明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



人形制作再開に際して、Kさんの写真の復元を急がないとならない。先日昼過ぎに泥酔状態のKさんに洲崎のスナックに呼ばれ、写真二枚を見せてもらった。一枚はお母さんの遺骨と一緒に持ち歩き、ビリビリになった写真で、弟さんを抱いて、その足元にキャップを被った小学生のKさんが坐っている。お母さんの顔が破れてプリント面が欠けてしまっているので、これに割烹着姿で一人立っている写真から顔だけ取り出して合成するつもりが、さらに状態が悪くなっており、諦めてKさんを割烹着のお母さんに合成することにした。 お母さんの後ろの建物は何?と訊くと、入院中だった鹿児島の病院だそうで、この近所にインスタントの『マルタイ棒ラーメン』を調理して食べさせる店があり、病院に訪ねていくといつも食べさせてくれたという。棒ラーメンを常々美味しいといっていたが、房総に行ってもせっかくの魚にほとんど手を付けずにいうものだから、なんて張り合いのない爺だと思ったものだ。それには理由があったのである。写真のKさんが被るキャップも、貧乏なのに何で買ってくれたんだろう、という。浜松の自衛隊基地で買ったブルーインパルスのキャップを大事にしていたのも、そんな理由があったと知った。客もまばらな昼間のスナックで、ウェイトレスに声をかけて嬉しそうにしている横で、何で今そんな話するんだよ。一人シミジミしてしまった。 今回作るのはKさんとお母さんの二人でいいといっていたが、抱かれている弟さんはお母さんの記憶もない。なのにこの写真の存在を内緒にしていているらしい。なんて酷い兄貴であろうか。私は以前、寂しさのあまり酔っ払って、兄弟に妙な電話をしてしまったところに居合わせた。何故か私に電話を渡すものだから、弟さんに、本人はああいってますが元気にやってますよ、といっておいた。つまり兄を心配する真面目そうな声を聴いてしまっている。これでは弟さんを含めた、ビリビリに破けた方を復元しないわけにはいかないではないか。

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