が見えているわけではありません。ストックホルムの知り合いも子供が二人、夫婦共稼ぎでなんとか。増える難民と移民問題に、スウェーデンもフランスも政府は公共サービスをカットし緊縮財政政策をとりつつあるようで、ヨーロッパの研究者には逆風が吹いているようです。
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