東京駅前の旧丸ビルが無くなった。有楽町駅前の日劇ビルや朝日新聞社が消えてしまった。時の移ろいに何か空しい思いがします。
そして、よく買い物をした近所の馴染みのお店が突然倒産して消えてしまいます。跡地には見知らぬ商売が始まります。常日頃なじんで、生活の一部になっていた店が消滅するのです。暗く、悲しい気分になってしまうものです。この悲しさは年月が過ぎても忘れられないものです。
下の写真の回転寿司の店のあった所には、広い温室に熱帯の花々をあふれるように飾っていた園芸店・花屋さんがありました。店も広くて2棟の店内には鉢植えの花々が沢山売っています。店の前には蜜柑、柚子、柿、栗、葡萄の苗木が小さな実をつけて売っていたのです。毎年、年末になると見事なシクラメンの鉢を買うのが家内の楽しみでした。八重桜の苗やライラックの苗も買いました。何時行っても四季折々の花々が豊かに飾ってあるので、植物園へでも行くような気分で家内と散歩のように通ったお店です。
40年くらい前でしょうか、背の高い物静かな青年が一人で花々の苗を育てていました。消えのこる雪の間に鮮やかに咲くパンジーの苗を買ったのが付き合いの始まりでした。間もなく陽気な体格の良いお嫁さんが来て、温室を建て、その数が次第に増え、商売が繁盛します。アルバイトの若い男女を大勢使うようになり華々しい雰囲気の園芸店になりました。
それが数年前に突然倒産消滅しました。張り切って花を栽培し、あちこちから仕入れて来て、売っていた陽気な奥さんと、物静かな夫の姿が消えました。あれ以来二度と会っていません。何処か遠方へ行ってしまったようです。
しばらく空地になっていましたが、突然この回転寿司がやってきました。私は消えてしまった花屋さんの思い出を楽しむために時々食べに行きます。寿司を食べながら、「ああ、この辺には温室が有ったなあ!色々なランの花々が有ったなあー」と、花々のことを鮮明に思い出しながら食べます。その折々の家内の明るく輝く顔も思い出します。
新しいお寿司やさんは、値段の割には努力している店です。その上、私の心の中には美しい花々が有るので美味しく食べることが出来ます。
しかし、それと同時に世のはかなさを感じ、悲しい思いにさせられる場所でもあります。
楽しくて、悲しくて、はかなくて、せつない。 老齢になるとそんな気持になるもののようです。
貴方様にはそのような場所があるでしょうか?(終わり)