日本もこうなってくると、朝っぱらから鏡花でも読んでいないとやってられない。鏡花必殺の体言止めを堪能する。 河出書房新社の『鏡花幻想譚』2海異記の巻の『海異記』は、鯨漁で知られる房総の和田、江見が舞台である。つまりKさんが昼間から新鮮な鯨や魚を食べ、なのにマルタイの棒ラーメンは美味しい、と瞼を閉じた場所である。 解説は『鏡花と兎』という題で、鏡花の弟の娘で、妻すゞの養女、泉名月が書いている。鏡花は酉年の生まれで、数えて七番目の物を持つと“身のお守りになり出世する”と、母親は子供の鏡花に水晶の兎を持たせた。その母親は鏡花十歳の時に亡くなる。 名月が鏡花の家に養女としてはいったとき、数え切れないほどの兎に驚いたそうである。母恋しさと極端な縁起かつぎのせいであろう。貯金箱からステッキの握り、香炉からどんぶり、着物の柄から帯止めなど、あらゆる物にわたっている。 すゞと住んだ熱海の座敷に本箱があり、白い陶器製の実物大の兎が、友禅縮緬の座布団にふっくらと坐っていたという。この兎は鏡花が手に持ったり、膝に乗せている写真が残されているが、4絵本の春の巻の付録にも掲載されており、すゞが鏡花に見立てて大事にしていたとある。拙著『Objectglass12』(風涛社)にも書いたが、丁度鏡花を制作中、写真を参考に似たような兎を膝に乗せようとしていて、偶然富岡八幡の骨董市で同じものを入手した。京都の旧家から出たという旧い萬古焼きである。 私は拙著に“兎の効可は今のところウンともスンともである”などと気軽に書いたが、信心が足りないんだか兎の数が足りないんだか、恐ろしいくらいに未だに効可がない。
過去の雑記
HOME