来年の1月に、「ポスト社会主義の政治経済学」という経済学書を出版する盛田常夫さんはハンガリーに20年以上住んで居ます。
彼のホームページ(http://www.tateyama.hu )を見ると、ハンガリーという社会はまさしく賄賂とコネの前近代的社会であることが活写してあります。このホームページは内容豊かですが、左欄のエッセイという項目をクリックすると事務所を改装した時の苦労話や病気になって入院したときの想像を絶するエピソードが書いてあります。
1989年のベリリンの壁の崩壊の後、ハンガリーは共産国家から資本主義国家へ体制変化した筈ですが、共産主義時代の社会の弊風がいまだに残存しています。先々月に彼が東京へ久しぶりに帰ってきた折に講演会があり色々な話を直接聞きました。ハンガリー社会のひどさに吃驚したことを忘れられません。例えば、病院へ行くと「受付」というものが無い。患者は診察室のドアの前にたむろしてひたすら診察の順番を待つのです。ドアには「診察は到着順では無い」と注意書きが出ているそうです。診察室から顔を出した看護婦へ素早くお金を握らせる。その金額によって診察順が決まるらしい。らしい、と書いたのは医者にコネがあって十分謝礼を出す患者である場合は看護婦へのわいろより優先するので明確なことが分からないのです。外人登録事務所も、空港の税関もすべて担当者にスマートに金を握らせて順番を貰う。わいろだけでなく役人へコネを付けて置くことも絶対に必要である。盛田さんが20年以上もハンガリーに住んでいるのでどんな場合でもコネを作る巧妙なすべを知っている。どんな細い糸でも相手に繋がっている糸を探し出せるのだ。細い糸をからめて太くしてゆく。社会全体に効率の良いマネージメントという考え方が完全に欠落しているのです。仕事をするにはまずコネをつけわいろを送り、相互信頼を作らないと全てが始まらないのです。
盛田さんの観察と結論は鋭いものです。「共産主義は持続可能な社会を作れない。自働崩壊する宿命にあった」。「共産主義は人間の良い性質や勤勉さを破壊し、個人を劣化させる」。「自働崩壊した共産主義体制が資本主義体制に移行するためには国家財産の略奪が起きる」。「この略奪の仕方は国によって異なる。ハンガリーでは倫理観欠如の略奪が横行した」。「略奪は国内にとどまらず外国の金融機関が参加して進行する」。「世界的な金融危機はハンガリーを壊滅状態へ追いやった」。「地獄から立ちあがる処方箋はあるのか?」などなどの問題を学問的に論考した結果を本として纏めたものが「ポスト社会主義の政治経済学」です。
ハンガリーの社会が前近代的な状態があるうちに、ロシアによっていきなり共産主義を押し付けられた歴史的事情も病状を一層悪くしているのです。ハプスブルグ家の統治は農民の近代人としての倫理観の成長を抑え、個人としての劣化を促したのです。
ハプスブルグ家の華やかさの陰が暗雲として現在のハンガリーへ繋がっているのです。
以上のような背景を知った上で、盛田さん著の「ポスト社会主義の政治経済学」を読むと、興味深く読むことが出来るとおもいます。いかがでしょうか?(終り)
今日も皆様のご健康と平和をお祈り致します。 藤山杜人