総務省の05年調査で自治体1060病院のうち約7割が赤字状態で、累積赤字額は1兆7820億円に上るという。(07.12.12『朝日』朝刊≪赤字減らし加速へ≫から)
赤字対策としてPFI方式の病院開設が進んでいるらしい。既に3病院が開設し(島根県立こころの医療センターは今年2月1日に開院したばかり)、「計画・建設中」が7病院あると『朝日』記事(08.1.22/朝刊≪時時刻刻 風前 病院PFI≫(下段引用)に出ている。
「PFI」とと何か、「キーワード」として解説してある箇所を最初に引用すると、
<PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)公共施設の建設、維持管理、運営などを民間の資金や経営ノウハウを活用して行う。英国で生まれた手法。事業コストなどが削減され、質の高い公共サービスを提供できるとされる。近江氏八幡市立総合医療センターの場合SPC(大手ゼネコン大林組が出資した特別目的会社)が金融機関から融資を受けて施設を建設。市は施設を借りる。SPCは市から支払われる使用料や運営費の中から金融機関に返済する。>
15年間の維持管理費を含めた総事業費が88億5000万円だという島根県立こころの医療センターは開院したばかりだから経営状況は今後の推移を見守るしかないが、05年開設の高知医療センター(高知市)と06年10月開設の近江八幡市立総合医療センター(滋賀県)は赤字対策の民間活用PFI方式を裏切って多額の赤字経営に陥っていると記事に出ている。
その原因は近江八幡市立総合医療センターの場合は豪華な建物を造って自慢したい・自慢する日本人のハコモノ体質が抜けなかったからなのか、ベッド1床当りの単価が民間病院の2~3倍の3千万円にもなる高額な建設・維持費にあるらしい。それが「想定より10億円多い24億円の赤字計上」という収支となって現れている。
大阪府知事の橋本はハコモノは残ると言うが、累積していく赤字と共に残ったのでは意味はない。
ハコモノを豪華にして、その豪華さに合わせて建物の内部・外部の設備を豪華にすれば、建設費ばかりか、その豪華さに比例して維持管理費も高くつくことになることぐらいは市の役人にしても当初から計算できたことではないだろうか。
建て替え前の旧近江八幡市民病院が30年間黒字経営であったということだが、維持管理費について言えば、旧市民病院時代に委託業者に支払った運営費は6億7千万円だったが、現在の豪華な病院経営では今年度PFIに支払う運営費は2倍強の約16億5千万円だという。豪華な建物を造った当然のツケに相当する。このことは地方に場所柄似合わない立派過ぎる道路を造ったことについても言える「ツケ」であろう。
「ツケ」は建物の豪華さに比例した当然の対価であるばかりか、黒字だった病院経営をわざわざ赤字経営に転落させるための豪華病院化だったと言われても仕方があるまい。その方便にPFI方式を利用したに過ぎない。
また、「清掃や給食など外部委託が可能な業務をSPC(建設・維持管理の特別目的会社)が一括受注すれば、それまでの個別契約に比べてコストが削減できるというのが病院PFIの理念だ」として、それを常識としていたようだが、これは事実に反する真っ赤なウソだと見破るぐらいの世間知を持ち合わせていなかったらしい。
外部委託業務はSPCが直接請け負うわけではない。給食は給食、清掃は清掃と分けて、それぞれの専門会社に下請に出して賄う。当然そこにピンハネの仕組みが生じて、直接外部委託する場合よりも経費が高くつくことになる。建物や設備にカネがかけてあるほど、維持管理費が高くつくのは当然だが、当然とする固定観念がより多額のピンハネを容易にしやすくなって、そのことが逆にピンハネを隠す装置となる。旧市民病院時代の個別契約が市長や市会議員等との癒着や圧力による随意契約でなかったなら、一括契約との金額差は歴然とした数値で出てくるに違いない。
旧市民病院時代に委託業者に支払った運営費は6億7千万円だったのに対して今年度PFIに支払う運営費が2倍強の約16億5千万円だという金額差にもその一端が現れているはずである。
今年の2月1日に開院したという精神科の島根県立こころの医療センターは県農業試験場桑園跡地に建設したと言うことだが、その敷地面積は約42,000平方メートル。そこに3階建て・約1万6100平方メートルの病院と、入院した子どもたちが学ぶ平屋建て・約900平方メートルの小中学校の分校の構成だという。病院の建坪自体を仮に1万平方メートルとしたとしても学校と合わせて1万900平方メートルとなって、残りの約3万平方メートルが病気治療のための花作りや野菜作りといった耕作地、緑地や散策路その他のいわゆる庭に相当する面積であろう。
その広さは東京ドームの広さが約216メートル四方の46656平方メートルだから、約3分の2の広さとなる。治療環境としては最高のものとなるが、経営環境としてはそれだけ維持管理費がのしかかってくる。
HPを見ると、「施設の維持管理等業務及び職員宿舎の保守管理業務」をSPCへの委託業務としているが、その具体的な内訳が次のようになっている。「施設の清掃業務」・「環境管理」・「植栽管理」・「保安警備」・「患者搬送等業務」・「大規模修繕業務」・「患者利便施設運営」
庭相当の場所の管理は「環境管理」・「植栽管理」といったところになるのだろうが、SPCが造園会社等に下請けさせ、それが競争させる形の複数者競争入札によって決めたとしても、競争させることで抑えた単価は抑えた分維持管理費に反映されるわけではない。維持管理は当初契約で単価が設定されて契約済みとなっているからだ。入札上限価格は当初から2割~2.5割程度のピンハネ分を差引いていて、さらにそこから下請けに出す単価を如何に抑えるかがSPC自体の経営の見せ所となる。予定ピンハネ分+抑えた単価分はSPCの利益となる。
下請会社が企業努力で入札単価を抑えただけなら、下請いじめは起きない。元請会社が当初からピンハネ分を差引いて入札上限価格を低く設定していて、不当な線引き内で無理な競争を強いられるから、下請いじめとなる。下請会社は不当との思いはあっても、仕事欲しさから我慢することになる。当然手抜き工事に至る場合も生じる。
自治体が新たに病院を建設する場合、民間のカネを当てにしてPFI方式を採用するのもいいだろう。しかし自治体1060病院のうち約7割が赤字状態である現実を考えるなら、医療業務自体が苦しい経営を強いられている状況下にあると言うことだから、医療業務自体の赤字をカバーする経営の発想を持たなければならないはずである。
ところが、建物・設備を豪華にして逆に維持管理費が高くつき、赤字をカバーするどころか、逆に赤字を広げることになっている。それが近江八幡市の場合は「想定より10億円多い24億円の赤字計上」という場面なのは断るまでもない。
医師や看護師の質や量の確保の問題、政府予算を圧迫していく医療保険の問題、そのことの反映としてある診察料や入院費の問題、そして施設の維持管理の問題等を考えたとき、これまでのように病院を病院単体で経営していくのは無理があるのではないだろうか。
例えば同じ民間のカネと運営ノウハウを活用するPFI方式で病院を建設・維持管理したとしても、病院単体ではなく、商業施設や居住施設(マンション)を併設して、売りマンションの売上げて建設費の補填、商業施設のテナント料、あるいは居住施設の一部賃貸部分の賃貸料で病院経営の赤字を補填していく方式にしたらどうだろか。
5階建ての病院を建設するとしたら、病院の建物を背後から覆う形で思い切って20階建て、30階建ての建物を建て、1階から3階までぐらいを商業施設としてテナントする。病院施設を除いた4階から上は売りマンションと一部賃貸マンションとする。病院との出入口はノロウイルス等の細菌問題を防止するために別とする。
商業施設は建物建設前にスーパーやコンビニ、百円ショップ、小さな映画館、書店、喫茶店、ラーメンショップ等、客数が多く望める店を対象に募集する。マンションの一部賃貸部分はワンルームとし、独身の看護師や医者を対象に安く賃貸する。彼らは独身であるゆえに階下の商業施設を出会いの場とする恋愛や結婚を目的とした一般の若い男女を集める魅惑的な誘蛾灯となってくれるだろう。中には一緒のマンションに住みたいと一部屋買う男女も出てくるかもしれない。
とにかく病院経営の赤字を一般会計から補填する雪だるま式に赤字を膨れ上がらせていく方法ではなく、別の商売で補填していく赤字を出さない方法を取らなければ「自治体1060病院のうち約7割が赤字状態」は解決しないのではないか。病院経営以外の肝心の商売とマンション経営が赤字に陥ることとなったなら、PFI方式が利点とする民間の経営ノウハウに欠陥があったということだろう。
この商業施設・居住施設併設のPFI方式病院建設は自治体の図書館や美術館経営にも応用できると思うが。
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≪時時刻刻 風前 病院PFI≫
<キーワード・PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)公共施設の建設、維持管理、運営などを民間の資金や経営ノウハウを活用して行う。英国で生まれた手法。事業コストなどが削減され、質の高い公共サービスを提供できるとされる。近江氏八幡市立総合医療センターの場合SPC(大手ゼネコン大林組が出資した特別目的会社)が金融機関から融資を受けて施設を建設。市は施設を借りる。SPC橋から支払われる使用量や運営費の中から金融機関に返済する。
民間活用し効率化のはずが大赤字
民間の資金と知恵を社会資本の整備に役立てようと始まったPFIが、病院事業で苦境に立っている。滋賀県近江八幡市では21日、全国で始めて設計から運営までPFI方式で実施した病院経営をめぐって、「契約解除」案が浮上。病院では初事業だった拘置しでも、契約解除の言葉が飛び交う。導入から8年余り。區にも事業の透明さが必要だとし、改善に乗り出す。
第一号で契約解除案
「PFIという外国の呪文に、近江承認のそろばんを忘れた」
経営悪化が明らかにんった近江八幡市立総合医療センターについて検討委員会(長降委員長)は21日、契約医解除も視野に入れた厳しい「提言」を冨士谷英正市長に答申。PFIを導入した市の姿勢を批判した。
同センターは、PFI方式により06年10月開業。大手ゼネコン大林組が出資した特別目的会社(SPC)が病院設計から手がけて建設、所有。
開院後は医療以外の給食や清掃などの業務を一括して受注。30年間の長期契約で、市側は計56億円のコスト削減が可能と試算。前市長の03年に時代に契約された。
問題は足元の収支と資金繰りの悪化だ。医業収支の減少などで、実質的な初年度である07年には、想定より10億円多い24億円の赤字を計上。今年度末には、つなぎ資金8億円の一時借り入れ余儀なくされる。建て替え前の旧市民病院は30年間、黒字経営だった。
提言は、PFI導入にあたって、事業計画そのものの精査が甘かったと指摘する。
その象徴が、豪華な建物。ロビーは吹く抜けで広々としており、床はカーペット敷き。壁は高級ホテルのような木目調。ベッド1床あたりの単価は焼く3千万円で、民間病院の2~3倍だという。
また市によると、SPCに今年度支払う運営費は約16億5千万円。旧市民病院時代に委託業者に支払った運営費は契約6億7千万円だった。「高すぎるのではないか」と冨士谷市長。
こうした見方に、SPC側は真っ向から反論する。昨年12月に検討委からのヒアリングに応じたSPCの社長は、「建物の概要や維持管理・運営の内容、レベルはすべて姜が決めること。それに対して我々(複数の民間企業)が提案し、官が選考される」「今になって(契約額が)高いというのはおかしな話」と言い切った。また、医療業務は市が運営しているとし、「収入減はSPCの関係ないところで起こったとした。
検討委の長委員長は、「美容院経営は国の医療せいdふぉに影響されやすい」として、長期契約のPFIにはなじまない、と分析している。
高知でも不満噴出
近江八幡より1年半早くPFI方式で開業した耕地医療センターについても、不満の声が高まっている。
同センターの06年度の赤字は22億円に迫り、経営計画より4億円以上多い。18日に開かれた高知県・高知市病院企業団議会議員協議会は、「契約解除も視野に入れる必要がある」と、県や市の議員から厳しい批判が相次いだ。
批判の矛先は、オリックスが構成団体のSPC。調達を担う材料費の医業収益に占める割合が、、提案で示した数字を大きく上回っているためだ。「オリックスが契約を取るために、低めの低めの数字を設定したならおかしな話だ」という声や、業務提案書の提出を求める声も上がった。県と市の議会も昨年12月、経営改善を求める決議を全会一致で可決した。
事業の透明化 国が勧告
PFI事業は、バブル崩壊後の景気対策として橋本政権下で始まった。議員立法で推進法案が成立し、99年秋に施行。さらに「官から民へ」をスローガンにした小泉政権で導入件数が急増。内閣府によるとスポーツ施設や刑務所など、計画中を含めて約290件の事業が動いており、うち160余の事業でサービスの提供が始まっている。
導入が進む背景には、国や自治体の財政難がある。PFI方式をとれば、公共サービスをより安く効率的に実現するというのが、売りだった。
病院事業で開業ずみは3件。うち2件で契約見直しの動きが起きたことは、行印PFIの課題を浮き彫りにしている。
一つには、公立病院の経営そのものの厳しさだ。医師不足や診療報酬の引き下げで約千の自治体病院の収支は急速に悪化。総務省は昨年12月、公立病院の改革ガイドライン(指針)をつくり、各病院の「黒字達成」を求めた。
国は自治体に対し、新たな財政健全化策を求めており、病院の赤字を自治体本体の赤字と連結した決算を対象にした「査定」を来年度から始める。自治体にとって、財政指標の改善h、今すぐ達成する必要がある。
一方、PFI導入による財政的なメリットは30年など長期に亘る契約期間の終了後に判明する。そんな長期のメリットより、赤字団体への転落を免れるには、「目の前の赤字改善のほうが先」という懐事情が、自治体を左右する。
二つ目の課題は、自治体などの事業の発注元と、受託する特別目的会社(SPC)と9の関係だ。
清掃や給食など外部委託が可能な業務をSPCが一括受注すれば、それまでの個別契約に比べてコストが削減でき、経営効率化できる、というのが病院PFIの理念だ。
だが、近江八幡市では「業者との個別契約の方が、要望を直接伝えられて効率的」との声が上がった。高知でも、自ら提案した仕事の水準を満たせないSPCへの不満が出ている。。公共事業アドバイザーの熊谷弘志さんは、「PFIでは、自治体が通常の起債で調達するより高い金利の民間資金を使う。その差額を上回るメリットがないと、税金のムダ遣いになる」と話す。
総務省行政評価局が今月11日に発表した政策評価では、調査した146事業のうち、コスト削減の根拠を公表していたのはわずか1件。「事業の客観性・透明性が必要」と勧告した。内閣府は今夏にも、導入の際の手本にと、契約書のひな型や解説を示す予定だ。>