あるはずのないところにクロッカスが咲く。
薪ストーブの人に墓場で会った。
彼岸の入りに、花だけ供えようと朝早く行ってみたら、この辺の人達ほとんどが、家の主自ら(つまり爺さんばかり)が墓掃除をして花を活け線香をあげて周りの墓(親戚縁者家の墓)にも参っている。
私は少し急ぐ用もあって、花と水入りヤカンしか持参しない状態なのでバツが悪かった。
墓の周りに杉の葉が散らばっていたけれど、掃除用具を持っていかなかったので仕方ない。
当然のことながら、誰も自分のとこの墓周り以外は掃除をしたりしないのは、出過ぎたまねをしてはいけないという意識があるのだろう。
というわけで次の日に掃除用具を持って、のこのこ出向いた墓場で彼と出くわしたのだ。
彼は通りがかりに、昨夜の強い風で花瓶が倒れていないか確認に来たとのこと。
確かに夜中に強風吹き荒れて、目覚めた直後に2階から見下ろして見ると薪に掛けたシートも画像のように乱れていた。
隣のお墓のペットボトルに挿した花は倒れていたので、これを直すのもいけないということはなかろうとお節介をした。
彼は私より年下なのに腰の曲がった人で、よくまぁ丸太を運べたものだと思って聞いてみたら、橇(そり)を使ったと言う。
屋根の雪下ろしをしないでよかったほどの小雪だったけれど、まったく雪が積もらなかったわけではないので、タイミングを見計らい橇で道路まで水平移動をして車に積んだとか。
私の苦労した坂を自分が一輪車であげるなんてできないと苦笑していた。
問わず語りに教えてくれたのだが、彼は力自慢とは言わなかったけれど、背骨の圧迫骨折を一度に二箇所やってしまったということ。
リュウマチが先か後か聞かなかったけれど、障害者手帳も持っているということだったが、圧迫骨折で身長が5センチ縮んだそうだ。
やってしまった時には、自分で運転して病院に行き、医者にびっくりされたと言い、すぐに入院を告げられたのに、どうしても入院はできない事情があると、痛み止めの強い注射を打ってもらって帰って来たとかなんとか。
夕方に、また、裏の藪にある我が目の敵の根絶やししたいヤツを抜いている時に、彼がやって来た。
薪のお礼を、私が帰省したら渡そうと用意していたのだとのこと。
思いがけない律儀さに恐縮しつつも、私がやった残材処理分の積み上げた切り口や乱雑さを見られたのが恥ずかしかった。
こういう付き合いの積み重ねが、18歳でこの地から離れた私の、郷に入ることだ。
昨年か一昨年に取り上げた紫色の一輪草(この辺りではチャワンカケという)も咲いた。