現代詩文庫特集版として「戦後名詩選1・2」(2000年)というのが出ておりました。なんでも、現代詩文庫160冊のなかから選んだアンソロジーなのだそうです。野村喜和夫・城戸朱理編。
そこから、この季節にちなんで、秋が登場する二篇。
最初は田村隆一。
このアンソロジーで、田村隆一は5篇が選ばれております。
その中に、「毎朝 数千の天使を殺してから」が入ってる。
選者によりますとこの詩は「文明批評と詩的幻想とを合体させた後期田村隆一の技芸を集約して、これも見事というほかない。」とコメントが載っております。
ではその詩から
『毎朝 数千の天使を殺してから』
という少年の詩を読んだ
詩の言葉は忘れてしまったが
その題名だけはおぼえている さわやかな
題じゃないか
・・・・・・・・・
海岸まで乾いた道を歩いて行く
台風が過ぎさったばかりだから空には
積乱雲
それでいて海の色は秋
夏と秋とが水平線によって分割されている
不透明な空間を
細い川がながれている
おれの痩せた手に浮きあがっている弱々しい毛細血管
大きな橋がかかっているはずはない
・・・・・・・・・・・
うん。この少年の詩の題名に触発されたようにして、詩人の頭に数千の天使が飛びかってもいるような、その後の詩人の道筋を知らせてくれるような詩に秋が登場しておりました。
もうひとりは渋沢孝輔。
この人は1930年長野県生まれで、1998年に亡くなっておりました。
4篇の詩が掲載されております。そこには「夾竹桃の道」も。
ではその詩から
苦しい夏も
熱狂的な気晴らしも果てた
われわれの愛も詩法も
破れかぶれだとひとはいうが
いいではないか その通りなんだから
この季節とともにいまあまりにも身近に
突然に果て過ぎ去ろうとしているものたちがあり
いつのまにか忍び寄っていた
ひそかな翳りが
眼路いっぱいにひろがる気がする
・・・・・・・・・・
苦しい夏も
熱狂的な気晴らしも果て
たとえば扇と秋の白露と先に置くのがどちらであろうと
いまはただ思いもかけぬ
田舎道の夾竹桃の花のまえで立ちすくみ
立ちすくみながらひとは時に
・ ・・・・
早くも白い炎熱の時のおわりに
幾千の波間の絃や
幾千の草間のこおろぎの闇をよこぎり
きのうまではまだしも明るかった
・ ・・・・・・・
こうして早くも白い炎熱の時のおわりに
われわれのついのつとめの座を待つまでもなく
この田舎道が通うあたりのひだひだに染み入ってくる
あまりにもしずかな影を扱いかねて
気遠くあまりにもしずかな影を扱いかねて
・ ・・・・・・・・・・・・・・
それにしても、少年から遠ざかるほどに、「毎朝 数千の天使」が現われなくなって久しいのですが、せめてものこと、数行の詩を引用し、すぐに消えてしまう「今朝の天使」を書き留めておくのでした。
そこから、この季節にちなんで、秋が登場する二篇。
最初は田村隆一。
このアンソロジーで、田村隆一は5篇が選ばれております。
その中に、「毎朝 数千の天使を殺してから」が入ってる。
選者によりますとこの詩は「文明批評と詩的幻想とを合体させた後期田村隆一の技芸を集約して、これも見事というほかない。」とコメントが載っております。
ではその詩から
『毎朝 数千の天使を殺してから』
という少年の詩を読んだ
詩の言葉は忘れてしまったが
その題名だけはおぼえている さわやかな
題じゃないか
・・・・・・・・・
海岸まで乾いた道を歩いて行く
台風が過ぎさったばかりだから空には
積乱雲
それでいて海の色は秋
夏と秋とが水平線によって分割されている
不透明な空間を
細い川がながれている
おれの痩せた手に浮きあがっている弱々しい毛細血管
大きな橋がかかっているはずはない
・・・・・・・・・・・
うん。この少年の詩の題名に触発されたようにして、詩人の頭に数千の天使が飛びかってもいるような、その後の詩人の道筋を知らせてくれるような詩に秋が登場しておりました。
もうひとりは渋沢孝輔。
この人は1930年長野県生まれで、1998年に亡くなっておりました。
4篇の詩が掲載されております。そこには「夾竹桃の道」も。
ではその詩から
苦しい夏も
熱狂的な気晴らしも果てた
われわれの愛も詩法も
破れかぶれだとひとはいうが
いいではないか その通りなんだから
この季節とともにいまあまりにも身近に
突然に果て過ぎ去ろうとしているものたちがあり
いつのまにか忍び寄っていた
ひそかな翳りが
眼路いっぱいにひろがる気がする
・・・・・・・・・・
苦しい夏も
熱狂的な気晴らしも果て
たとえば扇と秋の白露と先に置くのがどちらであろうと
いまはただ思いもかけぬ
田舎道の夾竹桃の花のまえで立ちすくみ
立ちすくみながらひとは時に
・ ・・・・
早くも白い炎熱の時のおわりに
幾千の波間の絃や
幾千の草間のこおろぎの闇をよこぎり
きのうまではまだしも明るかった
・ ・・・・・・・
こうして早くも白い炎熱の時のおわりに
われわれのついのつとめの座を待つまでもなく
この田舎道が通うあたりのひだひだに染み入ってくる
あまりにもしずかな影を扱いかねて
気遠くあまりにもしずかな影を扱いかねて
・ ・・・・・・・・・・・・・・
それにしても、少年から遠ざかるほどに、「毎朝 数千の天使」が現われなくなって久しいのですが、せめてものこと、数行の詩を引用し、すぐに消えてしまう「今朝の天使」を書き留めておくのでした。
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