山梨百名山から見る風景

四方を山に囲まれた山梨県。私が愛して止まない山梨の名峰から見る山と花と星の奏でる風景を紹介するページです。

月光の薬師岳 鳳凰山(前編)

2012年08月06日 | 山梨百名山
 木星と金星が接近している夜明けの東の空は、そろそろオリオン座も加わって賑やかになっている。以前から撮りたいと思っている風景、それは月光に照らされた薬師岳岩峰と富士山の上に昇って来るオリオン座だ。この日は十七夜の月が西に傾いた頃に夜明けを迎える日で、月をライティングに利用するには絶好の日だ。昨年も同じような条件だった8月中旬、ペルセウス座流星群とともにオリオン座を狙ったが、薬師岳の手前、砂払山での撮影に留まった。今年こそは・・・という思いがあったが、早い時間の出発は難しく、今回は南御室小屋にテント泊し、深夜に出発して未明の薬師岳を目指すことにした。

 平成24年8月4日
 業務を終えて甲府を出発したのは10時半になってしまう。コンビニで買い物し、夜叉神峠登山口を出発したのは12時半。流れる汗をぬぐいながら夜叉神峠まで80分もかかった。峠から見る白根三山は見事に雲の中だ。夏場のこの気温ならば山には雲が湧いて当然だ。雷に出遭わないことを願うだけだ。

    夜叉神峠登山口、12時半に出発。さすがにこの時間に登って行く人は見かけない。


    夜叉神峠。白根三山は雲の中。

 夜叉神峠の先の急登を登り、夜叉神の森、杖立峠の長い登りを越え、苺平には午後5時半に到着した。最近の鳳凰山はトレイルランの名コースにでもなっているのか、10数人のトレイルランナーとすれ違う。減速せずにやって来るランナーもいて、避けるほうも気を使う。そして6時15分、ひとまずは目的地の南御室小屋に到着した。さっそくテントの受付を済ませて幕営する。深夜にテント張ったままで星空の撮影に行くこと、撤収がお昼を過ぎるということを小屋番さんに話し、翌日のテント設営客に邪魔にならないよう、いちばん隅にテントを張らせていただいた。

    夜叉神の森。大きな倒木が横たわる。


    杖立峠。雲はますます厚くなっているように見える。果たして星は見えるのか?

 南御室小屋の水は冷たくておいしい。引かれたホースから出ている水もあるのだが、ここは冬に訪れた時に汲み慣れている水場に行って汲む。これこそ本当の南アルプス天然水だ。水場のまわりにはクルマユリや特産種のカイタカラコウなどが咲いていた。小屋の前で図鑑を見ながらテガタチドリの在処を小屋主さんに尋ねている団体さんがおり、またしてもしゃしゃり出て小屋の横にあるお花畑を案内して回った。テガタチドリとキバナノヤマオダマキ、タカネイブキボウフウがちょうど見ごろ、ヤナギランが咲き始めていた。この機会にカイタカラコウも紹介した。
 夕食をとり、7時半に寝て12時に起床の予定だったが、こういう時の睡眠時間調整のために持ち歩いている睡眠薬を切らしてしまい、そのまま横になったがやはり寝付けない。少しウトウトして時計を見れば10時、次は11時半。眠れないままに外に出てみると、夕方とは全く違う空が広がる。明るい月が昇っているのに空気が澄んで星が輝いているではないか。月明かりで天の川こそ見えないが、頭の上に夏の大三角形が輝いている。こうなると、もう寝てはいられない。準備して未明12時半、小屋を出発する。

    南御室小屋のテント場に昇った十七夜の月。空が澄んで星が輝く。


    森に昇った月。しかし、これはピンボケ。

 下界の暑さは嘘のように山の上は涼しい。むしろシャツ1枚では寒いくらいだ。温度計を見れば気温11℃、フリースを着てちょうど良いくらいだが、歩くと暑い。樹林帯の中を1時間半ほど歩き、ぽんと眺望の良い砂払山の上に飛び出す。樹林帯の中から見えるはずの甲府盆地の明かりが見えなかったので、ひょっとしたらと思っていたが、予想通りそこは雲海の上の世界だった。西に傾き出した月に照らされて、花崗岩が白く輝いている。雲海の向こうには富士山が浮かぶ。そして月光の白根三山。なんとも素晴らしい景色だ。時間は午前2時、ここから先は三脚を担ぎながら存分に撮影しながら月光の鳳凰山を満喫する。

    月光の砂払山とカシオペア座  わかりにくいですが、岩峰の真上に昇っているのが斜め横W字のカシオペア座。


    月光の白根三山


    タカネビランジと雲海の富士   2段階フォーカス撮影だが、手前のフォーカスが甘かった。


    雲海に昇る金星と木星  下が金星、上が木星、その上の星団はプレアデス星団(スバル)。左の山は奥秩父山塊。


    月光の薬師岳  月明かりに輝く山頂の岩が美しい。

 砂払山から薬師小屋への下りは昼間でもルートがややわかりにくいが、夜はなおさらわかりにくい。どこを下りるのかと探せば、きちんとペンキマークがついている。そして薬師小屋の前をそっと過ぎて薬師岳に登る。月明かりに照らされた踏み跡がヘッドライト無しでも登れるくらいにくっきりと見えていた。

    薬師岳岩峰と夏の大三角形  月明かりのフレアが邪魔だが、うっすらと天の川も見える。左端の山は北岳。



    月光の薬師岳と雲海の富士  今回狙っていたのはこの構図。


    薬師岳山頂  ここからだと富士山は隠れてしまう。

 午前3時10分、薬師岳山頂に到着する。こんなきれいな月夜なのに誰もおらず、山頂とこの景色を独占する。星好きにとってはたまらない山上での至福のひとときだ。山頂を過ぎたところで薬師岳の双耳峰の間に富士山が見える場所があり、そちらに移動する。この場所は冬に来るとハイマツが雪にうずもれており、雪原の向こうに岩峰に挟まれた富士山が見えるお気に入りの場所なのだ。

    薬師岳に昇る金星と木星  オリオン座も昇って来た。


    観音岳と雲海に浮かぶ八ヶ岳


    月光の薬師岳岩峰群と白根三山

 再び薬師岳山頂に戻ると、ちょうど良い位置にオリオン座が昇って来ていた。朝焼けも始まっており、これから15分ほどが薄明の青い空に星が輝く、お気に入りの時間だ。撮影できる時間は短いので、構図を決めてシャッターを切りまくる。(といっても1枚撮影するのに30秒ほどかかるので、この時間帯は20枚くらいしか撮れない。)やがてオリオン座は朝の光の中に静かに姿を消していった。明るい金星と木星は日の出近くまで燦々と輝いていた。

    薄明の薬師岳に昇るオリオン座と金木星


    薄明の薬師岳岩峰と富士  オリオン座は朝の光の中に消えて行く。

 オリオン座が朝の光に消えた頃、今度は観音岳山頂を目指して歩き始める。夜明けまでに山頂に登り着くのは困難なので、中腹の良さげな場所から朝の富士山と白根三山を狙う。おそらくはタカネビランジもたくさん咲いているはずだ。眠気が襲ってきたが、ここはもうひとがんばりだ。(後編に続く)


    雲海に浮かぶ夜明けの八ヶ岳  夏にしては珍しい雲海と澄んだ空。

コメント (6)
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