明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 

笑顔  


頭部が完成し、胴体に入るところで、いつものことだが、気になるところが目に付いた。微笑ませているつもりはないのだが、なんだか笑って見える。ナニ笑ってんだ、と直しにかかるが、何故か、なかなか笑うのを止めない。思いのほか手こずってしまった。私は、架空の黒人を作っていた頃、そのごく初期を除いて、表情を作ることはしない。人には、“泣き笑い”という表情もあるが、おおよそ表情のあるものは、その表情にしか見えないが、無表情なものは、見る人の状態によって、様々な見え方をするものである。能面は、その最たるものであろう。まして撮影までするようになると、光線のあて具合で、様々な表情を抽出することができるようになった。そのような理由もあるが、この人物がここで笑っているのもおかしいと、仕上げを含めて時間がかかってしまった。 こんどこそ完成と、例によってポケットに頭部を忍ばせ、K本に顔を出した。いつもだったら常連に、予告編を披露するところであるが、今回は止めておいた。誰も見たことがない、数百年前の人を見せても、何かいってくれようとする、酔っ払った常連を困らせるだけだと思ったからである。  今日もまた、閉店が近づいてきた頃には、人の言葉尻を捕らえて、馬鹿々しい冗談や、いえば良いというものではないだろう、という類の駄洒落が飛び交っていた。なんでそんな単語が出たのかしらないが、家へ帰っても思い出して笑ったのが『関の宿六』。三島由紀夫の首を切り落とした刀に、『関の孫六』というのはあったが。

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