書店で手に取り、読みだしたらとまらないので購入した文庫本です。
(著者略歴)
西東三鬼(1900年~62年)の略歴ですが、岡山県に生まれ、日本歯科医専卒業後、シンガポールに歯科医院開業、帰国後33歳で俳句を始め、新興俳句運動に注力。1940年いわゆる「京大俳句事件」で検挙。42年に東京から神戸に転居。終戦後、現代俳句協会を創設。「旗」、「夜の桃」といった句集がある。
(裏ページにある本書の紹介)
(感 想)
この本は、第二次世界大戦中と戦後直後の神戸を舞台に国籍不明の人々が織りなすエピソードが連続して、稀にみる面白さです。登場する中では、エジプト人のマジット・ジルバ、その日暮らしの原井さん、バーのマダム(後に赤坂のナイトクラブのマダム)C子さんといったキャラクターが印象に残ります。
著者自身も流浪歴があって、懐の広さなど、ちょっと常人離れしたところがあります。『彼等や彼女等は、戦時色というエタイの知れない暴力に最後まで抵抗した。~共通の信仰は、「自由を我等に」であった』(111p)。西東三鬼もそのような気持ちで過ごしたに違いありません。
神戸の街について、『神戸の夏は季節風の西風が吹く』とか『何しろ、全市が闇商人の巣みたいな街だから、不思議な品物がよく現われた。』など、凝縮された文章で語ったところも記憶に残りました。小説みたいなノンフィクションですが、そう長くないので、さっと読めるのもよかった。