三百年続いた金魚問屋で面白い店があるから紹介する、といわれれば、これは映画に先を越されて断念していた室生犀星の『蜜のあはれ』を、金魚を使ってやれって事だ。と行く前に、その気になって鼻息が荒くなっている。私は思い付くと、思い付いた、という顔をするそうである。 以前も書いた事があるが、台風で幼稚園が休みのある日、クレヨンで佃の渡し船を描いていた。母の実家は渡船場から百メートルの所にあった。渡し船の煙突だかに、東京都のマークが付いていたのだが、それと同じ物がマンホールの蓋に付いていた、と母が止めるのも聞かず、大荒れの台風の中飛び出して行ったそうである。傘が役に立たなかったことはなんとなく覚えている。幼稚園児ならまだ可愛気があるが、残された時間が潤沢にある訳ではないのだから暴走はいい加減にしておけという話しである。 渡し船は家で自分の中のイメージだけで描くから面白いのであって、現場で写生などはまっぴらであった。しかしながら東京都のマークを台風の中確かめに行く所など、上手いウソをつくには、ちょっぴりホントを混ぜるのがコツだということをこの幼稚園児は知っていた。
来年五月のふげん社の個展は、三島の男の死で本当に良いのか?私の早とちりではないのか?始めてしまったら台風くらいで止めることはできない。たまりかねてふげん社に相談しに行ってきた。それについては明日。
【タウン誌深川】〝明日出来ること今日はせず〟連載第17回『引っ越し』