(引き続きネタバレご注意!)
主人公は、そこで知り合ったマルチエンヌ(?)という男から、
「君が寝ているところを見てみたい。君の手が好きだ」
と言われ、彼をロイドホテルに連れ込む。
主人公は、死んだ弟の検視が行なわれているというのに、そちらには立ち会わないのである。
ここでやや不吉な予感がよぎる。
上のセリフからすると、マルチエンヌ(?)は、川端康成の「眠れる美女」(ネクロフィリア)や「片腕」(フェティシズム)の主人公と同じく、「人間を『客体』としてしか見ない」思考の持ち主、つまり「愛」からは程遠いところに棲む人物である可能性があるからだ。
案の定、マルチエンヌ(?)からは、(聴き取り書きなので不正確かもしれないが)
「炭素原子は全ての物質の基本だ。人間も死ねば炭素になるんだよ」
という物騒な言葉が飛び出す。
彼は、”死の欲動”に支配された、ちょっと危険な人物のようである。
他方で、マルチエンヌ(?)は、
「人類が信じられない。だって、赤ちゃんをゴミ箱に捨てるんだぜ!」
とも述べる。
彼は、どうやら人類に絶望しているようだ。
マルチエンヌ(?)が去ると、主人公は、自分の財布から金が盗まれていないことを確認して安心し、そのことをパウリへの手紙に綴る。
このあたりで、主人公は、金(ビジネス)とセックスとアルコールによる殺伐とした生活を送ってきたらしいことが分かる。
すると、主人公の姉(?)のニーナから電話がかかって来て、父(大学附属病院の医師?)が学部長に昇進したこと、パウリの死因は”遺伝性の心疾患”であったことなどが告げられる。
そして、このタイミングで、主人公は、次の二人目の役者(伊達暁さん)に交代する。