母から電話。部屋に大きな黄金虫が入ってきたといって騒いでいる。部屋の灯りを消して窓を開けて、玄関の外の通路から電話しているという。あんな大きいの見たことない、というのだが3センチといえば、そんなものであろう。背中が丸くて緑に光っていて、といちいち説明する。黄金虫なんて縁起がいいんじゃないの? エドガー・ポーの作品に『黄金虫』がある。おうごんちゅう・こがねむし。どちらでも良いようだが、探し当てるのがキャプテン・キッドの財宝である。おうごんちゅうと読みたい。江戸川乱歩も絶賛した暗号が効果的に使われる冒険小説である。 私は自身の頭の傾向から、どちらかというと暗号小説は得意ではない。ポーの『黄金虫』乱歩の『二銭銅貨』がギリである。時刻表が使われる鉄道物なども論外である。あらゆる書物の中で、もっとも肌が合わないのが時刻表である。ジュピターという黒人の従者が活躍するし、何十年ぶりに黒人を作るのも悪くないと思うのであるが、今のところあまり場面が浮かんで来ていない。 それにしても母の電話が長い。黄金虫が外に出て行くまで相手させる気?そうだという。 冗談じゃないよ。今オランウータンが女の首根っこつかまえて、カミソリで切り刻もうとしているところを作ってんだから。とはさすがにいわなかった。
※世田谷文学館にて展示中。
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