安倍晋三の福島浪江町商店街視察「時が止まったような状況だ」と見た目そのままに言う日本の政治の質

2013-03-25 10:58:14 | Weblog

 安倍首相が3月24日午前、根本復興相と共に東電福島第1原発事故で住民避難の福島県浪江町を訪問、人気(ひとけ)のない商店街を視察し、馬場有町長から被災状況の説明を受けた。

 《首相「時が止まったよう」 福島・浪江町を視察》日経電子版/2013/3/24 14:28)

 記事は現在、全域が警戒区域や計画的避難区域に指定されて原則立ち入りできないことになっている浪江町が4月1日から原則立ち入り禁止の「帰還困難区域」のほか、日中立ち入りできる「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」の3区域に再編されると伝えている。

 このことを前提に安倍首相の視察の目的は、〈近く避難指示区域が再編されて日中は立ち入り可能な区域ができるのを前に地域の現状を把握する狙い。〉と解説している。

 安倍首相(人気のなさに)「時が止まったような状況だ。復興を加速化させていきたい」

 馬場有町長からは将来の住民の帰還に必要なインフラの速やかな復旧を要請されたという。

 「時が止まったような状況」とは、住民帰還にまで政治の力が及んでいない状況を言うはずである。だからこその復興の加速化――時の針を前に進めなければならないということなのだろうが、2011年3月11日の大震災発生から2年経過してもなお生活再建にまで至らない時の停止を招いている復興に向けた政治スケジュールの妥当性(=政治の力)をこそ問題としなければならないはずだ。

 そのことを問題とせずに単に人気がないから、「時が止まったような状況だ」と言うのでは単に状況を表面的に見たままを言っているに過ぎないことになるし、一国の首相がそのような発言をする日本の政治の質も問われることになる。

 住民帰還・生活再建は偏に除染の成果にかかっている。

 浪江町のHPや環境省のHP、その他のHPを参考にコマ切れの記述から、除染スケジュールを拾い出してみた。

●2011年8月末――国の責任で除染を義務付ける等を内容とした「特別措置法」公布

●実施期間(2011年12月7日~2011年12月19日)

  防衛省自衛隊による村役場除染

  本格的な除染事業を開始するに当たり、福島県富岡町、浪江町、楢葉町、飯館村等の各町役場を除染。


●国直轄の除染を義務付ける「特別措置法」(2011年〈平成23年〉8月末公布。

●2011年12月7日~2011年12月19日

 民間業者による本格的な除染事業を開始するに当たり、防衛省自衛隊による福島県富岡町、浪江町、楢葉町、飯館村の各町役場除染。

●2012年1月1日――国直轄・民間業者施工除染特別地域の指定。

●2012年1月26日――除染特別地域の除染の進め方についての考え方を「除染特別地域における除染の方針(除染ロードマップ)」として示す。

●実施期間(2012年6月~2012年12月)――浪江町拠点施設の除染(浪江町HP)

 2011年3月11日の大震災発生から2011年8月末の国の責任で除染を義務付ける等を内容とした「特別措置法」の公布にまで5カ月も必要としている。

 公布から本格的な除染事業を開始するに当っての自衛隊による各町役場の先行除染に取り掛かるまで3カ月。

 さらに国直轄・民間業者施工除染特別地域の指定に「特別措置法」公布から計算して4カ月。

 「除染ロードマップ」策定までに「特別措置法」公布から5カ月。

 「除染ロードマップ」策定から浪江町拠点施設の除染完了まで約11カ月。地震発生から約20カ月も経過している。

 その上、現在に至っても浪江町商店街は人気がない。

 但し避難指示区域が再編されて、浪江町の一部区域に限るが、4月1日から日中のみが立ち入り可能となる。

 一見すると、除染が進み、住民の帰還に向けて一定の進展があるように見えるが、2011年3月11日の大震災発生から「特別措置法」公布まで5カ月、除染の方針を示す「除染ロードマップ」策定までに2011年3月11日の大震災発生から10カ月、「特別措置法」公布から5カ月、浪江町拠点施設の除染に取り掛かかるまで2011年3月11日の大震災発生から15カ月、終了まで21カ月かかっていることと、除染作業従事の民間の人手不足が政府の除染スケジュールの進展に貢献するとは考えられないから、進展とは逆の遅れが生じていると見なければならないはずだ。

 このことはマスコミの世論調査にも現れている。

 3月8日から3日間行った「NHK」の電話世論調査。

 「被災地復興への評価」
 ▽「進んでいる」1%
 ▽「ある程度進んでいる」19%

 ▽「あまり進んでいない」53%
 ▽「進んでいない」23%

 3月2日、3日実施の「朝日新聞」の電話世論調査。

 「東日本大震災や原発事故から2年がたち、福島の復興への道筋が、どの程度ついたと思いますか。(択一) 」

 大いについた1%

 ある程度ついた17%

 あまりついていない59%

 全くついていない21%

 住宅の高台移転の遅れや3月23日付「NHK NEWS WEB」記事が、岩手、宮城、福島3県で発生した大量瓦礫のうち処理済みが50%を超えたと、環境省の纏めとして伝えているように瓦礫処理の遅れも入っているだろうが、除染の進捗も復興に占める大きな要素であるから、除染の遅れも対象とした世論調査の評価であるはずだ。

 勿論、安倍政権が発足してから約3カ月しか経っていない。多くは民主党政権が関わってきた問題である。だとしても、復興は与野党を挙げて取り組まなければならなかった、自民党も関与していた国策だったはずである。

 いわば与野党の協力の上に成り立たせた復興計画であった。

 当然、これら諸々の復興の実態を把握した上での浪江町の視察でなければならない。

 把握した浪江町訪問であることを前提とすると、浪江町商店街の人気のなさに対する「時が止まったような状況」という形容は福島第1原発事故がつくり出した状況とのみ認識するのではなく、与野党挙げた政治の遅滞や機能不足が招いている原状回復の遅れでもあると認識しなければならないことになる。

 野田前首相は記者会見等で、「被災者の方々に寄り添う支援に万全を期したいと思います」と言い、あるいは「私は被災地への支援、寄り添うということは経済的な面だけではなくて、精神的な面においても私は日本にとっても極めて重要だと思います」と言い、安倍晋三にしても、「被災地の皆様の心に寄り添う現場主義で、復興の加速化に取り組んでまいります」と2013年1月7日の「政府与党連絡会議」の冒頭挨拶で述べているが、いわば寄り添いが不足していたことになる。

 だとすると、そこに自らにも責任がある日本の政治に対する反省がなければ、安倍晋三の「時が止まったような状況だ」と言っていることは人気のなさを見たままに表現した言葉で終わることになる。

 だが、どの記事を見ても反省を窺わせる言葉はなく、単に復興の加速化を主張しているのみである。

 復興の遅れに政治が原因していながら、復興の加速化だけを言うのは一種のゴマ化しであろう。原因の実態を追及・把握して、その反省の上に改善すべき点は改善して復興の加速化を計画しないことには加速化は満足に機能しないことになる。

 当然、反省があってこそ、改善点が加味されることになって復興加速化の約束に信頼が多少なりとも芽生える。

 被災者は復興に関わる日本の政治の質にも苦労している。いくら復興の加速化を約束しようとも、現状を「時が止まったような状況だ」と言うだけの見た目そのままの言葉に政治の質の変化は期待しようがない。


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