現在、この本を鋭意翻訳中。
Winifred Bird, Eating Wild Japan: Tracking the Culture of Foraged Foods, with a Guide to Plants and Recipes
https://www.stonebridge.com/catalog-2020/Eating-Wild-Japan
著者は香川県の鳴門市瀬戸町北泊にワカメの調査に出かける。
I took the first train to Naruto from the inland guesthouse where I was staying and transferred downtown to a rattletrap bus. As the bus threaded its way through the quiet city to its rural outskirts, the streets soon became so narrow I worried we might scrape against the concrete walls of the gardens on either side. The sky was a crisp, clear blue. It had rained for a few days earlier in the week, and the wind had kept the fishermen home, but today was a gorgeous, mild day.
宿泊していた徳島県内の宿を出て始発電車で鳴門の中心街に向かい、くたびれたローカル・バスに乗り換えた。バスが静かな鳴門市内を抜けて郊外の田舎に入ると、道が急に細くなり、道の両側のコンクリートの壁をこすってしまうのではないかと心配になる。空にさわやかな青空が広がっていた。週のはじめは雨の日がつづき、漁師は沖に出られなかったが、この日はとてもすがすがしく、気持ちがいい。
英日翻訳のむずかしさのひとつに、英文がすべて過去形で書かれているが、日本語も一様に過去形のように「…だった、だった」で訳すのでよいかという問題がある。
これについては、柴田元幸『翻訳教室』(新書館、朝日文庫)にあるとおり、
https://www.shinshokan.co.jp/book/b565764.html
三人称で書かれたものについては、
「あんまり語り手が登場人物に距離を置かず、寄り添っている場合には現在形は似合う」
ということが言える。
ノンフィクションの場合、あるいは一人称で書かれた自伝などの場合、上の「あんまり語り手が登場人物に距離を置かず、寄り添っている場合には現在形は似合う」の登場人物を「ほかの人物」あるいは「物」「風景」など、語り手が観察しているものに置き換えて、
「あんまり語り手が『ほかの人物、あるいは物、風景など』に距離を置かず、寄り添っている場合には現在形は似合う」ということになると思う。
ここでは「バスが狭い道を走って行き、壁にぶつかってしまうと思われる描写の場合、読み手も語り手のはらはらした気持ちが共有できる」、すなわち、「語り手は「バス」あるいは「バスに乗っている自分」に距離を置かずというか、そのものになっているので、現在形が似合う」と思う。
例えばので、現在形が似合うように思う。
もう一例見てみよう。
Presently we arrived at Kitadomari. There wasn’t much to see—no stores or parks or even signs, just a narrow strip of tile-roofed houses squeezed between the clear blue sea and the thickly forested hills. A concrete seawall, brown-green with age, mostly blocked the ocean from view. As we headed toward the end of the peninsula, however, I glimpsed a series of docks through the gaps in the wall. They were crowded with men and women bent over huge piles of glistening amber-olive seaweed.
北泊に到着した。見渡す限り、何もない。店も公園もなければ、標識や看板も見当たらず、目に入ったのは澄んだ青い空と、鬱蒼とした木立が広がる丘のあいだに、瓦屋根の家並みが細長く伸びているだけだった。時代を感じらせる茶色と緑に変色したコンクリートの防波堤に塞がれ、海はほとんど見えない。だが半島の先に向かって進むうちに、防波堤の裂け目から波止場がちらちらと目に入った。波止場で橙色と赤紫色に輝く海藻の山を前に、たくさんの男女が腰をかがめている。
また一人称の語りであれば、「読み手が語り手(作者)に距離を感じない、寄り添っていると感じる場合は現在形が似合う」とも言えると思う。
ここで書き手(作者)は目にしているものに、すなわちに「風景」に距離を置かず、寄り添っているし、読み手もそのイメージをありありと思い浮かべることができるので、現在形が似合うと思う。
上杉は別名で翻訳講座を開催しているが、この英語の過去形をいかに訳すかという問題は課題を通じて繰り返し論じているので、ご興味がある方はそちらでお会いできますとうれしいです。
本日は更新が大幅に遅れてしまい、誠に申し訳ござませんでした。
ここのところ、いろんな問題が出てしまい、なかなか思うように更新できませんが、必ず毎日更新しますので、ぜひ今後ともGetUpEnglishによろしくお付き合いのほど、お願いいたします。