和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

戦後70年談話とイソップ寓話。

2015-08-15 | 本棚並べ
今日の産経新聞一面のトップ見出しは、
「『謝罪』次世代に背負わせぬ」。
同じ一面に櫻井よしこ氏の評価を載せており、
その評価から少し引用。

「第一に、戦後の日本に対する世界の支援に
深く感謝し、子や孫たちに『謝罪』を続ける
宿命を背負わせないよう明記している。
『侵略』という言葉を使ったが、一人称ではなく
歴代政権の姿勢として、国際社会の普遍的な価値観
としての言及だったのは、非常に良かったと思う。
・・・・・」

「次世代に背負わせぬ」という言葉が気になって、
本棚からイソップ寓話の本を取り出してくる。
さがすと「オオカミと子羊」と題したお話がある。

以下に3冊より順次引用していきます。
まず、塚崎幹夫訳「イソップ寓話集」(中公文庫)
つぎ、河野与一編訳「イソップのお話」(岩波少年文庫)
最後、大塚光信校注「キリシタン版エソポ物語」(角川文庫)

「   オオカミと子羊 

子羊が川で水を飲んでいるのを見たオオカミは、
この子羊を食べるのを正当化するために何か
うまい口実を見つけたいと考えた。そこで、
オオカミは自分は川上にいたのに子羊に、
おまえは水をにごらせておれが飲めないようにしている
と文句をつけた。子羊は、ぼくはくちびるの先で
飲んでいるだけだし、それに川下にいるのだから
川上の水をにごらせることはできないと答えた。
ねらいがはずれたオオカミはふたたびいった。
『しかし、おまえは去年おれの親父に恥をかかせた』

『ぼくはそのころにはまだ生まれてさえいませんでした』
と子羊は答えた。
オオカミはいった。
『おまえがどんなに上手にいいわけをしようと、
おれがおまえを食うことに変わりはないぞ』

悪いことをしようと決めている人たちに対しては
どんな正しい弁解も効果がない、
ということをこの話は教えている。 」(p201)


つぎに岩波少年文庫の河野与一訳を引用


「  オオカミと子ヒツジ

オオカミが、川で水をのんでいる子ヒツジを見て、
なにかもっともらしい理くつをつけてたべてしまおう
とおもいました。そこでじぶんは、川上のほうにいるのに、
子ヒツジがにごらせたものだから、水がのめなくなったと、
もんくをいいました。そこで子ヒツジは、
じぶんは口さきだけでのむのだし、
それに川下のほうにいるのだし、
川上の水をにごらせるはずはないといいますと、
オオカミは、はぐらかされたので、
『しかし、おまえは去年、おれのおやじの
わるくちをいったじゃないか。』と、いいました。
子ヒツジが、そのころは、
まだ生まれていなかったといいますと、
オオカミは子ヒツジにいいました
『いくらおまえがうまくいいぬけをしても、
やっぱりおまえをくうことにする。』
人をひどいめにあわすために理くつをつける人には、
いくらいいわけをしてもなんにもなりません。」
(p80~81)


最後に1593年、天草で刊行された
イエズス会宣教師によるイソップ物語の口語訳から
引用することに。

「 狼と、羊の譬への事。

ある川端に、狼も羊も水を飲むに、
狼は川上に居、羊の子は川裾に居たところで、
かの狼この羊をくらはばやと思ひ、
羊の傍に近づいて云ふは、
『そちはなぜに水を濁らいで、わが口をば汚いたぞ』
と怒ったれば、羊の云ふは、
『我は水裾に居たれば、なぜに川の上をば濁そうぞ』と。
重ねて狼の云ふは、
『おのれが母、六か月前にも水を濁らしたれば、
いかでかその罪を汝はのがれうぞ?』。
羊の云ふは、
『その時は未生以前の事なれば、さらにその罪我に当らぬ』。

また狼より云ふは、
『汝また余が野山の草をくらうた。
これまた重犯なれば、なぜにのがそうぞ?』。
羊答へて云ふは、
『我はまだ年にも足らぬ若輩でござれば、
草を食むこともまだござない』と。
重ねて狼、
『汝はなぜに雑言するぞ』
と大きに怒ったれば、
羊の云ふは、
『我はさらに悪口を申さぬ。
ただ咎(とが)のない所謂(いわれ)を申すばかりぢゃ』と。
その時、狼
『所詮問答は無益ぢゃ。何であらうともままよ。
是非におのれをばわが夕飯にせうずる』と云うた。
これを何ぞといふに、
道理を育てぬ悪人に対しては、
善人の道理と、その謙(へりくだ)りも役立たず、
ただ権柄ばかりを用ゐうずる儀ぢゃ。」
(「キリシタン版エソポ物語」角川文庫p50~51)



昨日の安倍晋三首相による
戦後70年談話は、テレビ録画してあるので、
あらためて再生してみます。
というのも、
今日のテレビニュースだけ見るならば、
なんだか、狼の言い分ばかり声高に紹介され、
どうしても、
子羊の言い分が断片的で、道理の筋が確認できない。

テレビニュースが、せめて
イソップ寓話の爪の垢でも煎じて飲んでくれたなら。
現代版「狼と子羊」の全体像が、
国民にも、分かりやすく報道されるのに。
そう、私は思う(笑)。






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