文芸全般に詳しく、散策好きで作家の墓にもよく出かけるMさんに、拙著『乱歩 夜の夢こそまこと』を頼まれていたのでサインをしてK本に持って行く。当時自分で彫ったハンコがたまたま出てきたので押しておいた。 先日、担当編集者だったSさんから、『白昼夢』に使った本郷の薬局が取り壊されているとメールが着た。愛する妻を殺害後、流水に漬けて死蝋化し、自分の経営するドラッグストアの店先に飾っている男の話で、深川資料館通りの洋品店と、どこかの工務店などを合成して作った。薬局の文字と、今時考えられない赤い壁など、その薬局がイメージに貢献してくれた。 そういえば『D坂の殺人事件』で、初登場の明智小五郎が、事件が起こった古書店を、向いの喫茶店から眺める白梅軒に使わせてもらった神田の喫茶店も、とっくにない。夜の風景を昼に撮影するため、編集者何人かで、窓を段ボールで塞いでもらって撮影した。当時の制作雑記を読むと、今だったらこんなことはしない、もしくはできないことが多い。想い出すのは、ようやく校了した日。街を歩く女性が生き々と、馬鹿に綺麗に見えたのを覚えている。あれは昔、山奥で陶芸家を目指していた頃、たまに山を下り、東京に帰ってきた時と同じ感覚であった。 そんな『乱歩 夜の夢こそまこと』もアマゾンその他でも取り扱いが終了したようである。処分を免れた手持ちの20冊ほど、近いうち当HPで販売したいと考えている。
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