著者の大谷さんは、1972年生まれの評論家、サックス奏者、ラッパーで、今まで刊行された著書で最も知られているのは、菊地成孔さんとの共著『東京大学のアルバート・アイラー :東大ジャズ講義録』(メディア総合研究所 のち文春文庫)だろうと思われます。
この本の対象となった植草甚一(1908年~79年)さんは、推理小説をはじめとした外国文学、映画、ジャズ、街歩きなど様々なジャンルについて、評論やエッセイを書いた人です。晩年にはその行動、ライフスタイルがマスコミにも注目され、特に海外文化に憧れる若者に植草さんの著書は読まれていました。
古書店で本を読んでいる植草さん。
この本は、著者の大谷さんが、「植草甚一の単著を出版順に一冊一冊取り上げ、全著作のレビュー及び彼のスタイルについての研究をおこなった」ものです。丁寧な読み込みを行い、著作を紹介するとともに業績や生涯について言及した労作です。
著者は『植草が生きた二十世紀の日本は、ひと一人の人生が翻弄されてしかるべき大要因の連続であったにも関わらず、植草はそういった外部からの影響は完全にスルーし、ひたすら個人的な興味のうちに過去を綴ってゆく。このあたりの感性が、70年代後半の「若者たち」-政治の季節を過ぎ、ひたすらな個人消費へとむかってゆくセンス・エリートたちが、植草に共感したひとつの原因ではあるだろう』と記しています。
僕は、70年代半ばから学生生活を送ったので、大谷がいう70年代後半の「若者たち」の一人に当たり、当時、植草のジャズ関連の著作などを読み、そのライフスタイルに憧れもしました。その時に漠然と感じていた憧れの理由が、大谷により上記のように分析されていて感心しました。ただ、当時不況だったこともあり、憧れのままにならざるを得なかったのも現実でした。
この本を足掛かりにして、植草さんの著作を読んでみるのもよいのではないかと思います。僕は「植草甚一スクラップブック」(晶文社)全41冊を持っていますが、内容がバラエティに富み、独特の文体と相まって面白く、たまに再読しています。
【僕の持っている植草甚一関連の書籍】
植草甚一スクラップブックなど。
単行本も出た当時買いました。他にも持っているかもしれません。
学生の頃、初めて買ったのは「モダンジャズのたのしみ」です。これを読んでいたら、どんどんジャズが聴きたくなり、ジャズ喫茶にも通いました。
(参考)植草甚一スクラップ・ブック一覧
- 『いい映画を見に行こう』 晶文社、1976
- 『ヒッチコック万歳!』 1976
- 『ぼくの大好きな俳優たち』 1977
- 『ハリウッドのことを話そう』 1976
- 『サスペンス映画の研究』 1977
- 『ぼくの読書法』 1976
- 『J・Jおじさんの千夜一夜物語』 1976
- 『江戸川乱歩と私』 1976
- 『ポーノグラフィー始末記』 1977
- 『J・J氏の男子専科』 1977
- 『カトマンズでLSDを一服』 1976
- 『モダン・ジャズのたのしみ』 1976
- 『バードとかれの仲間たち』 1976
- 『僕たちにはミンガスが必要なんだ』 1976
- 『マイルスとコルトレーンの日々』 1977
- 『映画はどんどん新しくなってゆく』 1977
- 『アメリカ小説を読んでみよう』 1977
- 『クライム・クラブへようこそ』 1978
- 『ぼくの東京案内』 1977
- 『ハーレムの黒人たち』 1978
- 『ニュー・ロックの真実の世界』 1978
- 『ぼくの好きな外国の漫画家たち』 1978
- 『コーヒー一杯のジャズ』 1978
- 『ファンキー・ジャズの勉強』 1977
- 『ジャズの十月革命』 1977
- 『ジャズは海を渡る』 1978
- 『シネマディクトJの映画散歩 <イタリア・イギリス編>』 1978
- 『シネマディクトJの映画散歩 <アメリカ編>』 1978
- 『シネマディクトJの映画散歩 <フランス編>』 1978
- 『シネマディクトJの誕生』 1979
- 『探偵小説のたのしみ』 1979
- 『小説は電車で読もう』 1979
- 『ぼくのニューヨーク案内』 1978
- 『アンクルJの雑学百科』 1980
- 『ジャズ・ファンの手帖』 1979
- 『JJ氏のディスコグラフィー』 1978
- 『フリー・ジャズの勉強』 1979
- 『「ジャズ・マガジン」を読みながら』 1980
- 『植草甚一日記』 1980
- 『植草甚一自伝』 1979
- 別巻.『植草甚一の研究』 1980 知人たちの回想記。
なお、2000年代に再刊され、欠落していた映画関連など数冊は新たに購入しました。再刊されたので、現在でも入手しやすいと思います。