tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

ケアンズ(豪州)と奈良 by 寮美千子さん/観光地奈良の勝ち残り戦略(123)

2018年05月09日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
昨日(5/8)「ヤバい、徳島県が宿泊者を増やしている!」という記事を当ブログに書いた。徳島県が外国人宿泊客を増やしているので、奈良県を追い抜くかもしれない、と書いたのだ。その記事を私のFacebookに転載したところ、現時点で42件ものコメントと132件のリアクションをいただいた。奈良の宿泊観光については、やはり皆さん危機意識をお持ちなのだ。
※トップ写真はケアンズのハイズホテル。寮美千子さんの記事から拝借

その過程で、松永洋介さん(ならまち通信社)から、奥さんの寮美千子さんの旅行記「観光都市ケアンズ」(毎日新聞奈良版「ならまち暮らし」第167回)をご紹介いただいた。この話は、貴重な発見の連続だった。2017年の夏、寮さんと松永さんは、オーストラリアを旅され(自腹視察旅行)、最後の3日間はケアンズの町に滞在されたのだ。ケアンズとは、JTBのサイトの「基本情報」によると、

オーストラリア東北部にあるクイーンズランド州の北部に位置し、トロピカル・ノース・クイーンズランドとよばれるエリアの中心都市。1876年に近郊で金鉱が発見され、その港町としてゴールドラッシュ時代に栄えた。世界最大のサンゴ礁地帯として名高いグレート・バリア・リーフへの玄関口で、リゾート客や観光客で賑わう。コロニアル調の歴史を感じさせる建物やおしゃれな飲食店などが並ぶ町は、小ぢんまりとしていて徒歩で回れる程度。日帰り圏内にはダイビングやゲームフィッシングが楽しめるスポットも多い。町からひと足のばした内陸部には熱帯雨林が広がり、オーストラリアにしか生息しない珍しい動植物を見ることもできる。

かいつまんで旅行記の内容を紹介すると、お2人が宿泊されたのはヘリテージ(歴史的建造物)ホテル。料金は1泊朝食付き2人で7,000円。部屋は「天井が高く、美しい彫刻が施され、最高だ」。

町にくり出すと「いたるところに案内所がある。マリンスポーツ用品店の半分が案内所になっていたりするのだ。実に多彩なツアーがあり、それを、超絶的にわかりやすく解説してくれる。説明のスキルが確立している」。

2日目に訪ねたグレートバリアリーフ(世界最大のサンゴ礁地帯)の島では「バスが来る集合場所の風景も、係員がその場でネットのストリートビューで見せてくれたから、安心だ」「感心したのは、行った先々で専門家が待ち構えていたこと。文化センターでも熱帯雨林でも、実に詳しくわかりやすい解説をしてくれる。旅はただの物見遊山ではなく、その土地の持つ意味や価値を知るための学びの場なのだ」「彼らは、自分たちが持っているものの価値をよく知っている。そして、それを誰にでもわかるように伝える努力を最大限している」。

以前、デービッド・アトキンソン氏が、日本では文化遺産の施設に入っても、説明書きが不十分で学芸員は不親切。貼り紙は禁止事項ばかり。観光客をお迎えしようとする姿勢がない、などと書いておられたが、これで私も納得した。

「ケアンズの人口は15万人。歩いて回れるほどの小さな町だが、年間宿泊者数はのべ1030万人。奈良市の人口はケアンズの2倍強だが、年間宿泊者数は160人、一桁低い。この差はどこから来るのか」「ケアンズは、知の興奮に満ちた旅を提案している。旅行者の誰もが労せずしてその魅力を享受できるシステムが確立している」。

「知の興奮に満ちた旅」の提案、「労せずしてその魅力を享受できるシステム」の確立、これは素晴らしいキーワードである。この辺りが奈良観光では欠けているのだ。これは目からウロコだった。オーストラリアの最大の産業は「観光業」だそうだが、やはりその取り組みはスゴイのだ。寮さん、松永さん、ありがとうございました。では最後に、寮さんの記事全文を紹介しておく。

「ならまち暮らし167 観光都市ケアンズ」寮 美千子
 (毎日新聞奈良版 2017年8月30日付)

オーストラリア自腹視察旅行、帰国の飛行機待ちのケアンズの町で、思いがけず3日間、自由時間が取れた。観光するつもりではなかったから、何の下調べもしていない。とりあえず今宵(こよい)の宿を探そうと、町の観光案内所へ。

「ともかく安い宿を」と言うと、すぐにネットで検索。町の中心部の1泊朝食付き2人で7000円の宿を紹介される。「でも、ここはヘリテージ・ホテル。改築ができず、壁が薄いんです。下のパブの騒ぎが聞こえますが、それでもいいですか」と打診される。歴史的建造物に泊まれるなんて、願ってもない。即決した。その場で支払いまでできた。

行ってみると実にすばらしい部屋。天井が高く、美しい彫刻が施され、最高だ。同じ階にはマッカーサーが泊まった部屋もあった。ケアンズには古い建築物が数多くあり、町の風情になっている。シドニーも同様だった。築100年という建物はざらだ。

部屋に落ちついてから町に繰りだし、また案内所へ。驚くべきことに、町の中のいたるところに案内所がある。マリンスポーツ用品店の半分が案内所になっていたりするのだ。実に多彩なツアーがあり、それを、超絶的にわかりやすく解説してくれる。説明のスキルが確立している。

1日目はアボリジニ文化センターを見て、世界遺産の熱帯雨林の上をゆくロープウエーに乗ることに。2日目はグレートバリアリーフの島へ、フェリーで渡ることにした。カードで支払いを済ませ、領収書を兼ねる印刷物をもらう。これには日程が詳しく書かれている。バスが来る集合場所の風景も、係員がその場でネットのストリートビューで見せてくれたから、安心だ。

ツアーには添乗員はいない。印刷物に基づいて自力で動くことになる。感心したのは、行った先々で専門家が待ち構えていたこと。文化センターでも熱帯雨林でも、実に詳しくわかりやすい解説をしてくれる。旅はただの物見遊山ではなく、その土地の持つ意味や価値を知るための学びの場なのだ。海遊びが中心の珊瑚礁(さんごしょう)の島の散策路にも、日英中の3カ国語で、島の成り立ちの歴史からアボリジニの文化まで、わかりやすい解説があった。

彼らは、自分たちが持っているものの価値をよく知っている。そして、それを誰にでもわかるように伝える努力を最大限している。ケアンズの人口は15万人。歩いて回れるほどの小さな町だが、年間宿泊者数はのべ1030万人。奈良市の人口はケアンズの2倍強だが、年間宿泊者数は160万人、一桁低い。この差はどこから来るのか。

奈良には海がないが、さまざまな意味でケアンズに負けない魅力があると確信する。ケアンズは、知の興奮に満ちた旅を提案している。旅行者の誰もが労せずしてその魅力を享受できるシステムが確立している。手の届きやすい価格で、特別の金持ちである必要もない。

奈良の議員は視察に行くべきだ。すべてお膳立てされた視察旅行ではなく、1人で町に放り出されるような旅を。そうすれば、ケアンズがどれだけ観光客に親切な町か、思い知るだろう。(作家、詩人)=次回は9月13日
写真:宿泊したケアンズのハイズホテル。コロニアル建築の広いベランダでの朝食が心地よい
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