第二次大戦で日本がドイツ、イタリア、ルーマニア王国、独立スロバキア、ブルガリア王国、ハンガリー、フィンランドなどのヨーロッパ枢軸国陣営に入り参戦し、敗れたことの歴史的評価は色々ある。しかしドイツ人は同盟国から受けた恩義は決して忘れない。
1969年にドイツ政府のフンボルト研究費でマックスプランク研究所へ招聘された。
招聘期間中の月給は十分過ぎる位で、ボンに有った大統領官邸で歓迎会を開催してくれたり、国内周遊の観光旅行へも招待してくれた。そのような行事の時に一緒になった招聘研究者はブルガリア、ルーマニア、トルコ、などから来ていた。後に研究所の同僚ドイツ人に聞いたところ、「ドイツは第二次大戦中に受けた恩義を忘れないで恩返しをしているのです」と言う。
またシュツットガルト市に住んでいるとギリシャ人の移民やトルコからの出稼ぎ人が多いのに吃驚する。これも大戦中の恩義を返しているのだという。トルコもギリシャも正式には枢軸国陣営に参加はしなかったが、何か複雑な方法でドイツを支援したらしい。筆者を招聘したのは最後までよく戦った日本へ対する恩返しだという。
ある時、パリーの居酒屋のような飲み屋のカウンターで飲んでいた。隣に座っていたドイツ人の小父さんがいきなりドイツ語で、「フランスでは英語もドイツ語も通じなくていらいらの連続だ」と憤懣やるかたない様子。
ドイツ語で、日本から来て現在ドイツに住んでいると話した。狂喜して肩を抱いてくる。酔いの勢いでフランス人の悪口を始める、「やつらは、英語もドイツ語も分かるんだ。でも、わざとフランス語で返事をして、此方が困るのを楽しんでいるのさ。底意地が悪い!」とも言う。またドイツ語で答えてあげる。すっかり上機嫌になり、「今度戦争をする時は又組んでやろうぜ!イタリアはダメだ。すぐ負けるから」と言う。
こんな経験は一度だけだったが、兎に角ドイツ人は日本人が好きなようす。尊敬している様子もある。ベルリン陥落の後も日本は3ケ月も戦い続けたのだ。その事をドイツ人は決して忘れない。
欧米人は恩義をすぐ忘れる。恩を返さない。という俗説をよく聞くが、それは大きな誤解だ。
ドイツに限らず、欧米人は長期に渡って恩義を感じ、恩返しをしようとする。その裏側には怨みも日本人の想像以上に長期間忘れない。日本人は第二次大戦の間に、他国から受けた恩義を返そうと長期間努力して来ただろうか?
1969年から1970年にドイツに住み、ヨーロッパの国々を旅してみると、「日本人は忘れやす過ぎないだろうか?」と心配になってしまう。あれから38年後の現在も同じ心配をしている。
(続く)