◆3月14日、呉基地を出航
海上自衛隊のソマリア沖における海賊対策としての護衛艦派遣について、その計画の概要が報道された。本日は、その概要と注視した点について、幾つか列挙したい。
今回の海賊対策事案は、海上警備行動という位置づけであり、護衛艦2隻、自衛官400名体制ソマリア沖へ派遣される護衛艦は、呉基地の「さみだれ」「さざなみ」の2隻。護衛艦には2機ずつ、計4機の哨戒ヘリコプターを搭載する。また、司法警察業務を行うために、各護衛艦に4名、計8名の海上保安官が同乗することとなっている。
海上警備行動の実施計画は、3月14日に、さみだれ、さざなみ、が呉基地を出航、2~3週間後に現場海域に到着する。海上警備行動の活動拠点は、ソマリアの隣国、ジプチを中心として行う。防衛省は、今後、海運会社から護衛を規模する商船のリストの提出を受ける方針だ。今回の海上警備行動についてが、現在、インド洋とアラビア海において行われている対テロ海上阻止行動給油支援にあたっている補給艦、護衛艦とも連携を行う構想もあるとのこと。
幾つか重要な点があるので、列挙。まず、むらさめ型、たかなみ型が一隻ずつ派遣されるが、定数1機としていた哨戒ヘリコプターが、今回、2機搭載されているということ。もうひとつは、むらさめ型護衛艦の定員165名と、たかなみ型護衛艦の定員176名、これに航空機整備にあたる五分隊が増員されるのだが、それ以外の隊員も乗務している可能性があるとのこと。更に、商船の護衛リストを求めていることから船団護衛方式を採用していること、さしあたってこの三点に気づいた。
ヘリコプター2機搭載について。ヘリコプター搭載護衛艦はるな型、しらね型は別格としても、海上自衛隊は、護衛艦隊の対潜能力向上という観点から、はつゆき型以降汎用護衛艦について哨戒ヘリコプターの搭載を開始し、はつゆき型では一機分のヘリコプター格納庫を有していたが、以降の、あさぎり型護衛艦、むらさめ型、たかなみ型護衛艦は、通常、1機のヘリコプターを搭載しつつも、緊急時にはもう一機のヘリコプターを搭載できるよう、格納庫の容積に余裕を持たせてある。
ただし、実任務において、2機の哨戒ヘリコプターを搭載して運用することは、今回が初めてではないだろうか。ヘリコプター2機搭載は、海上自衛隊の護衛艦運用体系に新しい柔軟性を付与させる一例となろう。ただし、むらさめ型護衛艦に比べて、たかなみ型護衛艦の方が、着艦拘束装置用のレールが二条(装置は一基)あり、航空搭乗員心室等の位置、そこから生まれる運用の柔軟性で優れており、この点、どう影響するかが興味の生まれるところである。
もうひとつ、特殊警備隊も乗っていることが派遣される隊員について400名という人数を見れば推測することができる。400名、乗員に59名が加わっている。この数字は、もう一機のヘリコプター搭載に関わって、搭乗員に整備要員と、ヘリコプターにかかわる人員の数を上乗せしても、もともと航空関係の五分隊は、管制や施設管理などの要員も含めて編成されており、一機増えることで倍増するわけではない。この人数には、特殊警備隊も含まれていると考えることができよう。
特殊警備隊は、北朝鮮の工作船侵入事案に際しての海上警備行動、はるな・みょうこう・あぶくま、が参加した十年前(十年前の3月22日、奇しくも本当に十年前だ)に発令された最初の海上警備行動命令に際して、その必要性が痛感され編成された部隊で、拿捕した工作船に対する臨検と、必要であれば強行制圧も想定している部隊である。現在、特殊部隊としては、陸上自衛隊の特殊作戦群が自衛隊に置かれており、イラク派遣任務にも殿として出ているようだが、重ねての実任務対処に当たることとなり、その力量が試される機会となる。
ヘリコプターの増強、人員の増加。たかなみ型護衛艦は、もともと紛争時などの邦人輸送を想定して、科員室の二段ベッドを、必要に応じて三段ベットと変更できるようになっている。むらさめ型護衛艦と、たかなみ型護衛艦は、外見上、砲が3インチ砲と5インチ砲、垂直発射装置の種類と位置が違う程度であるが、内部は相当異なる為、一概には言えないものの、一応、一連の乗員増加には対応している設計ではないだろうか。
極めて重要なのは、船団護衛方式を採っていることだ。これは防衛省が海上自衛隊の護衛艦による護衛を希望する商船のリストを海運会社から受け付けることが、船団護衛方式を採ることを示している。サーチ&デストロイ方式での海賊対策となれば、疑わしい船舶を発見したとしても、それが海賊船か、占拠された一般商船なのか、見分けるのは難しい。たとえ疑わしい航行を行っており、船橋を見るとG-3やAKMで武装した覆面の一団がこちらを威嚇してきたとしても、撃沈することにはリスクがあり、誤って占拠された民間船舶を外国艦船が攻撃し、乗組員もろとも撃沈した事例もある。
対して、船団護衛方式であれば、もともと護衛するべき船舶が分かっているのだから、識別は容易だ。もちろん、第二次世界大戦中のような船団を組むわけではないだろうから、ヘリコプターを駆使し、護衛艦との定時交信を以て安全を確認するという方策が用いられるのだろうが、それでも、識別の手段があるというのは心強い。全般的にみても、様々な状況を想定した準備体制にて臨むようだ。
他方で、護衛艦の航行する海域と商船の航行する海域を調整できるのについて、つまり二隻で充分なのかと問われれば、疑問符は残る。加えて、どの程度派遣を行えば終息するのかについての見通しも、ソマリアの治安機構再建にかかっているため、今なお不透明だ。
海は広大である。
HARUNA
[本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる]