北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

巨大地震“南海トラフ地震”への備えを考える⑮ 間に合うか?AAV-7&CBRN遠隔作業システム

2012-08-29 23:03:57 | 防災・災害派遣

◆東日本大震災には間に合わなかった装備だが

 あの装備が間に合っていたのならば、というのは歴史上のIFであり、禁忌なのではあるのですが、次に間に合うのかという事は重要なことです。

Nimg_0713 一部報道によれば防衛省は来年度予算概算要求へ水陸両用強襲車AAV-7四両の取得へ調査費を含め25億円を盛り込むとのことです。89式装甲戦闘車以来久々の装軌式装甲車となるAAV-7は水陸両用型で、西部方面普通科連隊への装備、もしくは第15旅団への装備が考えられます。戦闘重量23.9t、全長7.943m、全幅3.27mの車両は履帯とウォータージェットにより海上を14km/hで機動でき、陸上でも70km/hの速度で機動することが可能というもの。

Nimg_2662 これまでの陸上自衛隊装甲車で水上浮航能力を備えた装備では73式装甲車がありましたが、河川の渡河に際して車体が浮き、履帯の駆動により前進できるというものであり、転輪にカバーを装着し車体前部に波切板を装着することで使用できるものでしたから、余り波浪の大きな場所、例えば海上に進出した場合には車体上部に波が載ってしまい水没する可能性がありましたし、陸上自衛隊が離島防衛を行うに際しては絶対に必要な装備と言えました。AAV-7,この装備は同時に津波災害に際しての沿岸部の救助に資するもの、次の災害までに何とか多数を揃えてほしい。

Nimg_4953 CBRN対応遠隔操縦システム、今年度予算から盛り込まれた遠隔操作型の施設作業装置で、核汚染、放射性降下物下の汚染、化学兵器や生物兵器による汚染状況に際して遠隔操作により施設作業などを行う装備です。福島第一原発事故に際しては、原子炉電源喪失に伴う炉心温度上昇事案に対する冷却水供給作業が津波漂流物により阻まれ、一時は各戦場での戦闘を重視し設計された74式戦車の投入が準備され、福島第一原発近縁まで進出しました。

Nimg_0305 開発が始まったCBRN対応遠隔操縦システムは、装軌式施設作業車と情報取集車両を遠隔操作方式により完成し、人員が立ち入ることのできない地域での作業を行うもので、操作要員は通信中継装置などの支援を受け2km程度距離を置いて作業を行うとのこと。原子力事故の広域汚染を考えればもう少し距離が欲しいところでもあるのですが、実際の装備の開発に先んじるものとして技術研究本部では構成要素の研究を2015年度までに完了する目的とのこと。

Nimg_4353 陸上自衛隊では既に施設作業車について、一部プログラム作業の能力が付与されているのですが、これをさらに技術を進めて遠隔作業を行うとのことで、この装備は同時に現在危険といわれている第一線での地雷除去などの障害処理作業を無人化することにも寄与するものでしょう。CBRN対応遠隔操縦システム、というように呼称に施設という言葉が盛り込まれていませんので中央特殊武器防護隊に装備するという限定配備に留まるのかもしれませんが、間に合ってほしい、と切に思います。

Nimg_6297 自衛隊はどういった任務に対応するのか、これは政治が定める命題であるのですけれども、政治において一部の論題が禁忌とされるなど危機管理が蔑ろとされた結果に突如事案に際して突発的に自衛隊へ任務が求められる、というこれまでの前例で積み重ねられた負の遺産として残るのですが、結果として不十分な装備で臨むこととなり、加えて訓練体系も省かれ危機状況下での現地で構築するという結果が、例えば福島第一原発事故への対応の結果を生みました。

Nimg_2524 もちろん、任務は無限、と考えるものではありません。これは政治の統制からの逸脱にもつながるものであり、予算要求の正統性から考えた場合においても任務は政治が責任を以て確定するべきだからです。ただ、考えなければならない危機への無防備状態へ、政治に提起する期間、もしくは機能、という己は無ければならなかったのだろうともう次第です。結果論として、東日本大震災と福島第一原発事故には間に合わなかった装備ではあるのですが、次の南海トラフ地震へは間に合ってほしい、そう考える次第です。

北大路機関:はるな

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コメント (6)
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