(スイス観光局ホームページより)
暑い日々が続くので暑気払いに怖い話をもう一つお送りします。
1970年、夏、チューリッヒのそばの田舎の民宿に泊まった。上の写真のように晴天のチューリヒは素晴らしい。少し遊びすぎて夕方に出発し、レマン湖へと車を走らせた。やがてトップリと日が暮れる。田舎道には街灯も無く漆黒の闇。遠方の農家の明かりがかすかに見えるだけ。行けども、行けども民家が無い。やがて貧しげなに差し掛かる。古風な一軒の民宿がある。案内を乞うと、ドアが開いて中年の大男が無言で現れる。顔がフランケンシュタインに似ている。ドイツ語で一泊したいが、と言う。無言で頷き、入れという身振りをする。
2階の部屋へ泊まれという。薄暗い部屋には高さ3mもあるような古い洋服ダンスと堅いベットがある。何か出て来そうな気がしてタンスの方に眼が行ってしまう。フランケンシュタイン一族の子孫は、現在でもスイスに住んでいるという。それを思い出しながら廊下を見ると、そこに古風な扉付きの大きな本箱がある。そっと扉を開けてみると分厚い本が積んである。表紙を開いてみると人体解剖の図が、色彩鮮やかに多数印刷してある。髑髏や骨格の解説図もある。
怖くて眠れない。ウトウトしていたら真夜中になってしまった。は寝静まり物音一つしない。と、廊下の方でギ、ギーと扉が開く音がするではないか。家内も聞いたらしく、起きて見てきてという。意を決して見に行くと重い木の戸が半分開いている。誰も居ない。うず高く積んだ解剖書があるだけである。力いっぱい戸を閉めてくる。
朝、目が覚め窓から見下ろすと、民宿の娘がのパン焼き釜から棒状のパンを抱えて帰ってくる。
朝食は、パン、バター、ジャム、に大きなポットの熱い牛乳とコーヒーだけ。
怖い顔の主人が座り、やはり怖い雰囲気の妻と娘が無言で給仕してくれる。
ところが給仕の所作が実に丁寧で親切である。いかにも遠方から来た客人をもてなそうとしている気持ちがあふれている。暖かい雰囲気に包まれて質素な食事を楽しみながら、ゆっくりと食べる。朝食後、美味しかった。有難う。と主人へ言うとニャっとして「何処からですか?」、「シュツットガルトから来ました。日本人です。週末にはチューリッヒやボーデンゼーによく来ます」、「また是非ここに泊まって下さい」
本当にまた泊まってくださいと心から言ってくれる。何故、昨夜、彼らと話もせず部屋に上がったのが悔やまれる。フランケンシュタインの亡霊を怖がったのがウソのように思う。尚、フランケンシュタインの凄い画像を見たい方は下記のURLに12枚あります。怖がり症の方は見ないで下さい。(終わり) http://www5d.biglobe.ne.jp/~gogomaru/sunanofre/sample2.html