菅仮免の海水注入全編無責任とウソと詭弁で塗り固めた国会事故調参考人証言

2012-06-03 13:16:12 | Weblog

 2011年3月12日の東電の原子炉冷却のための真水から替えた海水注入の一時停止指示は官邸の意向(菅の指示)かどうか問題になったことについての菅の5月28日午後の国会事故調参考人証言を見てみる。勿論、菅は否定している。自己正当性を雄弁に語っているが、いくら雄弁語ろうとも、ウソを散りばめた雄弁でしかない。このウソの自己正当化は無責任と指導者としての無能によって成り立っていることは断るまでもない。

 最初に桜井委員の海水注入に関する質問と菅の証言を取り上げる。 

 桜井委員「ベントの話が先ほどちょっとございましたので、その関係で海水注入についてお伺いしたいと思います。

 海水注入の問題というのは菅さん、ところでお話があったのはどういう経緯だったでしょうか」


 菅仮免「この海水注入については大変私にとってもですね、色々とご批判を頂いた件でもありますので、少し整理をして説明をした方がいいのではないかと思います。

 先ず海水注入について、真水がなくなった場合には冷却のためには海水注入が必要であるという点では私と海江田大臣を初め、そうした専門家の皆さん、関係者の皆さんは一致をいたしておりました。

 そういう認識のもと、3月12日18時頃から20分程度、私、海江田大臣、原子力安全委員長、保安院責任者、東電の派遣された方が話をされまして、その時点では東電から来られた技術担当の武黒フェローが準備に1時間から、失礼、1時間半から2時間かかると、こういう説明がありました。

 そこでその時間を使って、海水注入だけに限らず、いくつかの点で議論をしておこうと。というのはこの日の15時ですが、1号機が水素爆発を起こしておりますけども、この水素爆発についても、前からそういうことが起きることはないか、私も聞いておりました。その時点では格納容器内に窒素が充填されているので起きないというご返事でしたけれども、現実には起きたわけでありまして、そういったことを含めてですね、いくつかの事象につてい聞いておった方がいいと、時間があるなら聞いておいたほうがいいと、こういう認識のもとで幾つかのことが議題となりました。

 一つは勿論塩水ですから、塩分による影響であります。それから問題となりました再臨界については淡水を海水に代えたら再臨界が起きるということではありません。これは私もよく分かっておりました。

 つまり、私も技術的なことは専門家でありませんので、詳しくは申し上げませんが、再臨界が起きる可能性というのは制御棒が抜け落ちたとか、あるいはメルトダウンした後の、その燃料より大きな塊になったとか(手を大きく動かしてゼスチャーたっぷりに話す)、そういう場合に起きる危険性があるわけでありまして、班目委員長の方からは『可能性がゼロではない』というお返事がありました。

 まだ時間があるという前提で、それならそういうことも含めて、検討して欲しい。つまりはホウ酸を入れれば再臨界の危険性を抑えることができるということは、その関係者はみんな知っておりますので、そのことも含めて検討して欲しいと、このように申し上げたところであります。

 その後のことを申し上げますか」

 手で遮られる。

 桜井委員「国会でもこのことについて何回も聞かれておりまして、総理は質問と答をどう取られるか、非常に難しい問題もあろうかと思われますが、海水注入の関係で聞かれてくるときに、『いわゆる再臨界という課題も私にはありましたし、そのことの検討』――、ちょっと要約させて頂きますと、『これを皆さんにお願いする』と。

 こういうような答弁をされておりますが、今のご説明との関連ではどういうことでしょうか」

 菅仮免「今申し上げたとおりですけども、何か矛盾はあるでしょうか。私が申し上げたのは、例えば海水注入が再臨界に関係ないというような表現で、何か報道されたものもありますが、これは全く間違っています。淡水を海水に代えたからといって、再臨界の可能性が増えるわけではないと、こういうことを言ったんですが(ふっと笑い)、その前の部分が省略されていいると全く意味が違います。

 そういった意味で再臨界のことを申し上げたのは、こののち海水の中にもホウ酸を入れるわけですけども、原子炉にはホウ酸が置いてあるわけですから、それを念のために入れるということを含めて、検討をして欲しいという趣旨で申し上げたので、国会の答弁と矛盾はありません」

 桜井委員「既に総理もご承知だっと思いますが、現実には東電の方の本店からは始めていたなら、それを停めるという指示が出されてた。吉田所長の方はその指示に反して、海水注入を続けたという事実は既にご承知かと思いますが、少なくとも東電の方では総理の、当時の総理のお言葉を重く受け止めて、そのような行動に出たと思いますが、その点については総理の方はご感想を、どのような見方をされているのでしょうか」

 菅仮免「東電の会長の、この委員会での発言も私は聞いておりました。しかし東電会長はこの問題について本当に技術的なことをですね、関係者から聞かれて言っておられたとは思えないわけであります。

 先ず事実関係を正確に申し上げますと、先程申し上げましたように具体的名を上げて恐縮ですが、直前まで副社長をやっておられた現職の武黒フェローがですね、6時から6時20分の会合では、後1時間30分から2時間はあると準備に、という話を前提で話を始めたわけであります。で、それを20分程度で切り上げて、じゃあ、後、その結果を含めて報告をして下さいと。

 で、私のところに来たのは確か、19時の40分で、準備ができたということで、じゃあやって下さい。

 で、その後始まったと。

 その時点ではそういうふうに理解をしておりました。そしたら、その後色々なことが分かってきますと、武黒フェローはその20分の間の会合の後に直接でしょうか、吉田所長に電話をされて、そこで既に海水が入っているということを聞かれたわけです。

 そのことは私には連絡はありません。

 私は二重の意味で大きな問題と思います。先ず第一は、既に入っているなら、私は当然入れ続ければいいと思っています。もし再臨界の危険性があるなら、ホウ酸を後で追加すればいいわけですから。現実にそうしています、そののちに。

 それを武黒フェローが判断をして吉田所長に停めろと言った。

 よくですね、官邸の意向ということが他の場面によく出ますが、官邸の意向には私自身の意向、あるいは私自身を含む政府の意向と、当時官邸に詰めていた東電関係者の発言とか混在しております。

 少なくともですね、東電関係者の発言は官邸の意向というふうに表現されるということは私は間違っていると思います。これはメディアの関係者の皆さんにもはっきりと申し上げておきたいと思います。

 そこで今申し上げたことが一つです。もう一つは武黒さんというのは確か原子力部長を務められたプロ中のプロです。ですから、水を入れること、海水を入れること、如何に重要であるか。そしてそのことは再臨界とは、淡水を海水に代えたことは再臨界とは関係ないということは、プロであればよく分かっていることであります。

 その人がなぜですね、そういう技術的なことがよく分かっている人が吉田所長に停めろと言ったのか、私には率直に言って全く理解できません。

 そして吉田所長はそれに対して、私はあとで聞いた話ですけれども、私の意向だというふうに理解したと。そこで東電本店に聞いたら、総理の、時の総理の意向なら、仕方がないじゃないかと言って説得されたけれども、それではと言って、まあ、一芝居と言いましょうか、今から停めろと言うけども、停めるなと現場の人に言って、停めろということを言われたと。

 それでテレビ会議の装置を使って、東電本店にも伝わっていたので、東電の大部分の人にも、その時点で一旦停まったと、このように認識されたようです。

 こう言うようなことが私に分かったのはずっと後になってからです。これについても予算委員会でも、あるいは政治家の中でもですね、私が停めたと、それでメルトダウンが起きたと、激しく批判をされました。

 しかし重ねてもう一度申し上げますが、東電の中で派遣されていた人が自分の判断で言ったことについて官邸の意向、まして私の当時の総理の意向とは全く違うんで、その所はきちんと区別して検証していただきたいと思います」

 桜井委員「今、東電の方が海水注入を伝えていないという、開始を伝えていないという認識でおられたですけど、東電の方から海水注入をした(開始した?)と保安院の方に連絡が入っている。それが当時の総理の所に届いていないというこをよく分かりました。

 その辺は当時の最高指揮官としてどのようにお考えでしょうか」

 菅仮免「これはですね、例えば保安院の、直接的には責任者は経産大臣です。経産大臣が例えば、同席していた武黒フェローにですね、聞いてみたら、実はもう入っていたというような話があれば、間違いなく私にもですね、大臣なり来ます。

 武黒フェロー自身がそのことを認識したら、私と一緒の会で話をされたことなんですから、私に直接言うのがですね、当然でありまして、そういう関係でなければ、別ですよ。

 ですから、私にはその間の保安院にどう伝わったかということも、少なくともその当時は知りません。

 それから敢えて申し上げますと、その後も暫くは東電は19時、確か3分でしたか、7分でしょうか、解消(海水注入中断を)したということを、当時は認めていなかったはずです。

 そして19時40分に私のところに来て、確か20時何分かに解消(19時25分、東電、海水注入中断)したという上申をしたはずです。

 ですから、私はそこまで申し上げませんが、東電が伝えたということと、そのあと東電が言っていることと、またその後に言っていることとかなり、私から言うと矛盾しておりますので、少なくとも私にはちゃんと伝えるんであれば、武黒フェローと話をした直後でありますから、私に直接伝えるなり、経産大臣に伝えるのは当然であったと、そのように考えております」

桜井委員「菅さんは今海水注入と再臨界とは直接繋がらないという説明があったが、(手でひっくり返すゼスチャーをして、淡水から海水へ)代えたことです。ハイ、分かりました。

 当時はですね、総理のお傍におられた方が総理に対して再臨界と海水とは直接繋がらないということをご説明するために随分色々と資料を集めたり、検討されたり(して)おるようですが、その辺については総理はどのようにお考えになりますか」

 菅仮免「私はそのことは知りません。私が再臨界について色々と調べていたのはかつての再臨界事故がJOCのときにありましたから、そういうことを含めてですね、必ずしも原子力安全委員会や保安院からも聞きましたけども、それ以外の原子力の専門家からも、どういう場合にそういう危険性があるのかと、そういう色々な話を。その時点で分かっておりましたのは、先程申し上げたように、例えば制御棒が何らかの理由で抜け落ちて、燃料が臨界に達してしまう、

 あるいはメルトダウンしたものがここに大きく山盛りにのように溜まって、その形状によっては臨界ということになる得ると、そういうことを聞いておりました。

 少なくとも淡水を海水に代えることが臨界条件に何らかの影響を及ぼすということは、私はそういうふうに全く思っておりません。

 それにはホウ酸を入れて、中性子のですか、動きを止めればいいわけですから、それは別のことで、何かそういうこと(資料集め)を準備をされていたということは私は全く知りません」

 (以上) 

 菅は東電派遣の武黒フェローから海水注入の準備に1時間半から2時間かかると言われて、3月12日午後6時から6時20分まで海水注入に関わる問題点を検討する会合を官邸に詰めていた関係者に持たせている。

 そもそもの海水注入の必要性に関して菅は、「海水注入について、真水がなくなった場合には冷却のためには海水注入が必要であるという点では私と海江田大臣を初め、そうした専門家の皆さん、関係者の皆さんは一致をいたしておりました」と証言している。

 この会合で菅が海水中注入の場合の再臨界の危険性の有無の検討を命じて、そのことに時間を取られて海水注入開始が遅れ、原子炉の状況を悪化させたのではないかと批判が起きたことに関してはきっぱりと否定している。

 「再臨界については淡水を海水に代えたら再臨界が起きるということではありません。これは私もよく分かっておりました」

 但し、「再臨界が起きる可能性というのは制御棒が抜け落ちたとか、あるいはメルトダウンした後の、その燃料より大きな塊になったとか(手を大きく動かしてゼスチャーたっぷりに話す)、そういう場合に起きる危険性があるわけでありまして、班目委員長の方からは『可能性がゼロではない』というお返事」があったために、その場合の再臨界の可能性も含めて検討させたと。

 対して桜井委員は「『いわゆる再臨界という課題も私にはありましたし、そのことの検討』」云々の国会答弁を持ち出して追及するが、菅は「今申し上げたとおりですけども、何か矛盾はあるでしょうか。私が申し上げたのは、例えば海水注入が再臨界に関係ないというような表現で、何か報道されたものもありますが、これは全く間違っています。淡水を海水に代えたからといって、再臨界の可能性が増えるわけではないと、こういうことを言ったんですが(ふっと笑い)、その前の部分が省略されていいると全く意味が違います。

 そういった意味で再臨界のことを申し上げたのは、こののち海水の中にもホウ酸を入れるわけですけども、原子炉にはホウ酸が置いてあるわけですから、それを念のために入れるということを含めて、検討をして欲しいという趣旨で申し上げたので、国会の答弁と矛盾はありません」と逃げる。

 その他の問題点として水素爆発や海水塩分による影響を挙げている。

 矛盾がないとする国会答弁とは2011年5月23日衆院震災復興特別委員会に於ける谷垣禎一自民党総裁の質問に対する答弁を指している。

 谷垣総裁「3月12日の18時(午後6時からの会合のこと)には何を議論していたのか」

 菅仮免「海水注入に当たって、私の方からどのようなことを考えなければならないかといった議論があって、いわゆる再臨界という課題が私にもあり、その場の議論の中でも出ていた。そういうことを含めて海水注入に当たって、どのようにすべきかという検討を今申し上げたようなみなさんが一堂に会されておりましたので、それを皆さんにお願いをした」

 ここでは、「いわゆる再臨界という課題が私にもあり、その場の議論の中でも出ていた」と答えている。

 次にこの質疑に引き続いた谷垣総裁と班目原子力安全委員会委員長との質疑を見てみる。

 谷垣総裁「海水注入に当たって勘案すべき問題点を検討すると、こういうことですね。班目委員長に伺います。報道によると、色んな報道があって何が正しいかであるが、委員長はこの会議で再臨界の可能性を指摘されたという報道があった。

 そのような意見具申をされたのか」

 班目委員長「その場に於いては海水を注入することによる問題点をすべて洗い出してくれという総理からの指示がございました。私の方からは海水を入れたら、例えば塩が摘出してしまって流路が塞がる可能性、腐食の問題等、色々と申し上げた。

 その中で、多分総理からだと思うが、どなたからか、再臨界について気にしなくてもいいのかという発言があったので、それに対して私は再臨界の可能性はゼロではないと申し上げた。これは確かなことであります」

 この班目答弁から分かることは、班目自身は「塩が摘出してしまって流路が塞がる可能性、腐食の問題等」を問題点として挙げたが、再臨界については挙げていなかったことになる。

 再臨界の問題は、「多分総理からだと思うが、どなたからか、再臨界について気にしなくてもいいのかという発言があったので、それに対して私は再臨界の可能性はゼロではないと申し上げた」としている。

 とすると、菅が最初に国会で答弁していた、「いわゆる再臨界という課題が私にもあり、その場の議論の中でも出ていた」としていることは、菅のみが再臨界を問題にしていたのであって、「その場の議論の中でも出ていた」と言っていることは批判や追及を逃れるための韜晦ということになる。

 「再臨界はその場の議論の中で出ていた」とのみ言ったなら、つまり自分以外の誰かが言い出したことだとしたら、露見した場合、まるきりのウソつきとなる。自分が言い出したことでもあるが、「その場の議論の中でも出ていた」とすることによって、誰が言い出したかを分散できる。

 詭弁を用いた巧妙なゴマカシに過ぎない。

 また、班目委員長の「多分総理からだと思うが、どなたからか、再臨界について気にしなくてもいいのかという発言があったので、それに対して私は再臨界の可能性はゼロではないと申し上げた」と発言している答弁から窺うことができる、再臨界は菅が言い出したことであるとした疑いは同じ2011年5月23日の衆院震災復興特別委員会でのみんなの党柿澤未途(みと)議員の質問に対する班目委員長の答弁に於いても確認できる。

 柿澤議員「総理は臨界の可能性を心配して専門家の意見を聞いた。この場合の再臨界の可能性のあると言うのはどういう事態を示唆しているのか。これは燃料棒が原形をとどめ、制御棒が入っている状態であれば、そういうことは起こらないと思う。再臨界と言うのはそういう安定した状態では起こらない。

 再臨界が起こるということはどういう事態が原子炉の格納容器内で想定されるか」

 班目委員長「実際に燃料が若干でも溶けて、再配置と言いますか、イキ(閾?)が変わって、より臨界になりやすくなることをおっしゃる方がいる。そういう意味では、今現在ですら再臨界が起こっているんじゃないかと言われる学者の先生もいる。

 しかしながら、そういう危険性は認識していないが、そういうふうに聞かれたから、ゼロではないという答になるかと思う」――

 この班目の発言は菅の証言である「再臨界が起きる可能性というのは制御棒が抜け落ちたとか、あるいはメルトダウンした後の、その燃料より大きな塊になったとか(手を大きく動かしてゼスチャーたっぷりに話す)、そういう場合に起きる危険性があるわけでありまして、班目委員長の方からは『可能性がゼロではない』というお返事」があったために、その場合の再臨界の可能性も含めて検討させた」に相当する。

 班目の以上の答弁から確認できることは、淡水注入から海水注入に替えた場合の再臨界の危険性と菅が説明した「再臨界が起きる可能性というのは制御棒が抜け落ちたとか、あるいはメルトダウンした後の、その燃料より大きな塊になったとか(手を大きく動かしてゼスチャーたっぷりに話す)、そういう場合に起きる危険性」とは別個に扱わなければならないということである。

 前者の危険性はゼロであるが、後者の炉の中で制御棒が正常な状態を保持不可能となって異常化している場合は再臨界の危険性はゼロではないということであって、「海水注入について、真水がなくなった場合には冷却のためには海水注入が必要であるという点では私と海江田大臣を初め、そうした専門家の皆さん、関係者の皆さんは一致」していた以上、制御棒の現状以上の異常化を可能な限り防御するためにも一刻の猶予もないと見做して、東電派遣の技術担当武黒フェローがから準備に1時間半から2時間かかると告げられた時点で検討の時間を設けるまでもなく、準備完了次第海水注入開始せよの指示を出していなければならなかったはずだ。

 だが、そうしなかったことになる。

 班目は無責任だから、菅が再臨界の危険性を言い出したとき、海水注入の場合の再臨界の危険性と制御棒に関わる再臨界の危険性を別個に扱うべきだと明確に説明しないままに、制御棒に関わる再臨界の危険性にまで広げて、「今現在ですら再臨界が起こっているんじゃないかと言われる学者の先生もいる」とする文脈で「可能性がゼロではない」と発言したのではないだろうか。

 だとしても、菅が言い出した「再臨界の危険性」であることに変わりはないはずで、ウソをついた参考人証言となる。

 そもそもからして海水注入の方針を決めた段階で海水注入の場合の危険性の有無を検討していなければならなかったはずだが、準備にかかる時間の間にその検討を行うという矛盾すら見せている。

 しかも海水注入準備の指示と海水注入開始の指示という二段階の指示を出すことにしていたことになる。

 経済産業省原子力安全・保安院は3月12日午後3時20分に東電からファクスで「準備が整いしだい海水を注入する予定」という報告を受けている。

 いわばこの報告の前に官邸から東電に対して海水注入の指示を出しているはずだ。指示を出していないのに東電から「準備が整いしだい海水を注入する予定」といった報告はできない。

 このファクス文からすると、準備だけの指示であったと窺うことができる。だから東電の方から、「準備が整いしだい海水を注入する予定」ですよの催促を必要としたということであろう。

 もし東電がファクスを出す以前に官邸が東電に対して海水注入の指示と準備次第注入開始の指示を出していたとしたら、海江田経産相が午後8時5分、東電に対して原子炉等規制法に基づいて海水注入の命令を出しているが、明確に東電が海水注入を中断したことを認識していた上での改めての指示となる。

 また午後8時5分になってからの海江田命令は上に挙げた2011年5月23日の衆院震災復興特別委員会で、谷垣総裁の質問に対する班目委員長の答弁とも矛盾することになる。

 班目委員長、「私の方からですね、この6時の会合よりもずうーっと前からですね、格納容器だけは守ってください。そのためには炉心に水を入れることが必要です。真水でないんだったら、海水で結構です。とにかく水を入れることだけは続けてくださいということはずーっと申し上げていた」

 「6時の会合よりもずうーっと前」の段階で真水、海水いずれかの注水を進言していた。当然、「海水でも結構です」と発言した以上、海水注入の場合の原子炉に決定的な危険性がないことは説明していたはずだ。

 また、海水注入の危険性が例え存在したとしても、注入しない場合の危険性を差し引きして、前者がより危険性が少ないからこその進言でなければならないことは断るまでもない。

 当然、再臨界の危険性を無視できる真水、海水いずれかの注水の進言でなければならないということも断るまでもないはずだ。

 だが、菅は6時から会合を設けて、海水注入の場合の問題点を検討させている。

 矛盾だらけである。

 桜井委員は東電の方から保安院に海水注入を開始したという連絡が入りながら、「それが当時の総理の所に届いていないというこをよく分かりました。その辺は当時の最高指揮官としてどのようにお考えでしょうか」と追及したのに対して菅は次のように証言している。

 菅仮免「これはですね、例えば保安院の、直接的には責任者は経産大臣です。経産大臣が例えば、同席していた武黒フェローにですね、聞いてみたら、実はもう入っていたというような話があれば、間違いなく私にもですね、大臣なり来ます。

 武黒フェロー自身がそのことを認識したら、私と一緒の会(合)で話をされたことなんですから、私に直接言うのがですね、当然でありまして、そういう関係でなければ、別ですよ。

 ですから、私にはその間の保安院にどう伝わったかということも、少なくともその当時は知りません」

 この点について桜井委員はそれ以上の追及をしていないが、桜井委員が問題としたことは保安院と官邸との情報共有の不行き届き、あるいは情報共有の欠陥であるはずである。

 それを菅は、「経産大臣が例えば、同席していた武黒フェローにですね、聞いてみたら、実はもう入っていたというような話があれば、間違いなく私にもですね、大臣なり来ます」とか、「武黒フェロー自身がそのことを認識したら、私と一緒の会(合)で話をされたことなんですから、私に直接言うのがですね、当然でありまして、そういう関係でなければ、別ですよ」と官邸と保安院間の情報共有の問題からずらして答える狡猾さ、あるいはゴマカシを見せている。

 また、官邸と保安院の情報共有に欠陥があったなら、その原因を探る検証が行われていなければならない。桜井委員は検証を行ったのかということも追及すべきだったが、何ら追及じまいであった。

 保安院は大震災発生の翌日の、官邸6時~6時20分会合5時間前の3月12日午後1時頃、「1号機において耐圧ベントができない場合に想定される事象について(案)」を作成している。
  
 この文書がいつ官邸に報告されたか正確には分からないが、「3月12日原子力安全委員会への送付資料」と印刷されている以上、官邸に別印刷で届けたか、あるいは原子力安全委員会から官邸に報告されていたことにある。内容を読むとこの報告に基づいて官邸が行動していたことが分かるからだ。

 またこの文書は秘密にされていて、情報公開法に基づいて開示されたもので、だから、(原子力保安院による報道資料/2011年09月13日(火))の文字が印刷されている。

 〈1-6(追加資料・3月12日原子力安全委員会への送付資料)福島第一原子力発電所第1号機において耐圧ベントができない場合に想定される事象について (原子力保安院による報道資料/2011年09月13日(火))

 現時点のドライウェル圧力である0.75Mpa(abg)において、耐圧ベントができない状態が継続する場合、格納容器の耐圧が設計圧力の3倍と仮定すると、約10時間後に大量の放射性物質が放出される。

 このとき、炉心内蔵量に対して希ガス100%、よう素、セシウム約10%、ストロンチウムその他1%未満の放射性物質が放出されると仮定すると、被ばく線量は敷地境界において数ベルト以上と想定される。

 さらに気象条件によっては、発電所から3~5㎞の範囲において著しい公衆被曝のおそれがある。

 対応策

 (1)電源が復旧する場合

  ESS(非常用炉心冷却系)の活用いよる炉心の積極的な冷却に努めると共に、残留熱除去系を用いた炉心燃料の崩壊熱を除去することが可能となる。

 (2)電源が復旧しない場合

  利用できる全ての注水設備の活用により、各王容器の圧力を下げ、その損傷の延命を図り、この間に電源の復旧を進めることが考えられる。

  具体的には、消防車による注水を利用する。この際、十分な水の確保が必要となる。〉・・・・・

 報告はベントと注水の必要性を勧めている。消防車による注水、あるいは自衛隊ヘリコプターによる注水は電源が回復するまでで、回復以後は循環水に替えている。

 政府はこの報告に基づいて行動していた。

 だが、この報告や同じ原子力安全・保安院策定の「福島第一(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」は官邸に届けて情報共有を図っていながら、特に菅の行動が問題とされていることに関する報告は両者間に情報共有の欠陥を見せることになる。

 しかもその点を追及されても、正面から答えない狡猾さを見せる。

 そもそもからしてこの文書が情報公開で開示請求されるまで秘密にしていたことが限りなく疑問を抱かせる。

 発言順不同となるが、最後に菅首相が海水注入の一時停止を東電に指示したと批判されている点についてを取り上げる。

 桜井委員「少なくとも東電の方では総理の、当時の総理のお言葉を重く受け止めて、そのような行動に出たと思いますが、その点については総理の方はご感想を、どのような見方をされているのでしょうか」

 菅は勝俣恒久東電会長が5月14日に国会事故調参考人として出席、菅の原発視察を批判していることを取り上げている。

 勝俣会長「(当時の)吉田昌郎所長らが対応したが、所長は事故の復旧に全力を尽くすのが一番大事だった。

 (所長に)電話での照会が、首相や首相補佐官からダイレクトにあった。芳しいものではない」(YOMIURI ONLINE

 菅仮免「東電の会長の、この委員会での発言も私は聞いておりました。しかし東電会長はこの問題について本当に技術的なことをですね、関係者から聞かれて言っておられたとは思えないわけであります」

 そして、東電派遣の武黒フェローが官邸の意向ではなく、自身の意向を伝えたに過ぎないと菅に対する批判を否定している。

 菅仮免「よくですね、官邸の意向ということが他の場面によく出ますが、官邸の意向には私自身の意向、あるいは私自身を含む政府の意向と、当時官邸に詰めていた東電関係者の発言とか混在しております。

 少なくともですね、東電関係者の発言は官邸の意向というふうに表現されるということは私は間違っていると思います。これはメディアの関係者の皆さんにもはっきりと申し上げておきたいと思います」

 言葉巧みに誤魔化しているが、矛盾だらけを見ることができる。

 「官邸の意向」伝達者は首相や官房長官、その他の政府関係者ばかりではない。民間人もそこに出入りして、「官邸の意向」の伝達者足り得るはずである。

 勿論意思決定に関わる元の情報、意向のソースは菅が言うように首相自身か首相が関わった政府関係者であるが、政府関係者以外の者がいくらでも「官邸の意向」の代弁者足り得る。

 例えば経済界の重要人物が官邸で首相と会見して、部屋から出てきて記者団に官邸の意向として伝える場合がある。格納容器冷却のために海水注入を絶対必要としていながら、国会答弁と国会事故調の参考人証言との間の矛盾や海水注入の準備と注入開始の指示を二段階としていた矛盾、その他の矛盾からして、武黒フェローが純粋に自身の判断を「官邸の意向」だと伝えたとは考えにくい。

 首相との間に何らかの会話の機会があり、その会話を媒体として官邸の意向が生じることになるから、官邸の意向は首相との何らかの会話の機会を前提とすることになり、その会話の機会が存在しない場合は、一般的には官邸の意向も存在しないことになる。

 その立場にないにも関わらず、「官邸の意向」伝達者に早変わりするとは考えにくい。

 いずれにしても国会事故調参考人証言自体に詭弁や矛盾、誤魔化し、無責任をいくらでも見い出すことができる。簡単に言うと、菅はウソつきである。

 オオカミ少年と同じで、例えたまに事実を言ったとしても、自己都合からの事実でしかなく、全体的なウソ・ゴマカシ・詭弁に変化を与えはしないはずだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

橋本大阪市長の大飯原発再稼働反対、最初の強硬姿勢もどこへやらのあっさりと掲げた白旗

2012-06-02 12:39:53 | Weblog

 関西電力の八木誠社長が4月9日午前、経済産業省訪問、枝野経産相に再稼働を目指す大飯原子力発電所3・4号機(福井県おおい町)の安全性向上の対策をまとめた工程表を提出。

■大飯原発3、4号機の安全性向上のための工程表の概要

【外部電源対策】

 ・3、4号機への送電線の増強(平成25年12月)

 ・鉄塔基礎の安定性向上のための対策(24年度)

【所内電気設備対策】

 ・恒設非常用発電機の設置(27年度)

 ・防波堤のかさ上げ(25年度)

 ・建屋の扉を水密扉に取り替え(24年6月)

【冷却・注水設備対策】

 ・中圧ポンプの配備(24年5月)

【格納容器破損・水素爆発対策】

 ・フィルター付きベント設備の設置(27年度)

【管理・計装設備対策】
 ・免震事務棟の設置(27年度)

 ・政府系関係機関とのテレビ会議システムの導入(25年度)

 (以上「SankeiBiz」記事から)

 政府と関西電力が目論んでいる再稼働時期以降の安全対策完了がいくつもある。いわば安全対策完了前の再稼働という矛盾――見切り発車の矛盾がそこにあるが、「そんなこと関係ない、関係ないって言ったら、関係ない、オッパピー」というわけなのだろう。

 だが、オッパピーだとしても、浜岡原発停止要請は“東海地震発生30年以内87%確率”を根拠としていたが、いくら確率が高くても一種の仮想の確実性であることと地震や事故発生時期の予測不可能性を兼ね合わせて見た場合、浜岡原発停止要請と大飯原発再稼働は二重基準となる、もう一つの矛盾を抱えることになる。
 
 4月9日午前、関西電力が「安全性向上のための工程表」を政府に提出。

 4月9日夜、野田政権は4回目の関係閣僚会議を開催。関西電力提出の工程表は政府の新安全基準に概ね適合と判断。最終判断は4月12日開催の次回会議に行うとした。

 枝野経産相(関西電力が提出の安全対策工程表について)「原子力安全・保安院が求めている内容に沿っており、安全対策を時期も併せて具体的に明らかにし、事業者みずから取り組む姿勢が明確になっていると確認した。大飯原発の3号機と4号機については、安全基準に照らしておおむね適合していると判断した」(NHK NEWS WEB

 どこに不備を認めることができないとしていながらの、最終判断先送りである。あまりに早い決定は拙速の批判を浴びる懸念があり、それを回避するための最終判断の先延ばしと見ることもできる。

 4月12日、5回目関係閣僚会議を開催。だが、結論を持ち越した。「再稼働ありきだ」、「拙速だ」だの批判回避のために徹底的に検討し、議論を重ねて完璧な結論を引き出すための努力を果たしている、そういったポーズを演じる必要からの結論持ち越しなのかもしれない。

 安全対策完了前の再稼働という矛盾に変わりはないし、浜岡原発と二重基準であることにも変わりはないにも関わらず、再稼働に向けて鋭意駆け込もうとしているのである。政府側からしたら、これらの解消できない矛盾を解消しようと謀るとしたら、時間をかけて徹底的に検討し、議論を重ねて、最初から決まっている結論を導き出すとするポーズを取るしかないのだろう。

 4月13日開催の6回目関係閣僚会合開催。大飯原発の安全性について最終確認。今夏の厳しい電力需給に対応するため運転再開の必要性があると判断。

 4月13日――

 橋下大阪市長「野田政権がそういう判断をされたのなら、あとは国民がどう判断するかだ。僕は安全については分からないが、こんな統治の仕方は絶対ありえない。国の原子力安全委員会にコメントを出してもらって、安全なのか不十分なのか、そのコメントが出たうえでの政治決断なら、それもありかと思ったが、一切そういうことをやらない統治の在り方では日本がだめになる」
 
 4月13日夜――

 橋下大阪市長「民主党政権を倒すしかない。次の(衆院)選挙の時に(政権を)代わってもらう。

 (内閣府の)原子力安全委員会に大飯原発が安全なのかどうか、コメントをしっかり出させないといけない。(安全委は)ストレステストの一次評価の結果を了承したが、安全だとは一言も言っていない。民主党の統治のあり方は危険だ。

 次の選挙では絶対(再稼働)反対でいきたい」(YOMIURI ONLINE

 橋下大阪市長「こんな再稼働は絶対許してはいけない。ストップをかけるには国民が民主党政権を倒すしかない。次の選挙の時に政権を代わってもらう」 (asahi.com

 4月24日午前――

 橋本市長、松井大阪府知事と共に訪れた総理官邸で大飯原発再稼働の8条件を藤村官房長官に申し入れる。 

 原発再稼働に関する8条件
  
 【そもそも論】

現在、政府が原発再稼働を検討する以前に、根本的に欠落している論点があるので指摘しておく。

1. 「次のフクシマ」級の原発事故が起きた場合には、日本を滅ぼすという危機感が欠けているのではないか。

2. 政府や国会に設置された事故調査委員会の報告も行われておらず、原発事故原因が究明されていない状況では、再稼働の検討はできないのではないか。

3. 原発事故は当事者の東電だけでなく、原子力安全・保安院と原子力安全委員会には「安全規制の失敗」が免れないのではないか。だとすれば、現在の再稼働の手続きは、いわば「A級戦犯」が進めている構図にならないか。

4. 原発が十分な安全性を持つかどうかは、信頼に足る専門家が客観的・中立に判断すべきであり、政治家がそれを判断するというのは「間違った政治主導」ではないか。

以上の「根本的に欠落している論点」を踏まえた上で、次の「八条件」を満たすことが原発再稼働の前提条件であると考える。

1. 国民が信頼できる規制機関として3条委員会の規制庁を設立すること

2. 新体制のもとで安全基準を根本から作り直すこと

3. 新体制のもとで新たな安全基準に基づいた完全なストレステストを実施すること

4. 事故発生を前提とした防災計画と危機管理体制を構築すること

5. 原発から100キロ程度の広域の住民同意を得て自治体との安全協定を締結すること

6. 使用済み核燃料の最終処理体制を確立し、その実現が見通せること

7. 電力需給について徹底的に検証すること

8. 事故収束と損害賠償など原発事故で生じる倒産リスクを最小化すること

 5月30日、細野原発事故担当相出席の関西広域連合会合。《大飯原発再稼働問題 関西広域連合「政府の安全判断は暫定的」》FNN/201205/30 21:48)

 細野原発事故担当相「基準を満たさないという判断がなされた場合には、これは、大飯(原発)3・4号機を含めですね、全ての原発、いかなる原発であったとしても、使用の停止を含めた厳格な措置が講じられるということになることは、あわせて申し上げたいと思います」

 25年度完成だ、27年度完成だと、再稼働予定時期には基準を満たしていない安全対策がいくつもあることに対して再稼働を許可したとしても、以後次の定期検査まで許可を認め続けるわけではない。「基準を満たさないという判断がなされた場合」は「使用の停止を含めた厳格な措置」を講ずると言っている。

 言っていることが最初から矛盾している。

 山田京都府知事「暫定基準であるという形で、お話しをしていただいた。暫定というのは、基準だけなのか?」

 橋下大阪市長(テレビ電話出席)「基準が暫定なのに、なぜ安全は暫定とならないのか?」

 細野原発事故担当相「この原子力の安全ということに関しては、もはやですね、万全というのはあり得ないと。常に、新しい知見に基づいて、新しいさまざまな対応をし、常に高いレベルを目指していくというのが、私ども政府の認識でございます」

 原子力の安全に関しては万全はあり得ないから、安全対策が25年度完成であっても、27年度完成であっても、取り敢えずは暫定的な安全基準で動かして、以後のことは新しい知見に基づいた様々な対応を図っていくと言っている。

 だがである。もし「万全というのはあり得ない」なら、「あり得ない」以上、「常に、新しい知見に基づいて、新しいさまざまな対応をし、常に高いレベルを目指し」たとしても、その安全対策にしてもやはり万全ではないことになる。

 ということは常に暫定的な安全基準で再稼働することが許されることになる。浜岡原発の再稼働問題が持ち上がったとしても、他の場合でも、「この原子力の安全ということに関しては、もはやですね、万全というのはあり得ないと。常に、新しい知見に基づいて、新しいさまざまな対応をし、常に高いレベルを目指していくというのが、私ども政府の認識でございます」が錦の御旗となって罷り通ることになる。

 そこどけ、そこどけ再稼働だとばかりに。

 万全はあり得なくても、最大限の安全基準を前提とするのが危機管理であって、「万全というのはあり得ない」を絶対条件として、取り敢えずは動かすといった暫定措置は現時点で可能な限りの万全を期すべき危機管理の手前許されないはずだ。

 「暫定」という言葉の意味は、「正式に決定するまで、仮に定めること。臨時の措置」(『大辞林』三省堂)であって、細野は「暫定的」という言葉を直接には使っていないが、「万全というのはあり得ない」として、万全ではない安全基準で取り敢えず動かすとしていることは「暫定的」措置そのものとなる。

 同5月30日――

 関西広域連合、大飯原発3・4号機の再稼働に関する声明を発表。

 関西広域連合の『原発再稼働に関する声明』

関西地域は、40 年以上にわたって、若狭湾に立地する原子力発電所から安定的な電力を受け続け、産業の振興と住民生活向上が図られてきた。またのそ安全確保のため立地県である福井が独自に特別な安全管理組織と専門委員会を設置し、常時厳しい監視体制がとられてきた。関西の現在発展は、こうした取組がなければありえなかったといっても過言ではない。

そのようななか 、関西電力大飯原子発所第3号機・第4号機が定期検査を終え、再稼働の時期を迎えているが、関西広域連合は、東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、安全性が確認できなければ再稼働すべきでは ないとの立場から、政府に対し三度ないとの立場から、政府に対し三度にわたる申し入れを行い、これに基づいて5月19日と本日の広域連合委員会において説明を受けた。

「原子力発電所の再起動にあたって安全性関する判断基準」は 、原子力規制庁等の規制機関が発足していない中での暫定的判断基準あることから、政府の安全判断についても暫定的なものである。従って、大飯原発の再稼働については政府の暫定的な安全判断であることを前提に、適切な判断をされるよう強く求める。

平成24年5月30日

関西広域連合

連合長 井 戸 敏 三 (兵庫県知事 )

副連合長 仁 坂 吉 伸 (和歌山県知事 )

委員 嘉 田 由紀子 (滋賀県知事 )

委員 山 田 啓 二 (京都府知事 )

委員 松 井 一 郎 (大阪府知事 )

委員 平 井 伸 治 (鳥取県知事 )

委員 飯 泉 嘉 門 (徳島県知事 )

委員 橋 下 徹 (大阪市長 )

委員 竹 山 修 身 (堺市長)

 「暫定的」という言葉をやたらと使っている。再稼働容認を「暫定的」を口実に正当化しているようにも見える。

 同5月30日――

 橋下大阪市長「(再稼働を)容認するわけではない。暫定的な安全基準に基づく暫定的な判断なのだから、限定的に動かすのが論理的な帰結だ」(MSN産経

 自身が主張した夏場1、2カ月の間の臨時運転を條件とした再稼働容認の発言となっている。

 5月30日夜、関係閣僚会議開催。

 野田首相「(関西など)関係自治体の一定の理解を得られたと認識している。立地自治体の判断が得られれば、4大臣会合で議論し最終的には私の責任で判断する」(ロイター

 6月1日午前9時過ぎ――

 橋下大阪市長「大飯原発の問題は正直、負けたといえば負けたと思われても仕方ない。反対し続けなかったということにおいては、責任も感じている」(日テレNEWS24)

 3条委員会規制庁設立等の条件付き大飯原発再稼働反対から、夏場の1、2カ月の間の臨時運転條件の再稼働容認へ、さらに無条件の再稼働容認へと後退、「正直、負けたといえば負けたと思われても仕方ない」と敗北宣言を出すに至った。

 6月1日午前夜――

 《橋下市長 原発で民主と対決撤回も》NHK NEWS WEB/2012年6月1日 21時19分)

 橋下大阪市長「暫定的な安全判断なのに、政府は原発の安全を宣言し、国民をだましたということで政権の在り方としておかしいと言ってきた。今回、細野大臣が、暫定的な基準による暫定的な安全判断だということを真正面から認めたとなれば、前提事実がなくなる。

 大阪維新の会としても、以前に決めた方針というものが変わる可能性は大いにある」

 記事はこの最後の発言を、〈原発問題で民主党と対決するとした方針を撤回する可能性が高いという考えを明らかにしました。〉と解説している。

 だが、「細野大臣が、暫定的な基準による暫定的な安全判断だということを真正面から認めた」からと言って、政権批判の「前提事実がなくなる」わけではあるまい。逆に「前提事実」が明白になり、政権批判の正しさが証明されたということではないだろうか。

 あるいは「国民をだましたということで政権の在り方としておかしいと言ってきた」ことの正しさが証明されたということであるはずである。

 いくら細野原発事故担当相が「暫定的な基準による暫定的な安全判断」だと真正面から認めようと、現時点で可能な限りの万全を機した安全基準で再稼働を許すということではなく、「暫定的な基準による暫定的な安全判断」で再稼働することに変わりはないからだ。

 民主党政権打倒と大飯原発再稼働反対・阻止に向けて益々熱意を燃やすのではなく、再稼働容認の白旗をあっさりと掲げた。

 《橋下市長、倒閣発言を撤回「今後は慎重に使》YOMIURI ONLINE/2012年6月1日21時37分)

 橋下大阪市長「(倒そうとする)前提事実がなくなった。

 『倒閣』は人生で1回使うかどうかのフレーズ。今後は慎重に使う。

 (夏場限定の再稼働論を引き続き主張している観点から)大飯原発がずるずる動き続ければ、国民は民主党政権がおかしいと思ってくれる。どう政権を監視してもらうかを考えるのが僕の重要な役割だ」

 しかし、夏場限定の稼働の確約もないままに現時点で可能な限りの万全を期した安全基準での再稼働ではなく、暫定的安全基準による再稼働であることに変わりはないし、大飯原発再稼働に向けた最初の強硬な姿勢からの、その強硬な姿勢をどこかに捨ててしまった後退であることに変わりはない。

 それが「負けたといえば負けたと思われても仕方ない」という言葉になって表れたということでなければならない。

 白旗を掲げるにしても、回りくどい言葉ではなく、もっと素直に潔く認めるべきであろう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

菅仮免の福島第1原発視察国会事故調参考人証言から見る危機的状況に応じた行動性の欠如

2012-06-01 07:45:35 | Weblog

 菅仮免の国会事故調参考人証言の「2011年3月12日福島原発現場視察証言」のみを取り上げて見るが、無責任と嘘と詭弁と同時に危機的状況に応じた適切な行動性の欠如が浮かんでくる。

 質問者は桜井委員。桜井正史氏は元名古屋高検検事長だそうだが、検事を長く務めていた割には追及が下手くそである。2011年3月11日大震災発生以後の菅と事故対応関係者の国会発言やインタビュー記事等、詳細に調べてから追及に当たるべきだと思うが、どうも中途半端の資料を基に追及しているとしか思えない。 

 桜井委員「次に総理が福島第1に視察に行かれたことについて伺いますが、津波、その他の被害の所も併せて視察をなさったことは皆さんもご承知で、改めてご説明はいりませんが、福島第1原発をご自分で行かれたということは如何でしょうか」

 菅仮免「視察に行く目的は、今言われましたように地震・津波の現状を直接私が見て認識したい。これはかつての阪神・淡路の震災のときに、当時の内閣、私は内閣のメンバーではありませんでしたけど、そういった関係者がいつ行く、いつ行かないで色々と議論があったことを私も覚えております。

 私としてはテレビ出見ておりましたけれども、やはり現場の状況を上空でいいから、やはり見ておくことが、その対策を取る上で極めて重要だという認識を一方で持っておりました。

 一方で原発については11日の発災直後から、原子力安全・保安院、原子力安全委員会、そして東電から派遣された技術担当のフェロー、そうした皆さんから色々と話を聞いておりましたけれども、そういう皆さんの話の中で、例えば第1サイトの原子炉の状況がどうなっているのかとか、あるいはどうなりそうだとか、こうなった場合はこういう形で対策を打つべきであるとか、そういう話は残念ながら一切ありませんでした。

 例えばあったのは、東電から先ず電源車を送る、そのために協力して欲しい。そういうことについて色々やりました。後にベントの話もありました。しかしそういった根本的な状況についての説明は残念ながらありませんでした。

 特にベントに関しては既に経産大臣の方から、東電がベントをしたいということについて了解していると言っているにもかかわらず、何時間経っても、それが行われない。

 私からも東電から派遣された方に、なぜ進まないんですかとお聞きしました。そしたら、分からないと言われるんですね。わからないと言われるのは本当に困りました。

 技術的な理由なのか、何か他に理由があるのかですね、分かれば、またそれに対して判断できますから、そういった状況がありましたので、私としては福島のF1、第1サイトにその責任者と話をすることによって、状況を把握できるんじゃないかと、そう考えまして、地震・津波の視察を併せて福島第1サイトの視察に行くことを決めたわけです」

 桜井委員「福島の第1で当時の吉田所長と会われまして、その結果、行われた先程の目的とその他のことで、どのような成果というか、結論を得られたのでしょうか」

 菅仮免「免震重要棟に入りまして、2回の部屋に入りました。そこで吉田所長と、確か武藤副社長がその同席をされて、こちらに何人かが同席をされていました。

 その中で炉の図面などを広げて、今の状況の概略の説明がありました。その上で、私の方から、ベントについて、我々としたら、もう了解をしているのでベントを行わないと圧力が上がって、格納容器が破壊されると、そういう危険があると聞いているので、何とか早くベントをやって欲しいと申し上げましたら、『分かりました』と。『決死隊をつくってでもやります』と、そういう返事をいただきました。

 それで私も、この所長なら、しっかりやってくれるという印象を持ちまして、確か免震棟降りましたのは40分程度でありますが、それでそこを後にしました。

 私としてはその後、色々な判断をする上で、特に東電の撤退問題、後程話題になるかもしれませんが、そういったことは判断する上で、必ずしも私は何回もお話ししたわけではありませんが、現場の皆さんの考え方、あるいは見方を知るという上では極めて大きなことであったと。そこで顔と名前が一致したということは極めて大きなことであったと、このように考えております」 

 菅は地震・津波のヘリコプター上空視察の動機を次のように証言している。

 菅仮免「視察に行く目的は、今言われましたように地震・津波の現状を直接私が見て認識したい。これはかつての阪神・淡路の震災のときに、当時の内閣、私は内閣のメンバーではありませんでしたけど、そういった関係者がいつ行く、いつ行かないで色々と議論があったことを私も覚えております。
 
 私としてはテレビ出見ておりましたけれども、やはり現場の状況を上空でいいから、やはり見ておくことが、その対策を取る上で極めて重要だという認識を一方で持っておりました」――

 「視察に行く目的は、今言われましたように地震・津波の現状を直接私が見て認識したい」、あるいは、「現場の状況を上空でいいから、やはり見ておくことが、その対策を取る上で極めて重要だという認識を一方で持っておりました」

 至極尤もな目的と言える。あるいは至極尤もな理由に聞こえる。

 だが、このことと、「かつての阪神・淡路の震災のときに、当時の内閣、私は内閣のメンバーではありませんでしたけど、そういった関係者がいつ行く、いつ行かないで色々と議論があった」こととどうつながるのだろうか。上の二つの目的だけで十分であって、持ち出す必要のない「阪神・淡路の震災のとき」の現地入りの譬えである。

 だが、持ち出した。

 「いつ行く、いつ行かないで色々と議論があった」からを理由に、「地震・津波の現状を直接私が見て認識したい」、あるいは「現場の状況を上空でいいから、やはり見ておくことが、その対策を取る上で極めて重要だという認識を一方で持っておりました」を目的とした、理由と目的の関係は果たして前後矛盾のない正当性を見い出し得るだろうか。

 多くの死者、多くの被害を出すような大災害が発生したときの一国のリーダーの現地入りの「いつ行く、いつ行かない」の時期は阪神・淡路大震災のときだけに限った話ではなく、常に取り沙汰される問題であって、適切な時期を逃した場合、批判を受けるだけではなく、支持率を下げる失態ともなり得ることから、リーダー本人のみならず、政府部内でも「いつ行く、いつ行かない」の議論が噴出することになる。

 その結果として、「いつ行く、いつ行かない」の適切な時期の判断はマスコミや国民の批判回避が隠れた目的と化し、そのことを理由として時期が決定されがちとなる。

 もし3月12日の視察が「いつ行く、いつ行かない」を隠れた目的とし、そのことを理由とした時期決定であったなら、証言に於ける理由と目的の関係が矛盾していることに気づかないままの、阪神・淡路大震災の前例を挙げた視察であったとしても理解可能となる。

 もしかしたら、緊急事態宣言発令が2時間以上も遅れて厳しい批判に曝されることになったために羮に懲りて膾を吹く心の状態に陥り、指揮官は情報の収集と発信の中枢たる官邸に構えて、収集した情報を適切・的確に処理し、処理した情報の発信を通して初動対応の陣頭指揮に当たらなければならない責任を負っているにも関わらず、「いつ行く、いつ行かない」の焦りに駆られたまま震災翌朝早々に官邸を離れて早過ぎる視察に出かける軽挙を犯したと勘繰ることもできる。

 「いつ行く、いつ行かない」はその後も続く。菅仮免の最初の被災地訪問は3月21日宮城県石巻市の避難所、その他を視察する予定でいたが、天候不良を理由に中止となった。

 だが、それは表向きの理由で、菅の3月12日福島第1原発現場視察が現場の作業を遅らせたという批判と、震災発生から10日しか経っていないために被災地視察が地元自治体の負担となるという批判もあり、政府部内でも時期尚早との意見があったというから、悪天候を理由に軽挙回避・批判回避を隠れた目的とした視察中止とも解釈できないことはない。
 
 但し、中止だけで終わらなかった。中止を決めたのは3月21日当日の午前5時台とかで、視察受け入れの準備を進めていた被災自治体は災害対応に無駄に手を休めたことになって、中止がまた批判を呼ぶことになった。

 菅仮免が被災地訪問を最初に果たしたのは4月2日である。だが、歓迎されなかった。遅過ぎるという批判すら起きた。3月21日では早すぎる。4月2日では遅すぎる。

 この意味を解くとしたら、緊急事態宣言発令の遅れ、避難指示の自治体連絡不徹底、SPEEDIデータの未公表、3月12日福島第1原発現場視察の不適切さ、救援物資配布の遅れ等々が国民をして菅仮免の一国のリーダーとしての指導力や人間性を問題とするようになっていて、既に「いつ行く、いつ行かない」を問題外としていたということではないだろうか。

 いわば何をしても批判を受ける状態になっていた。

 菅仮免は福島原発現場視察を原子炉の状況に関わる具体的な情報が官邸に上がってこないために自ら現場に足を運んで状況把握することを理由とした。

 だが、この理由も疑わしいい。

 3月11日午後22時、原子力・保安院が「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」を官邸災害対策本部事務局に提出している。

 3月11日20時30分――原子炉隔離時冷却系(RCIC)中枢機能喪失
     21時50分――燃料上部から3メートルの水位。今後さらに低下
     22時50分――炉心露出
 3月12日 0時50分――炉心溶融の危険性。
     5時20分――核燃料全溶融。最悪爆発の危険性。

 これは2号機の予測だが、1号機がより危険ということで、1号機への対応を先行させることになる。このことは菅仮免も国会事故調で、「1号機へと焦点が移っていくことになりました」と証言している。

 その結果の格納容器内の圧力を逃がす応急措置としての1号機ベント実施の決定であろう。

 評価結果は11日22時半、首相に説明。

 この原子力安全・保安院の「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」から、いくら楽天家のノー天気菅仮免でも、一国の首相としての精神状態からして切羽詰まった危機感を抱いていたはずだ。

 既に2時間20分も遅れた3月11日19時03分の緊急事態宣言発令の失態を犯している。自身の首が飛ぶかもしれない地位上の危機感を併せ持っていたとしても不思議はない。

 しかも菅自身が「ベントを行わないと圧力が上がって、格納容器が破壊されると、そういう危険があると聞いている」のに対して「何時間経っても、それが行われない」、行われない理由も分からないという状況にあったことからして、原子炉の危機的状況をひしひしと実感もしていたろう。

 だからこその自分の目で確かめるための現場視察だと一見整合性を与え得るが、ベントに関わるこの切羽詰まった危機感に反した矛盾した行動をいくつか見ることができる。

 最初の矛盾は昨年2011年3月28日午後の参院予算委員会の班目答弁から窺うことができる。。

 佐藤ゆかり「今回総理が被災した福島原発をですね、ヘリで視察をされた。早速視察をされたわけでして、保安員(原子力安全委員会委員長の間違いか)も同行されたわけですが、そのことによってですね、この原発事故が勃発した初動が遅れたという指摘も一部に出ているわけであります」

 斑目原子力安全委員会委員長「総理と同行して、ま、あの、そこは、あの、えー、総理が、『原子力について少し勉強したいということで私が同行したわけでございます。

 現地に於いてですね、あの、何か混乱があったというふうには私は承知をいたしておりません」

 佐藤ゆかり「まあ、あの、勉強している暇ではないんですねぇ。本当に地元の危機、緊急対応の初動がこれによって遅れたと、するならば、エ、本当にこれは人災とも言わざるを得ない、わけでありますね」――

 原子炉の危機的状況を前にしての状況把握を「原子力について少し勉強したい」は切羽詰まった危機感からは程遠い軽過ぎる言葉であり、気持自体の軽さが表現することになった軽い言葉ということであろう。

 いわば気持の軽さなくして出てこない軽い言葉ということである。切羽詰まった危機感を和らげたり、抑えたりするための軽い冗談では決してない。

 福島原発現場視察は「原子力について少し勉強したい」という軽い気持を動機としていたと解釈せざるを得ない。

 要するに情報が上がってこないことからの状況把握のための視察だとは菅自身が勝手に捏造した理由と目的でしかなく、実体は緊急事態宣言発令の遅れによって受けることになった厳しい批判を挽回、帳消しして、マスコミや国民の批判を回避するための「いつ行く、いつ行かない」を優先させた大震災発生翌日早々の3月12日であり、だからこそ、「原子力について少し勉強したい」という軽い気持を自らに許すことになったのだということである。

 視察を菅自身が勝手に捏造した理由と目的だとした具体的根拠は菅の国会事故調証言の次の言葉そのものからも見ることができる。

 菅仮免「私からも東電から派遣された方に、なぜ進まないんですかとお聞きしました。そしたら、分からないと言われるんですね。分からないと言われるのは本当に困りました」

 「なぜ分からないのか。分かるようにできないのか。早急に分かるようにしてくれ」となぜ強硬に求めなかったのだろうか。

 一国の総理である。そのくらいの要求をして、要求に応えさせることができなければ、そのリーダーシップは無きに等しいことになる。

 一国のリーダーでありながら、自らの指揮権を発揮できない、役に立たない状態に曝しているこの矛盾は如何ともし難い。

 次の証言からもリーダーとして人を動かして自分の要求に応えさせる姿勢の欠如を窺うことができる。

 菅仮免「例えば第1サイトの原子炉の状況がどうなっているのかとか、あるいはどうなりそうだとか、こうなった場合はこういう形で対策を打つべきであるとか、そういう話は残念ながら一切ありませんでした」

 夫の不満を他人に述べる妻なら、夫に直接言っても主導権は夫にあるために聞き入れてくれず、つい他人に不満を述べてしまうというケースもあるだろうが、官邸に於いて主導権を握っているのは菅を措いて他にはいない。

 「現場に聞いてくれ。現場に聞いて、直ちに報告してくれ。原子炉の状況が把握できない程ひどい状態になっているのか。正確な状況を確かめ、直ちに報告してくれ」

 情報が上がってこないことを嘆くのではなく、情報を上げさせるのがリーダーのはずである。

 だが、常に逆の姿を演じていた。

 菅は東電本店が東電本店と福島第1原発とテレビ会議システムでつながり、リアルタイムで情報を共有し合っていることを知っていたはずだ。知っていなければならない。

 東電本店に尋ねれば、知ることができた「第1サイトの原子炉の状況」であったはずだ。

 だが、そうはせず、指揮官が指揮する場所から自ら離れて、「責任者と話をすることによって、状況を把握」することにした。

 この情報連絡網が発達した状況下に於いて自分の目で確かめるために自ら出かけることにした。

 視察が自分で勝手につくり出した捏造ではないと決して言えないはずだ。

 次に福島原発現場での行動に現れた矛盾について見てみる。

 桜井委員「福島の第1で当時の吉田所長と会われまして、その結果、行われた先程の目的とその他のことで、どのような成果というか、結論を得られたのでしょうか」

 菅仮免「炉の図面などを広げて、今の状況の概略の説明がありました。その上で、私の方から、ベントについて、我々としたら、もう了解をしているのでベントを行わないと圧力が上がって、格納容器が破壊されると、そういう危険があると聞いているので、何とか早くベントをやって欲しいと申し上げましたら、『分かりました』と。『決死隊をつくってでもやります』と、そういう返事をいただきました。

 この菅の発言と態度には大きな矛盾がある。

 原子力・保安院が「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」を提出したことによって原子炉の今後の危機的状況が予測できた上にベントを早急に実施しなければ格納容器内の圧力上昇、ついには格納容器を破壊させる危険性があるという切羽詰まった危機感を持っていたはずだし、持っていなければならなかった。

 持っていなかったとしたら、何のための視察か分からなくなる。

 だとしたら、現場責任者である吉田所長と顔を合わせる早々にベントの実施を求めていいはずだ。自身の言葉でも、「特にベントに関しては」と断りを入れて、「既に経産大臣の方から、東電がベントをしたいということについて了解していると言っているにも関わらず、何時間経っても、それが行われない」ことの懸念を示していた。

 だが、ベント実施要求よりも「炉の図面などを広げて、今の状況の概略の説明」を優先せた。

 真にベントの実施如何が格納容器内の圧力上昇と格納容器の破壊に関係するなら。炉の図面を広げて原子炉の現在の状況を聞いている間にも刻々と圧力が上昇し、格納容器の何らかの損傷に向かっている危険性すらあったはずだ。

 だが、菅は矛盾した行動を取っていた。

 この矛盾した行動にしても、「いつ行く、いつ行かない」の適切な時期を判断基準とした視察であり、そのために班目が言っていたように、「原子力について少し勉強したい」といった軽い気持ちを自分に許したと見たなら、矛盾は解消でき、整合性を得ることができる。

 菅自身が勝手に捏造した状況把握のための視察だとする根拠はこの点でも説明可能となる。

 いわば実際には状況に応じた行動を取っていなかった。

 この場に於ける危機的状況に応じた行動とは現場の人間が事故を抑える作業を滞りなく進めることができるように図ることであって、炉の図面を広げさせて原子炉の状況を説明させていることではなかったということである。

 菅の原子炉に関わる現在の状況理解が事故対応の現場作業にどれ程役に立つというのだろうか。

 状況に応じた行動が取れていなかったことの例をもう一つ挙げてみる。

 2011年12月25日日曜日TBS放送『「報道の日2011」記憶と記録そして願い』(第三部)

 班目原子力安全委員会委員長「これはもう、あのー、大きなことになるので、えー、当然、(官邸に)原子力災害対策本部が立ち上がるだろうっていうので、待っていたんですけどもね、えー、案外招集がかかるのが遅くて、あのー、確か6時半ぐらい前に、あのー、安全委員会の方を出て、官邸に向かったんだと思っております。

 1時間ぐらい、あのー、事情は分からないんですけども、待たされて、ただ待っていたという状態です」

 班目発言との関係で原発事故発生当初を時系列で見てみる。

 2011年3月11日15時42分
 全交流電源喪失事象の発生を受け「原子力災害対策特別措置法」に基づいて第10条通報を行う

 2011年3月11日16時45分
 「原子力災害対策特別措置法」第15条に基づく事象(非常用炉心冷却装置注水不能)が発生したと判断して第15条報告行う。
 
 2011年3月11日18時30分前
 班目、官邸に向かう。1時間程度待たされる。

 2011年3月11日19時03分
 緊急事態宣言発令

 2011年3月11日19時30分前
 班目、原子力災害対策本部メンバーに加わる

 緊急事態宣言発令の遅れもそうだが、3月12日視察の迅速さに反した意見を聞くべき原子力安全委員会委員長招集のこの遅れに見る矛盾はまさに菅仮免が危機的状況に応じた行動が取れていなかったことの証明そのものであろう。
 
 本質的な資質として一国のリーダに欠かすことなく必要とされる危機的状況に応じた行動が取れていないなら、ほんの40分程度の視察によって「現場の皆さんの考え方、あるいは見方を知」ったとしても、大した意味を成立させないはずだ。

 「顔と名前が一致した」ことがどれ程の意味を持つだろうか。

 視察を自己正当化するための尤もらしい詭弁に過ぎないだろう。

 また、「この所長なら、しっかりやってくれるという印象を持」ったとしても、このことは所長自身の資質であって、このような所長自身の資質を以て菅仮免自身の危機的状況に応じた適切な行動性の欠如を補うことができるわけではない。

 いわば自身の不適切な資質を隠した第三者の資質の賞賛に過ぎない。矛盾そのものに本人は気づかない。

 ベントの早急な実施を求めたら、吉田所長が「『決死隊をつくってでもやります』と、そういう返事をいただきました」と簡単に証言しているが、当然、心強い信頼感を持ったろうが、決死隊をつくるという、この言葉の裏を返すと、強い決意を示したと同時にベントが決死隊をつくらなければ完遂できない程の非常に困難な作業となっていることの含意でもあるはずである。

 果たしてこの含意を理解できたのだろうか。一国のリーダーらしく危機的状況に応じた行動を取れない欠陥リーダーシップからしたら、命を賭ける、あるいは決死隊という言葉を使ったとして、口先で終わるのは自明の理で、本質的な理解は到底期待できるはずはない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする