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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ミサイル防衛 不可能に立ち向かう意志こそが困難を乗り越える術

2009-03-24 17:55:04 | 国際・政治

◆政府筋の無能無責任な発言

 有能な指導者、無能な指導者。有能な指導者は多いが、一人挙げれば、オウム事件に立ち向かった国松孝次警察庁長官(当時)。オウム真理教が1995年3月20日に地下鉄サリン事件を起こし、数千人の死傷者が出た際、警察庁幹部の一人が浮足立って、長官、警察の負けです、と言ったところ、君は警察官ではないのか、戦うことをやめてしまうのか!!、と怒鳴り付けたという。

Img_7403  本日は後者の事例を出したい。政府筋の23日における発言として、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した場合の迎撃について、日本の弾道ミサイル防衛網では、迎撃は不可能、という発言があったとの報道陸海空自衛隊が一体となり、弾道ミサイルからの国土防衛という、これまでの不可能を可能にしようと努力を続ける中である。ミサイル防衛による迎撃は不可能、政府筋が実効性を否定した、という報道。「ピストルの弾をピストルで落とせるはずがない」と述べて、ペトリオットミサイルPAC-3などによる迎撃は不可能である、と発言。

Img_1408  海上自衛隊によるイージス艦からのSM-3の実験成功についても、試験が成功したのは、いつ発射するかを把握したうえで、実施したためである、と疑問を呈したとのこと。この発言について、私見を幾つか。まず第一に、無責任である。そして、こうした発想しか出来ないあたり、無能だ。

Img_0028  国家の責務は、国民の生命財産を守ることにあり福祉を増進させることにある、国民の付託をうけて、国家はこの大きな課題を成し遂げるために存在しているのであり、その課題を守れないというだけではなく、成し遂げようという意思の表明もできないものは、日本国の政府には不要である。

Img_9579  また、数兆円の税金を投じて整備するミサイル防衛システムについて、その実用性について、疑問を呈するのならば、同じ予算で、都市部にミサイルシェルターを整備し、ミサイル攻撃を受けた場合に対しての受動的な備えを整備すること。もしくは、現在の政府答弁(裁判所が付随的違憲審査権に基づいて憲法判断を行っていない場合か、統治行為論として、つまり政治の問題として、判断を避けた場合は、政府答弁か内閣法制局の見解が、憲法の判断となる)では、ミサイルによる攻撃にさらされた場合で、他に防ぐための適当な手段がない場合には、敵基地に対する必要最小限の攻撃を行うことは法理的に自衛権の行使に含まれる、という判断がある。これは1956年2月29日の鳩山首相答弁船田防衛庁長官代読で為された判断だ。

Img_9806_1  ミサイル防衛を最初からあきらめるのならば、弾道ミサイル防衛の予算を従来型の装備の充実に充当させ、例えばF-16かF-2を140機程度増勢し、敵基地の攻撃を行う、もしくは護衛艦に射程延伸弾を発射可能な5インチ砲を搭載可能な改修を加え、艦砲射撃で撃破する、などなど、弾道弾から国民の生命を守る為の方策を模索するべきである。

Img_2167  憲法上問題はあるのではないか、という声が出てくるかもしれない。しかし、憲法上の問題というが、憲法は平和的生存権のために平和主義を掲げているのであり、国民の生存権に優先するものはない。国民の生存権以上に優先するものを挙げる政府があるのであれば、国民が生命と付託するべき政府ではない、新しい政府を選択する必要が生じてくる。

Img_1103  さて、肝心の弾道ミサイル防衛ではるが、発射後、最短の場合には十数分で到達する弾道ミサイルを迎撃することができるのか。例えば、弾道ミサイルを監視するための赤外線探知装置を搭載した哨戒機を常時日本海に滞空させ、イージス艦を遊弋させるならば、射程が1000kmを超えるスタンダードミサイルSM-3により迎撃できる可能性は高まってくる。弾道ミサイルの発射を早期に探知する空中赤外線弾道ミサイルセンサーシステム(AIRBOSS)を搭載したUP-3Cは、現在、技術研究本部にて試験中だ。

Img_9650_1  また、弾道ミサイルを宇宙空間から監視する米軍のDSP衛星があるのだが、その情報を即座に共有させるべく、航空自衛隊は、航空総隊司令部を府中基地から米第五空軍司令部が置かれた横田基地に、つまり航空自衛隊の基地から米軍基地の中へと移転するのである(もっとも、この場合、米軍基地に入る、というのではなく、航空自衛隊横田基地が誕生、というかたちになるのだが)。

Img_0053  航空自衛隊が配備中のペトリオットミサイルPAC-3,射程は迎撃高度により異なるが15~30km。弾道ミサイルに直撃させる方式で迎撃する終末迎撃手段で、ペトリオットミサイルの発射器一基に対して四発を搭載することができる。データリンクなどを見直すことにより、現在は命中の比率が徐々に上がってきている。

Img_7884  ちなみに、仮に政府筋が云うようなPAC-3では迎撃出来ないので、諦めるというのは、至近に着弾するにもかかわらず、対処しない、という意思表示にもとれて、滑稽であるが、ミサイルが直撃する立場に立てば、ナンセンスを通り過ぎ、無責任としか言いようがない発言に映る。もっとも、弾道ミサイル防衛について、現状と技術的展望などへ、どの程度、正確な情報を得て発言しているのはかは不明なのだが。

Img_47531  技術的には、ミサイルの撃破が出来るべく、現在努力しているのであり、できそうにないことを最初からあきらめるのであれば、技術は進歩せず、日本は今日のような先進国としての地位を築くことができなかったであろう。出来るかできないかではなく、出来ないと最初から決めることは、やらない、という意思の表明に他ならない。

Img_1679  また、整備途上のシステムについて、管制していないために有効性に疑問を呈するのではなく、「ピストルの弾をピストルで落とせるはずがない」として、完成したのちのシステムについても、その有効性に疑問符をつけるのならば、発言の主は数兆円の税金が浪費する、という前提のもとで発言していることになる。どういう神経をしているのか、理解しかねると思うのは小生だけだろうか。

Img_5295  さてさて、これからの日本には大きな課題がいくつも存在しており、国民の生命財産に直接かかわる大きな問題としては、東海東南海南海地震について、その同時発生が危惧されている事例がある。また、新型インフルエンザの流行禍による社会システムへの痛烈な打撃。前者は、首都圏から東海道沿いに、中京地区、そして京阪神地区を含めた近畿地方と、四国が地震と津波により大打撃を受けることが考えられる。

Img_3775  新型インフルエンザにしても、人類がこれまで全く免疫をもたないウィルスが巻き起こす流行禍である。ワクチンが開発されて量産されるまでの間、ボッカチオのデカメロンに描かれているように、息を潜めて待ち、その間の経済や社会システムの崩壊を見守るか、感染を覚悟して災厄のなかに飛び出すか。どちらにしても適切な治療を行わない場合に致死率が高く感染力も非常に強い流行禍に立ち向かうことは、困難を極めるだろう。しかし、諦めるわけにはいかない。弾道ミサイル防衛も同じことである、諦めるわけにはいかない命題を前に諦めるのではなく、立ち向かう気概こそ、不可欠なのではないか、と考える次第だ。それを前に、政府筋の発言、いったい何を考えているのだろうか。

HARUNA

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コメント (14)
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