蝮2匹を入れていたのは肥料の空袋で、なぜか鞭のような細い枝が束ねられて袋に突っ込んであり、口をそれごと紐で縛ってあった。
窒息死させない配慮の他にも意味がありそうなので、忘れないうちに聞きだしたい。
蝮が要るかと聞きに来た時に、一升瓶が必要だと言っていたので、家の中を捜しまくったけれど無くて、2Lのペットボトルを持っていった。
蝮を入れる時に、背の高い容器でやらないと蝮が跳び出すこともあるので、一升瓶が最適なのだと言う。
買っていった蝮漬け用焼酎は一升瓶だが、中身を移して流用したくても茶色い瓶は蝮のだす汚れを観察できない。
仕方ないのでペットボトルでいくかということになり、友人は私に近づくなと時々注意をしながら実行する。
小さい方が雄で、この時期の蝮は気が立っているから気をつけないといけないということだった。
袋からダンボール箱に投げ入れた蝮ペアを覗くと、猛烈な素早さで動き、ばたばたという音を立てて威嚇するのは雄。
雌は大きい身体をぐにゃぐにゃ折りたたんで様子見の状態を静かに保っている。
あおり運転などで問題を起こすのは、たいてい助手席に恋人を乗せていて格好つけたがる男が多いようだけれど、あれと同じか少し違うか。
バーベキュー用の火ばさみで雄を掴んで地面に置くと同時に首元近くを履いた長靴で踏みつけ、素手で頭を口が開かぬように掴んだ。
慣れているようではあるが、用心深く緊張した面持ちでやる友人が格好良くおごそかに見えた。
蝮を掴むときは素手でなければいけないとここでも講釈を垂れて、それは電動工具を扱う時と同じだ。
さて、雌の方はと言えば、入れようとしたペットボトルの口が小さくて、と言うより腹が大きくて入らない。
いくら腹をしごくようにして入れようとしても駄目で、あまりふさわしくないけれど仕方なく、別のペットボトルに無理やり入れる。
何かを喰って消化されていない状態ではなく、子持ちなのだろうと言う。
これが本当につがいで妊娠中であるなら、ことが済めばそれで良しという雄ではなく、雌を守るのか、それともしつこいだけなのか。
子持ちシシャモの子は卵だけれど、蝮は卵胎生で子は蛇で生まれてくるのだから子持ちという言い方はふさわしい。
1匹の雌が8匹まで産むのを見たことがあると友人は言う。
彼は私を『ニホンミツバチのお師匠さん』と他人に紹介したりするので、今後の私は彼を『蝮のお師匠さん』と呼びたい。
昨日の朝の雄雌の様子は、吐瀉物か排泄物かで水が濁っているのが見てとれる(特に雌の方)。
今朝は濁っていないけれど、なにか白い紐状のものが水中にあった。