”あいつの家に行くなら今のうちだ“という連中の第二弾来る。かみさんと電話で話しているのを見ると電話の向こうにいるのはパツトン将軍か?のSとI君。Sも最近引っ越し、ロマンチックな出窓越しに広がる武蔵野の雑木林の写真を送ってきた。お互い、昔の風情を懐かしむ歳になったな、と話していたが、どうやら全て将軍様の意向で、懐かしの風景はたまたまのようである。引っ越しは夫婦してのペットロスが原因で、都会にはもう出たくない、という。しかし考えてみると、彼が30年以上前、仕事で渋谷を主戦場としていた頃から私は渋谷は嫌だ、新宿も嫌だ、と文句を言っていた。つい先日も、打ち合わせの場所が新宿になりそうになり、知り合いだった事もあり、ごねて神田に変更になった。 長い付き合いになると、もはや話していないジャンルもなく遠慮もない。Sは、仕事を変えてから、体幹を鍛えるとかなんとか、運動をしているせいか、急激に痩せた。痩せたは好いが、声が病人にありがちな、腹に力が入っていないような、かすれ気味な声をしているので心配すると、全く問題ないという。そのようではあるが、三十代の頃、前髪が最近細くなっでないか?というと、床屋に太鼓判押されいるから大丈夫だ、と豪語していたが、今は裸電球の如しであるから、油断は禁物であろう。二人は暖簾の破けた食堂に、いたく感銘を受け帰って行った。
【タウン誌深川】〝明日出来ること今日はせず〟連載第17回『引っ越し』