◆東北地方太平洋地震はその一つに過ぎない
本日、あの東日本大震災から五ヶ月が経ちました。しかし一つどうしても気になっている点があり本日はこの話題、それは千年に一度の地震、という一種の想定外を言い訳する言葉が目立つ事です。
神戸空港を離陸したボーイング737-800は大阪湾上空をゆっくりと旋回、その傾いた機体の窓から望む俯瞰風景に見覚えのある地形が飛びこみました。淡路島、大阪湾と瀬戸内海とを隔て本州と四国を繋ぐ兵庫県最大の島淡路島です。既知の地形と一望する情景の重なりに感動するとともに不思議な地形に気付きました。
野島断層。山間部を縫って低地に住宅が密集しているのですが、これだけの地形を形成する河川が無い淡路島において、何故この地形が誕生したのか、それは六甲淡路断層帯の一つで兵庫県南部地震、あの阪神大震災を引き起こした野島断層を筆頭に幾つかの活断層が走っており、長い年月とともに定期的な地震が山岳を崩壊させ、人々が住むに適した低地を構成したわけです。
活断層の上は、地形が脆くなる為に河川が通る事となり、人々の営みに必要な水と家屋や街を構成する上で不可欠な平野部を構成します。日本では知らずと活断層の真上に都市部が形成されている事が多く、背景にはこのような事情があります。京阪地区や中京地区、京浜地区は沖積平野であり山間部の地震による山岳崩壊や火山活動による洪水が土砂を堆積させ、平野部を形成しました。
海溝型地震、この地震は野島断層のような直下型地震の周期が数千年に一度という長い周期で発生しているのに対し、東海地震や三陸地震のような海溝型地震の周期は半世紀から一世紀未満、沿岸部には日本列島に幾つも集まる潮流とともに良好な漁場を供してくれる一方で、海溝型地震の発生とともに津波に蹂躙される危険性を有していますが、地図を見ればわかるように日本の大都市の多くは沖積平野の河口部分、沿岸部に多く集まっているのです。
徳島市、河口が見える四国の都市という事で恐らく見える河川は吉野川でしょう。ここを走るのが中央構造線、鹿児島熊本県境から四国をへて紀伊半島から三重県伊勢付近、愛知県渥美半島から長野県山間部、山梨県山間部をへて北関東を鹿島灘に抜ける日本最大の活断層です。吉野川はもちろん、中央構造線に沿って川内川、紀ノ川、五十鈴川、天竜川、利根川と軽巡洋艦に冠せられた大河が流れ、活断層と河川、そして人との関係を象徴してくれています。
本州と九州の航空航路から推測しますと、九州の福岡県か佐賀県沿岸部と思われるこの地形をご覧ください。上空から実際に目にした時に余りの特徴的な地形に思わず固唾をのみ込んだのですが、明らかに火砕流が形成した台地を水が流れたことにより発生したラハール、いわゆる火山性土石流が穿った地形であることが良く分かる地形です。そしてラハールの危険区域に多くの家屋などの建造物が集中している事がお分かりでしょうか。
熊本市。人口73万で政令指定都市を目指している九州最大級の都市。この熊本市が見上げるのは世界有数の巨大火山である阿蘇山で、9万年前の過去最大の噴火では鹿児島県を除いた九州の中部から北部にかけてを火砕流が蹂躙し、一部は周防灘を渡り山口県山間部まで達しました。ここ7000年ほどは日本周辺で、このような規模やこれに準じるの噴火は観測されていないものの日本には数多くの巨大火山があります。
雲仙普賢岳。上記の阿蘇山噴火の際には日本では人的被害に関する歴史的資料はまだ存在しないのですが、紀元前5300年の喜界島噴火では縄文人衰退の要因となり、近い事例では1792年の普賢岳噴火に置いては山岳崩壊による津波の発生により瞬時にわが国火山災害史上最大の15000名の人命が失われました。
このように日本列島は地震活断層と巨大火山により構成されており、言い換えれば人々が住むことのできる地形やこの日本列島そのものが火山活動により誕生し地震活断層により人々が住めるよう形成されています。また台風の通り道にもあたるのですが、今回の東日本大震災は千年に一度の規模、と言われているのですけれども、日本全体で見る限り全くの間違いです。
これはその地域において発生した海溝型地震の規模として千年に一度というほどの規模であっただけで海溝型地震は周期が短く、また直下型地震はメカニズムさえも未知数であるとともに日本誕生以来繰り返し活動している事だけが地形から証明されています。千年に一度の規模が来たのだから次の千年は大丈夫、というのではなく、この程度の地震は日本の領域内では当然発生すると想定する必要があり、地震から如何に被害を局限化し復旧と復興をいち早く進めるか、という長期計画を国造りの一環として考えるべきではないか、そう考える訳です。
北大路機関:はるな
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