「兵庫のわらべ歌」で、水の歌があるのでした。
「水清め」と「若水汲み」。それを順番に引用。
濁りしゅめしゅめ ( 水清め )
濁(にご)り しゅめしゅめ
丹後のおじの子が 水汲みきよる
( 宍粟(しそう)郡千種(ちくさ)町岩野辺 )
注: しゅめしゅめ = 「 澄め澄め 」の訛り。
「 山深い村に住む人たちは、谷あいの水や湧き水の所を
手で掘って水たまりを作り、その水を利用した。
はじめ濁っていた水が、早くきれいになるように
と唱えた『 水清め 』の歌である。 」 ( p148 )
「日本わらべ歌全集」は各巻の終りの方に県の地図と地名が載って
おります。宍粟郡千種町は、鳥取県と岡山県と両県との県境にある。
福とんぶり ( 若水汲み )
福とんぶり 徳とんぶり ( 養父(やぶ)郡養父町森 )
「 元旦に使う水は、年男が早朝に恵方から汲んでくる。
この若水を汲むとき、豆がらを焚いてこの歌をとなえた。
若水は、昔、宮中で立春の日の早朝天皇に奉った水をいったが、
後世はもっぱら元旦に汲んで一年中の邪気を払うものとされた。
万葉集に『 月読の変若(おち)水 』という言葉が出ていて、
変若(おつ)は元へもどる。若返るの意。
この水を飲み、浴びると、人も若返るという神聖な水で、
若水もこの信仰から出たものであろうか。
若水を汲む場所は、川・池・井戸などで、県下でも
地域によって多様なやり方が行われている。 」
【類歌】
〇 ふくとう。( 養父郡大屋町蔵垣 )
〇 年徳さん、福おくれ。( 美方郡美方町広井 )
〇 若とんぶり。( 美方郡浜坂町 )
〇 とんぶりや、とんぶりや、若とんぶりや。( 養父郡関宮町 )
( p162 )
ちょっと、気になって、兵庫県の近県のわらべ歌の目次をめくったのですが、
この『 若水汲み 』というのは出ておりませんでした。
若水汲みで、思い浮かぶのは、歌人岡野弘彦氏です。
岡野氏は、大正13年7月7日生まれで、神主を継ぐはずだったそうです。
今回の最後には、その岡野氏へのインタビューからの引用。
「 私のところは三重県の伊勢の西の端です。
ちょっと北へ行くと伊賀、ちょと西へ行くと大和です。
この三つの国のちょうど境になるわけです。・・・ 」( p24 )
「 小学校で僕はわりあい歌と縁ができるようになりましてね。
お正月は、子どもなりにきちんと着物を着せられて、
白木の桶に若水を汲みに行くんです。
今朝汲む水は福汲む、
水汲む、宝汲む。
命長くの水を汲むかな
と三遍唱えて、切麻(きりぬさ)と御饌米(おせんまい)を
川の神様に撒いて、白木の新しい桶でスゥーッと
上流に向かって水を汲むわけです。
うちへ帰ってきて、それを母親に渡すと、
母親はすぐに茶釜でお湯を沸かして福茶にする。
残りは硯で、書き初めの水にしたりするわけです。
それを五つのときからさせられました。
ちょうどその時間、夜中の一時くらいですが、
上の神社の森のお社から、村の青年たちを手伝わせて
元日のお祭りをしている父親の
祝詞(のりと)の声が川音に交じって聞こえてくるのです。 」
( p20 「岡野弘彦 インタビュー集」本阿弥書店・2020年)
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