『朝日』記事≪捜査阻んだ三つの壁 力士急死、逮捕まで7カ月≫の疑問

2008-02-10 09:25:21 | Weblog

 今日(08.2.10)の朝刊に載っていた。早速グーグルで検索。最近歳のせいで新聞記事を直接入力するのが面倒になって、つい簡単・便利のインターネット記事に頼ってしまう。死亡「直後に検視をしないまま病死と判断した愛知県警の初動ミスのほかに、三つの壁があった」と記事が書いている捜査が難航した理由を箇条書きで要約すると、

最初の壁は、師弟関係の強さ。前親方による口止めの疑いが最近明らかになったが、急死直後の
 事情聴取にも、全員があうんの呼吸で「けいこ中に突然倒れた」と口をそろえていたために事実関係
 の解明が難航した

②遺体解剖で、けいこでは説明できない傷の存在が判明。7月になって、死亡前夜の前親方によるビー
 ル瓶での殴打や、兄弟子の暴行などを認める供述が得られたが、前親方による指示や木の棒での尻の
 殴打を話す弟子はいなかった。県警内でも指導の延長線との見方が強く、傷 害致死と違って故意の
 立証が不要な業務上過失致死容疑の適用が検討されていた

③前親方主導の疑いが強まったのは9月。「鉄砲柱に縛り付けてやれ」との指示内容が分かったのは10
 月終わり。

もう一つの壁は、プロの格闘家がけいこ中に死んだとして刑事責任を問えるか、との難問。刑法
 の規定で、正当な業務による行為は刑事罰の対象にならない。プロボクシングの試合で相手が死んで
 も刑事責任は問われない。「かわいがり」と呼ばれるしごきで力士が死亡したケースが刑事事件にな
 った前例はなかった。

⑤一部の兄弟子は制裁目的だったと認め、他部屋の親方は「30分ものぶつかりはけいこの範囲を超える
 」と証言。だが、「通常のけいこ」とする前親方の主張を覆す科学的な裏付けがなかったために時間
 がかかった。

⑥県警は昨年末、力士に5分間のぶつかりげいこをしてもらい、筋肉の破壊で現れる酵素や筋運動で生
 じる乳酸などを計測。30分にわたったぶつかりげいこの異常さを浮き彫りにし、「けいこではない」
 と断定。

三つ目の壁は、暴行と死の因果関係の医学的な立証

⑧新潟大の解剖鑑定が死因とした「多発外傷による外傷性ショック死」は急性呼吸窮迫症候群(ARD
 S)を起因とするが、それは発症まで数日かかり、死因としては疑わしいとする異論が、臨床分野の
 専門家を中心に上がったこと。

⑨名古屋大に再鑑定を依頼したところ、筋肉が強い衝撃を受けると血中に流出、一定時間で心停止を引
 き起こす原因となる高濃度のカリウムが遺体の血液から検出された。

⑩この鑑定が2日間に亘った暴行が死に結びついたことの裏付けとなった。

 結論。
⑪2回の鑑定に計約5カ月を要した。再鑑定結果が報告されてから逮捕までは6日間だった。
* * * * * * * *
 この記事には名古屋場所が開催されると、時津部屋の名古屋場所宿舎に日常的に通って相撲の稽古を見学するファンの暴行目撃談について何ら触れていない。テレビで放映していただけではなく、『朝日』も昨年の10月25日朝刊に≪「けいこではなくリンチ」 目撃者が証言 力士急死≫と題する記事を載せているのである。忘れてしまったのだろうか。

 その記事によると、26日午前の総稽古の<見学時間が終わって宿舎の駐車場にいた午前11時ごろ、「ギャー」と大きな悲鳴が聞こえたため土俵に戻ると、斉藤さんが土俵上で暴行されていた。3人の兄弟子が斉藤さんを取り囲んで投げ倒し、繰り返し殴るけるの暴行を加えていた。斉藤さんは「アー、アー」とうめき声をあげていたという。
 前親方は土俵脇のいすに腰掛け、暴行の様子をじっと見ていた。男性は同部屋のけいこを見て約30年になるが「明らかに相撲ではなく、いたぶっていた。こんなひどいことをなぜ親方は止めないのかと思った」>・・・

 目撃者が駐車場から土俵までわざわざ戻らざるを得ないほどの「うめき声」だった。しかし暴行に加わっていた本人たちは警察に<「通常のけいこ」>と証言。その矛盾を追及したのだろうか。
 
 また、いくら親方に口止めされていたとしても、「明らかに相撲ではなく、いたぶっていた」という印象を受けた<斉藤さんを取り囲んで投げ倒し、繰り返し殴るけるの暴行>だったとする直接目撃した証言から、どうしたら<指導の延長線との見方>とか、<傷害致死と違って故意の立証が不要な業務上過失致死容疑の適用の検討>を導き出さすことができるのだろうか。

 <プロの格闘家がけいこ中に死んだとして刑事責任を問えるか>といった捜査判断にしても、「けいこ中」を前提とした、なぜか理解に苦しむが、目撃証言排除の捜査であるばかりか、捜査に予断があってはならないとする捜査上のルールにも違反している。

 もし<プロの格闘家がけいこ中に死んだとして刑事責任を問えるか>とした判断がその時点では間違っていないとするなら、ファンの目撃証言は「けいこ」の範囲外の行為である(「明らかに相撲ではなく、いたぶっていた」)と認めるに足る証言とはなり得なかったとする経過発表を警察は行うべきだったろう。

 本人がテレビで喋り、新聞でもその発言を取り上げていた証言がどこかに吹っ飛んでしまうからだ。それとも警察に吹っ飛ばしたい気持ちがあって、<プロの格闘家がけいこ中に死んだとして刑事責任を問えるか>とする判断に飛躍させてしまったのだろうか。

 目撃証言を当たり前に素直に受け止めるとしたなら、<故意の立証が不要な業務上過失致死容疑>で立件といった考えに傾くはずはない。少なくとも一時期は目撃証言からは考えることができない、それとは相矛盾する<故意の立証が不要な業務上過失致死容疑>の方向で事件を片付ける意志を働かせていたわけである。「けいこ中」を前提としたい衝動を働かせていたわけである。

 『朝日』記事はこういったことにいかがわしさを感じなかったらしい。それとも当方の判断が間違っていて、何らいかがわしいところはないとの判断の方が正しいるのだろうか。

 確かに「暴行と死の因果関係の医学的な立証」とか「『通常のけいこ』とする前親方の主張を覆す科学的な裏付」は必要で、欠かすことはできまい。しかし新潟大学の父親からの依頼による解剖結果を踏まえた被疑者や目撃者等の証言の「裏付け」捜査を第一段階に据え、その真偽の確認と並行して必要不可欠に行わなければならない前者の捜査のはずだが、記事を読む限り、第一段階の捜査で方向違いを演じていたために時間がかかったとしか受け取ることができない。なぜなのか。

 その疑問を解くには「指導の延長線との見方」、あるいは「けいこ中の死」と判断した目撃証言に反する警察の対応をやはり問題としなければならない。目撃証言の真偽の確認に誤りがあったのか、それとも誠実に取り上げなかったのか、そのどちらかしか考えることができない。

 誠実に取り上げなかったとしたら、既に書いたように<故意の立証が不要な業務上過失致死容疑>の方向で事件を片付ける意志を働かせていた、つまり「けいこ中」の事故、「指導の延長線」の事故としたかった意思を働かせていたのではないかという疑惑がますます正当性を帯びることになる。
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 ≪捜査阻んだ三つの壁 力士急死、逮捕まで7カ月≫

 <大相撲・時津風部屋の力士急死事件は、昨年6月の斉藤俊(たかし)さん(当時17)の死から前時津風親方山本順一容疑者(57)ら4人の逮捕まで7カ月余と、異例の長期捜査となった。立件までには、直後に検視をしないまま病死と判断した愛知県警の初動ミスのほかに、三つの壁があった。
 最初の壁は、師弟関係の強さ。前親方による口止めの疑いが最近明らかになったが、急死直後の事情聴取にも、全員があうんの呼吸で「けいこ中に突然倒れた」と口をそろえたという。事実関係の解明が難航した。
 遺体解剖で、けいこでは説明できない傷の存在が判明。7月になって、死亡前夜の前親方によるビール瓶での殴打や、兄弟子の暴行などを認める供述が得られた。
 しかし、前親方による指示や木の棒での尻の殴打を話す弟子はいなかった。県警内でも指導の延長線との見方が強く、傷害致死と違って故意の立証が不要な業務上過失致死容疑の適用が検討されていた。前親方主導の疑いが強まったのは9月。「鉄砲柱に縛り付けてやれ」との指示内容が分かったのは10月終わりだったという。
 もう一つの壁は、プロの格闘家がけいこ中に死んだとして刑事責任を問えるか、との難問だった。刑法の規定で、正当な業務による行為は刑事罰の対象にならない。プロボクシングの試合で相手が死んでも刑事責任は問われない。「かわいがり」と呼ばれるしごきで力士が死亡したケースが刑事事件になった前例はなかった。
 一部の兄弟子は制裁目的だったと認め、他部屋の親方は「30分ものぶつかりはけいこの範囲を超える」と証言。だが、「通常のけいこ」とする前親方の主張を覆す科学的な裏付けがなかった。
 県警は昨年末、力士に5分間のぶつかりげいこをしてもらい、筋肉の破壊で現れる酵素や筋運動で生じる乳酸などを計測。30分にわたったぶつかりげいこの異常さを浮き彫りにし、「けいこではない」と断定した。
 三つ目の壁は、暴行と死の因果関係の医学的な立証だった。
 昨年10月に出た新潟大の鑑定書は、死因を「多発外傷による外傷性ショック死」とした。指摘されたのは、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で、破壊された筋細胞が血中に流れ込み、肺の毛細血管に栓をすることで肺水腫となり、呼吸不全に陥るとされる。ところが、ARDSは発症まで数日かかり、死因としては疑わしいとする異論が、臨床分野の専門家を中心に上がったという。
 そこで、名古屋大に再鑑定を依頼した。浮上したのが、遺体の血液から検出された高濃度のカリウムだ。筋肉が強い衝撃を受けると血中に流出、一定時間で心停止を引き起こすことが知られている。これで2日間にわたった暴行が死に結びついたことが裏付けられた。

 2回の鑑定に計約5カ月を要した。再鑑定結果が報告されてから逮捕までは6日間だった。
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 ≪「けいこではなくリンチ」 目撃者が証言 力士急死≫(07.10.25/朝刊)

 <大相撲の時津風部屋の力士急死問題で、死亡直前の「ぶつかりげいこ」を目撃した男性が24日、朝日新聞の取材に「けいこではなくリンチのようだった」と証言した。前・時津風親方=元小結双津竜、本名・山本順一氏=も居合わせたが、兄弟子の暴行を黙認していたという。愛知県警も男性から同様の証言を得ており、6月26日にけいこの名目で暴行があったことを示す手がかりとみて注目している。
 男性は26日午前、同部屋の総げいこを見学した。見学時間が終わって宿舎の駐車場にいた午前11時ごろ、「ギャー」と大きな悲鳴が聞こえたため土俵に戻ると、斉藤さんが土俵上で暴行されていた。3人の兄弟子が斉藤さんを取り囲んで投げ倒し、繰り返し殴るけるの暴行を加えていた。斉藤さんは「アー、アー」とうめき声をあげていたという。
 前親方は土俵脇のいすに腰掛け、暴行の様子をじっと見ていた。男性は同部屋のけいこを見て約30年になるが「明らかに相撲ではなく、いたぶっていた。こんなひどいことをなぜ親方は止めないのかと思った」と話す。
 男性によると、26日は午前10時半ごろまで時津風部屋の各力士による総げいこがあったが、斉藤さんは参加せず、土俵外でしこを踏んでいた。額が割れて顔は腫れ、腕や足など体中に切り傷や赤いあざがあったという。
 県警の調べでは、斉藤さんは同11時40分ごろ土俵上に倒れ、午後2時10分に搬送先の病院で死亡が確認された。前親方は県警や日本相撲協会に対し、25日夜の暴行は認めたが、26日は「通常のけいこ」と説明している。>

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