北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

沖縄防衛:島嶼部防衛に関する特殊性と課題についての一考察

2011-08-27 15:34:13 | 防衛・安全保障

◆与那国島陸上自衛隊配備とともに考える

ご存じの通り与那国島自衛隊配備の記事を掲載した一昨日に併せて沖縄の防衛に関する話題、陸上自衛隊の沿岸監視隊配置という話題で掲載したのですが、これが考えると難しい、ということです。

Img_5969 どう沖縄を護るのか、基本的な考えのほかコメント欄で寄せられた話とともに、文章作成中に考えたものを加えいろいろと案を出しましたが、第15旅団について、写真は12旅団と11旅団しかないのですが(那覇駐屯地遠いけどいつか行きたいね!)、さてまず沖縄県が先島諸島と本島、それ以外の地域と分けられることがこの防衛に関する考えを難しくしています。そういうのも、まず沖縄本島に旅団の中枢を駐屯させたとして一番脅威正面となっているのは先島諸島なのですから、この地域に駐屯する部隊を本島からいかに補給や火力面で支援するのか、という難題が出てきます。

File0201 火力支援と行っても沖縄県は広い事もあり距離があり過ぎますので、沖縄本島に配置した長距離火力により先島諸島の前線を直接火力支援する、という事は基本的に難しそうです。利食おう自衛隊が運用するいかなる火砲でも射程は不足しますし、MLRSに続き導入の計画が幾度か提示されているATACMS,本来は軍団直轄砲兵用の火力であっても不安が残ります。海兵隊のような戦闘攻撃機でも運用出来れば、また違うのかもしれませんが、ちょっとこれを陸上自衛隊が運用する、というのは非現実的でしょう。

Img_6218 如何にしようとも、海上輸送か航空輸送によらなければ維持することはできないのですが、そもそも遠隔地ですので航空機は機動飛行など燃費に影響が生じる方式をとったのちでは燃料面での補給も簡単な問題ではありません。いわば自己完結した戦闘団編成をとっていなければ支援を受けられなくなってしまうわけです。しかしながら、そうしますと結局は先島諸島に事実上の混成団を配置することになってしまい、それだけの部隊を収容し、加えて部隊の練度を一定以上の水準で維持するだけの演習環境があるか、ととわれれば現時点で駐屯地が無いという実状に鑑みればこれは難しいかもしれません。

Img_1410 同じ離島である対馬を防衛する対馬警備隊はレンジャー資格を有する隊員を多く集め、一個普通科中隊と必要に応じて増援部隊を指揮することができるような本部管理中隊を以て警備隊を編成していますが、この方式ならばどうか、とも考えました。しかし、石垣島、宮古島と島々の距離は離れており、これが事実上陸上交通により二つの島を行き来できる対馬と先島諸島との根本的な相違点になります。それだけではなく、対馬警備隊は有事の際に西部方面隊からの緊急支援を受けるという前提で部隊編成を行い、前述の通りそのための高度な指揮能力を付与されているのですけれどもね。

Img_20701 沖縄の場合は沖縄本島からの増援を受ける、というにしても空輸能力、そしてもともとの第15旅団の人員規模にも限界がありますから、この点を考えなければなりませんね。いっそ師団とする。これは、ちょっと難しいでしょう。師団のしたに連隊戦闘団を配置しても、連携がとれない、師団が支援できない、いわば遊兵化してしまいます。これでは師団、としての本来の能力は発揮できません。とにかく離島を防衛するのですから、自前の機動力で島々を移動することができなくては話になりませんから、この視点から考えることにしましょう。

Img_7605 海兵遠征群のような、空中機動を主体とした編成の部隊を那覇駐屯地、将来返還されるのであれば普天間に陸上自衛隊は海兵隊が想定するような数百機の航空機集中運用は想定していませんから規模を縮小した上で普天間駐屯地を創設して本島からの緊急展開部隊として考え、主要な島々に4~5個警備隊、10~15の沿岸監視隊を置いた上で運用する、という方式が考えられるでしょうか。従って、上記の通り運用を想定した場合の部隊編成は、海兵遠征群に準じる編成の空中機動混成団を那覇に置き、そのしたに警備隊を置いた上で司令部直轄運用を実施、それとは別に後方支援能力を旅団の後方支援群に配置する、という運用になるのでしょう、混成団を主体とした離島防衛型の旅団、という編成です。

Img_0106 難しいのは、ヘリコプターを十分に配置できるのか、ということ。重装備を輸送するCH47で12~15機、多用途ヘリコプターで20機、それに火力支援用の戦闘ヘリコプターが10~12機、海兵遠征群という、一種の緊急展開部隊としての能力を求めればこうしたかたちでしょうか、実質的に西部方面航空隊に匹敵する規模が必要になってきます。その創設のためにほかの方面隊からヘリコプターを抽出しては現在の陸上自衛隊全体で航空機が不足しているという現状をふまえた場合には余りに無意味ですから、新規取得が必要になるのですけれども、どうやって予算を捻出するか。多用途ヘリコプター一機は機種にもよりますが最新鋭戦車の2~5倍、戦車の縮減で浮いた予算を充当しても不足は明らかでしょう。なんとかならないものか。

Img_1391 考えるに、単一機種毎に年間20機程度の量産体制を整えて毎年、もちろん中期防衛力整備計画の程度の中期程度に渡り導入計画を明示すること合できれば、これはある程度の量産効果が出てくると考えます。徹底した合理化、海兵隊のUH-1YとAH-1Zは全く用とや運用が違うながらも60%の部品共通化を実現しているとのことですが、自衛隊においてもこうした施策を実施すれば、これはある程度変わってくることかもしれません。輸入は論外、稼働率に響きます。有事の際に技術支援要員が国外退去してしまった、という事例はサウジアラビアなどで実際にありましたし、輸出はあっても輸入はリスクがあります、しかしこれは別の話。

Img_1587 なお、そこまで部隊に関する移動で考えたのだけれども、航空優勢を一時的に喪失しているような状況下でヘリコプターによる空中機動を行ったらば戦闘機に駆逐されるんではないか、という疑問はあるかもしれません、当方もありました。しかし調べてみますと、空中機動部隊が戦闘機に阻止された、という事例は、そういう状況で運用された事例がないだけかもしれませんが、今のところありませんので、低空を飛行するヘリコプターは状況、航空優勢の状況に応じて対処すればある程度何とかなるのかもしれません。海上輸送が阻止された事例は多いのですが、ね。

Img_8552 沖縄防衛を考えると海上自衛隊の存在は極めて重要です。海上自衛隊が沖縄地方隊、最近沖縄防衛に関する話を出す度に沖縄地方隊の必要性を提示しているのですが、勝連基地の母港能力強化により部隊集中を容易とできる利点のほかに、警備隊として、ミサイル艇を配置し、ほかには小隊規模でもいいので輸送可能な高速装甲艇、というようなものを有していれば、これはスウェーデンが90H型として開発しているものが有名ですが、輸送ヘリコプターと同程度の輸送能力を発揮します。あまり安くはないでしょうが輸送ヘリコプターと同じ程度の輸送能力がある一方で、輸送ヘリコプターが50億円ですので、おそらく高速装甲艇のほうが取得費用、運用費用ともに安価に収まるでしょう。3~6隻配備し、勝連と宮古に一艇隊づつ配備すれば、輸送能力が大きく高まります。平時は特別警備隊が、特に港湾部の防衛などを念頭に運用し、有事には陸上自衛隊が運用すれば、一個中隊を一個艇隊で緊急展開させることができるでしょう。

Img_7020 また、直轄艦として輸送艇を1隻、可能ならば2隻有することができれが戦車こそ輸送できませんがそのほかの空輸できない装備を輸送することができるでしょう。たとえばFH70榴弾砲、そのものは輸送ヘリコプターによる空輸は可能なのですけれども、弾薬や中砲牽引車、対砲レーダーや支援機材を輸送することは、第1ヘリコプター団あたりが全力を発揮すれば多少は何とかなるのかもしれませんが、基本は海上輸送しか方法がないでしょう。C2輸送機で空輸すればなんとか、しかし十数機で往復させる必要があります。

Img_8663 フェリーの輸送能力は偉大ですが、これは前線輸送へは当てにできません。例えば北海道の部隊を沖縄本島の急速展開させるにはいいでしょうが、港湾設備が必要なフェリーは前線に輸送できない、第2師団などを輸送するにしても沖縄まではフェリーで、そこからは海上自衛隊の輸送艦で揚陸させなければなりません。まあ重装備は、おおすみ型になるのでしょうが、それ以外の装備、海兵遠征群的な装備であれば、・・・、戦車以外は、ゆら型のような小型艦でも多分輸送可能です。佐世保から第二護衛隊群が展開するまでの間の任務をはたす程度、という意味で考えるとなんとかなりそうですね。

Img_0496 航空優勢ですが、これは下地島に一個航空隊必要、とか宮古島空港を基地化して一個飛行中隊でもいいので前進配置を、と言う声があり当方も昔は考えたのですけれども、基本有事の際に嘉手納の一部を運用できる体制があれば、普天間にも降りることはできるようですし、平時は那覇基地だけでなんとかなるとかんがえます。那覇基地は防衛計画の大綱で現在の一個飛行隊基幹から二個飛行隊基幹に拡充される、ということです。それ以上前進させると時間的に対応できなくなります。冷戦時代も千歳基地以北は戦闘機を置きませんでした。しかし、有事の際に不足することは明らかですのでこの視点を少し、これは次回になるのかな、扱っておきます。

Img_2528 最大の問題は、前線に基地や部隊が居ない事ではなく、本土から増援に向かう機体がない、ということでしょう。即ち戦略予備が無い、新田原の飛行教導隊以外は全て戦闘機による飛行隊は要撃飛行隊として管区を持っていますから手薄にはできません。ここで、戦闘機定数を少し考え、防空に直接関与せず、有事の際に増援に展開できる戦略予備の航空団、例えば四個飛行隊程度を有するかなり大型の航空団を、例えば浜松基地のような防衛上余裕のある後方地域の基地に置いてみる、という発想は必要かもしれません。その場所にいるだけの防衛や、引き抜いた後を考えない防衛体系は少々ナンセンスですからね。すると、沖縄と自衛隊全体で二段重ねの統合運用、という模索が必要になると考える次第です。

北大路機関:はるな

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コメント (6)
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