イージス艦衝突事故/「政治家の果たすべき責任」は辞任のみ

2008-02-22 12:08:06 | Weblog

 野党の石破辞任要求に対して、福田首相「そういうことを考えてる状況じゃない。今は原因究明と人命救助をしている。石破大臣がしっかりと対応することが必要だと思う」(08.2.22『朝日』朝刊≪広がる防衛相の辞任論 与党内にも厳しい声≫

 漁船の地元に謝罪に訪れていた石破防衛相「家族から『大臣に原因究明、再発防止をやってもらいたい。政争の具にされるのはいやだ』と言われた。政治家として果たすべき責任は何なのかこたえたい」(同『朝日』記事)

 福田首相と石破の責任論は松岡元農水相が資金管理団体に多額の光熱水費を計上していた問題が起きたとき、当時の安倍首相が「今後職責を果たすことによって国民の信頼をうる努力をしてもらいたい」と「職責遂行」を責任としたのと同じ論理を踏む。

 ところが隠し切れないと見たのか、松岡は死人に口なしの自殺を選択して責任回避に成功した。

 原因究明とか職責を果たすとかのこの手の責任論は出来事が起こった後の「責任」のみを問題にするもので、起こしたこと自体の「責任」を省いている。起こしたこと自体の「責任」を曖昧とした場合、職務上、あるいは立場上負うべき任務意識・義務意識が疎かにされることとなって、「責任」は何か起こした後について回る後付の意味しか持たないことになる。

 職務上、あるいは立場上負うべき任務・義務を厳格に行う初期的責任を果たしてこそ、後付けの責任をよりよく回避できる。

 防衛大臣は陸海空自衛隊に所属するすべての自衛隊員、及び防衛省に所属するすべての職員を管理・統率する責任を与えられ、彼らの如何なる行動に関しても責任を負う立場にいる。当然、防衛大臣の初期的責任は彼ら自衛隊員や省職員が職務上、あるいは立場上それぞれに負うべき任務・義務を厳格に果たすべく管理・監督を行うことなのは論をまたない。

 いわばイージス艦の行動に非がある衝突なら、そのような非を生じせしめた行動に対する責任だけではなく、関係者が直後に取った行動に関しても、それが適切でなかった場合、その行動に関しても防衛大臣は管理・監督不行届きの責任を負わなければならない。

 2月20日のasahi.com≪イージス艦、回避は衝突直前 報告の遅れは内規違反≫は次のように伝えている(一部引用)。

 <■内規は「発生から1時間以内」

 海上自衛隊のイージス艦「あたご」の衝突事故で、事故の一報を受けた海上幕僚監部や統合幕僚監部が緊急連絡を定めた内規に基づく「発生から1時間以内の防衛大臣側への連絡」を怠っていたことが19日、明らかになった。石破防衛相への連絡は発生から約1時間半後福田首相へは約2時間後になり、政府の危機管理体制の甘さが浮き彫りになった。石破氏は連絡体制の見直しを防衛省に指示。重大事案の際、各幕僚長が大臣に直接速やかに報告するよう内規を同日付で改正した。
 防衛省によると、内規は04年11月の中国原子力潜水艦による領海侵犯事件後の翌年9月から実施。重大な事件・事故が発生した場合は、自衛隊の各担当部署が防衛大臣と副大臣の各秘書官に発生1時間以内をめどに第一報を伝えることを義務づけている。
 だが今回は、海上幕僚監部のオペレーションルームが事故発生から41分後の午前4時48分に連絡を受けたにもかかわらず、大臣と副大臣の各秘書官に事故を伝えなかった。さらに海自から連絡を受けた統合幕僚監部のオペレーションルームも1時間以内の報告義務を怠り、午前5時ごろに同省内部部局(内局=背広組)の運用支援課に伝えたという。
 その結果、石破氏への第一報は午前5時40分にずれ込んだ。同課が首相秘書官に伝えたのは午前6時だった。
 内局の対応のまずさも挙げられる。運用支援課が事故に気付いてから大臣側への連絡に要したのは約40分。同省幹部は「5分もあれば連絡は可能」としている。同課が石破氏よりも事務次官や局長への連絡を優先していたことも判明した
 内閣情報調査室(内調)に情報を速やかに伝達することを定めた03年11月の閣議決定「緊急事態に対する政府の初動対処体制」が守られなかった疑いも出ている。 >・・・・

 各関係部局のこのような度重なる連絡行動の不備・遅滞は管理監督する立場の防衛大臣の管理不行き届き・監督不行き届きに当たり、当然そのことの責任は防衛大臣自らに帰属させなければならない問題であろう。

 特に運用支援課が「石破氏よりも事務次官や局長への連絡を優先していたことも判明した」と言う事実は長としての存在を蔑ろにする看過できない行動であり、蔑ろにする状況を許していた管理・監督の不行き届きは防衛大臣としての統治能力の欠如を示すもので、当然のこととして上に立つ資格を持たないことの証明以外の何ものでもない。

 さらに言うなら、漁船に気づいたのは衝突の約2分前だとしていた証言を12分前だと訂正したイージス艦の見張り員のデタラメな報告行為、最初は「緑」の灯火しか見えなかったが船体左側の「赤」の灯火と中央マストの「白」の灯火を見ていたと訂正した同じくデタラメな報告行為は自分自身が招いた重大事故を糊塗し、自己責任を回避するためのデタラメな報告行為であることは明らかである。

 それが見張り員一人だけのデタラメなのか、イージス艦の艦長たちも加担したデタラメなのか。19日午前4時7分に漁船と衝突後の「2分前視認」を20日夜に「12分前視認」へと認めさせるのに約1日半もかかった対応不備は自分たちも加わったからこそ、その責任回避が生じせしめた時間経過だったのか。

 石破は21日に地元を訪問した際に次のように言っている。「まったく自分たちに有利なことを言おうとか、そのようなつもりはまったくございません」(NHKニュース)

 だが、イージス艦の乗務員の証言を訂正した態度自体が既に「自分たちに有利なことを言おう」とした行動であって、そのことを無視して「まったく自分たちに有利なことを言おうとか、そのようなつもりはまったくございません」と言うのは乗務員の「自分たちに有利なことを言おう」とした行動とその責任を誤魔化し、隠す発言であろう。

 乗務員、あるいは上官も加わって「自分たちに不利なこと」をなお隠しているとしたら、その可能性大なのだが、責任の大きさに比例した責任回避行動の大きさを示すものであろう。

 事故を起こした当事者に既に言っている「自分たちに有利なことを言」わせないために石破防衛大臣が責任者としてすべきことは「自分たちに有利なことを言おうとしていないか、精査中です。例え不利なことを言うことになるとしても、すべて事実を話せと言ってあります」であろう。

 責任者としてそのような態度を表明していないところを見ると、「まったく自分たちに有利なことを言おうとか、そのようなつもりはまったくございません」と言いつつ、「自分たちに不利」となる状況をなるべく避けつつ、少しでも「有利」となる着地点を探しているとしか取れない。

 このことが単なる下司の勘繰りだとしても、乗務員が証言を変えたこと、衝突直前まで自動操縦を続けたこと、義務として定められている右に舵を切る衝突回避行動を取らなかったこと、上部への報告が遅れたことなど職務態度自体に対する行動管理の責任、管理・監督能力の不備の責任は残る。

 いわば職務上、あるいは立場上負うべき任務・義務を厳格に遂行させる管理・監督上の初期的責任を自衛隊全体を統括する責任者として果たしていなかった能力不足の問題である。

 原因究明後に辞任したとしても、出来事が起こった後のそのような責任の取り方は既に触れたように出来事を起こしたことに対する行動管理の責任、管理・監督能力の不備の責任を曖昧にする。当然、「政争の具」にするなとか「政局にする問題ではない」といった自公側からの批判にしても同工異曲の責任回避であり、責任の曖昧化に向かう。

 既にイージス艦側の失態が明らかになっている。失態をつくり出した管理不行き届き・監督不行き届きの責任は時間の経過と共に雲散霧消する。即座の辞任こそが事の重大さを全自衛隊員と防衛省全職員に伝え、防衛大臣の責任の重さだけではなく、自分たちが負っている責任の重さを教える。起こった後の後付の責任ではなく、そのこと以上に起こしたこと自体の責任――職務上、あるいは立場上負うべき任務・義務を厳格に果たす初期的責任の重大さを教える。

 石破はその逆のことをしている。責任意識を持ち合わせていないからだろう。

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