さてっと、未読の庄野潤三なのですが、
どれから、読んだら良いのだろうと思っておりました。
そこはそれ、お薦めの一冊『 明夫と良二 』を今日読む。
『 ざんねん 』という小題の箇所が印象深く。
次を読むのが勿体ないような気がしておりました。
そうそう。『 姉と弟 』と題する箇所のなかに
『 房州の海岸町にて 』というのが出てきたのでした。
兄弟で姉のところへ行ったあとの会話でした。
「 『 和ちゃん、喜んでいたよ。帰りにこれくれた 』
紙袋にじゃこの入ったのを、明夫は机の上に置いた。
結婚式のあとで、房州の海岸町にいて、
小さいころから和子を知っている井村の友人が、
お祝いにひじきとじゃこと鰹節をどっさり送ってくれた。
和子が、その時、
『 海産物のお店がひらけるくらい、頂きました 』
と井村のところに報告したくらいで、主人の家、
世話になった仲人さんの家、井村の家と自分のところと、四軒に分けたが、
ひじきだけはまだ一年分くらい残っているというのであった。
この気前のいい友達は、井村の家族が東京へ引越して来た
その翌年の夏に、みんなで泳ぎに来るようにといって、
彼の町から汽車でひとつ先の駅に近い、小さい宿屋を紹介してくれた。
和子は小学校一年、明夫は三つ、良二はまだ生まれていなかった。
その時以来、子供が夏休みになると、いつもここへ来て、
せいぜい二晩泊りか、長くて三晩であったが、岩の窪みにいる小魚を
つかまえたり、泳いだりして過すようになった。
・・・・井村の三人の子供はみな、外海に面した
ここの浜で泳ぎを覚えたのであった。
『 もう和ちゃんのところ 』
と明夫はいった。
『 このくらいしか、残っていなかったよ 』
よほどいいじゃこを送ってくれたらしくて、
井村の家族はみんな、おいしい、おいしいといいなが食べてる。・・ 」