◆75式自走榴弾砲、日本らしい国産の特科火砲
第11旅団記念行事真駒内駐屯地祭2011、今回は75式自走榴弾砲を運用する第11特科隊です。
第11特科隊は、隊本部、本部管理中隊、第1中隊、第2中隊、第3中隊で指揮官は和田信義1佐。ちなみに隊長は昨年11月30日に中村健蔵1佐へ交代しています。元第11特科連隊を第11師団の旅団改編と共に特科大隊を基幹とする編成を特科中隊基幹の編成へ置き換えられています。能力的には縮小改編ではなくコンパクト化が主眼で能力は下げられていない、といわれているのですが、火砲の数は減ったのですね。
陸上自衛隊特科部隊は対砲兵戦能力と火力支援を任務としています。非常に高い対砲兵戦能力を有しています。実は五年ほど前に調べ驚いたのですが対砲兵戦に重要な対砲レーダ装置の普及度合いがかなり高いのです。対砲レーダ装置JTPS-P-16は各特科隊と特科連隊情報中隊に装備されているのですが、距離40km以内の評定幅50°の目標を同時に18目標まで追尾できるとのこと。
欧州最新の対砲レーダ装置COBRAは、探知距離40km、評定幅固定時90°、120秒間での最大40目標探知、ということで効力射の間隔を考えればP-18の同時18はかなり優秀という事がわかります。そして配備数なのですが、COBRAはイギリスフランスドイツ共同開発で三カ国合計が29セット、とのこと。自衛隊の普及数は第15旅団以外に全て特科隊か特科連隊がいますので富士学校を加え少なくとも15基、方面特科部隊には配備されているのでしょうか、自衛隊だけで少なくとも15基はかなりの数と言えるでしょう。
75式自走榴弾砲。この装備が真駒内駐屯地祭で一番見たかった装備、第7師団は全て新型の99式自走榴弾砲に切り替えられていますからね。自衛隊らしい火砲と考えています。乗員6名、戦闘受領25.3t、全長7.79m、車体長6.64m、全幅2.98m、全高2.55m、最高速度47km/h、航続距離300km、燃料搭載量650?、搭載エンジン三菱6ZF空冷ディーゼル、出力450hp、懸架装置トーションバー方式、変速機全身四段後進一段というもの。
主砲は155mm榴弾砲で砲身長は30口径砲、30口径というのは7.62mmではなく火砲の場合は155mm×30が30口径砲ということ。陸上自衛隊の主力火砲であるFH-70は39口径、最新型の99式自走榴弾砲は52口径なのですが、75式自走榴弾砲が開発された時代は22口径等が主力の時代、物凄い長砲身砲で射程も大きかったのです。搭載砲弾は28発、このほか12.7mm重機関銃弾が定数1000とのこと。
陸上自衛隊の仮想敵はソ連、北海道へ上陸され、港湾が奪取されたならば輸送船によりものすごい数の戦車と火砲が揚陸させられ、陸上自衛隊は膨大なソ連機甲戦力を対象として厳しい戦いが想定されました。特に火砲はどう頑張ろうと劣勢で、地形上制約があるのですから火砲の数で対抗することは出来ず、少数精鋭による出血強要という戦闘を展開せねばなりません。
対砲兵戦とは、単純に射程で決まるものではありません。例えば湾岸戦争では最大射程30km以上を誇るイラク軍砲兵が数でも優勢を維持しつつも、米軍砲兵隊の位置を評定することが出来ず、闇雲に砲撃を繰り返し、砲弾から対砲レーダにより市場が黒され、米軍が運用する射程24kmのM-109A6自走榴弾砲が確実に屠っていきました。
75式自走榴弾砲は、この観点からとにかく一回の効力射を極限まで短縮し、一撃を加えて正確に目標を無力化しつつ、しかし反撃以前に陣地展開を行わなければなりません。実は陸上自衛隊の特科部隊の要求は厳しく1970年代の時点で富士学校では“一効力射3発20秒以内”、というとんでもない高い水準の性能が要求されていた、と聞きます。
日本製鋼所、技術研究本部と三菱重工は、この難題を前に155mm砲弾の自動装填装置を開発しました。これは回転式拳銃の回転式弾倉とよく似た、もしくは艦砲の装填装置とも共通性がある二つの弾庫に各9発で合計18発の砲弾が内蔵されており、砲弾は自動装填されることで射撃の迅速化を実現したのです。信管は砲塔左右に56発分が配置され、装薬は砲塔に10発と車体に18発が搭載されているもよう。
砲は仰角俯角で-5°から+65°まで可変式、砲塔は全周式となっていて、毎秒5°と30秒間で全周を旋回可能となっています。装填と砲角度装填位置自動復帰装置が搭載され、全自動モードでの射撃を行えば毎分6発が射撃できる。155mm砲弾の最大射程は19kmで、現在でこそ火砲の射程は20km以上が当然であり30km以上の射程、一部には特殊砲弾で40kmを超えるものもあるのですが、1975年では19kmというものは、師団全般支援火力であるM-1榴弾砲の14.9kmを超えており、十分な近代化といえました。
運用方法は、サッと出てバカスカ撃ちスバしっこく移動する。中隊か戦砲隊単位で運用され、中隊長の決心までひたすら掩砲所において待機し、命令一下迅速に射撃陣地へ進出、一個中隊は5両とのことですが、情報中隊の対砲レーダ装置の目標情報、もしくは攻撃準備射撃や突撃破砕射撃、もしくは攪乱射撃の状況において、射撃陣地から各車3発から状況に応じ最大9発程度を射撃、15から45発の砲弾を送り込んだのち、陣地を急速転換し予め準備した予備陣地へ展開、必要ならば射撃を行い即応弾18発を射撃、そのご掩砲所に戻り自動装填装置へ一発一発再装填を行う。これならば、損害を最小限として与えられる打撃も大きい。
75式155mm榴弾は、信管付砲弾全長700mm、弾薬重量は6.8kgのTNTを加えて全体重量43.6kg、初速は9号装薬使用時で720m/s、信管は瞬発と遅発信管であるM-51やM-577にM-500やM-520が使用されるほか、国産のVT信管である71式3型信管を使用するというもの。威力は短径30m長径45mへの有効弾片の散布、とのこと。
陸上自衛隊の特科火砲は師団と旅団配備のものは155mm榴弾砲に統一されているのですが、75式開発以前は師団全般支援火力として特科第五大隊に155mm榴弾砲を装備し、直接支援火力として普通科連隊の支援に充てる火砲には105mm榴弾砲が採用されていました。74式自走榴弾砲という105mm自走榴弾砲も開発されていたほど。しかし、1971年に陸上自衛隊は用途廃止となったM-24軽戦車にダミー人形を搭載し航空自衛隊航空医療実験隊の支援を受けつつ各種火砲による損害評定を実施、105mm砲は発射速度に優れるものの対機甲射撃には対処できない、という結論が出されたため、155mm砲へ統一するとの決定に至りました。
北部方面隊全ての師団特科連隊へ配備された75式自走榴弾砲は、現在逐次99式自走榴弾砲への更新が進められており、第11特科隊へも置き換えが今年度から始まっているようです。こうした実情はあるのですが、第11特科隊の方は、75式自走榴弾砲の方が手動が介在する余地があり、動くか動かないかという二元論となる最新型と異なり、故障しているが動く、という、いわば極限状態においても最低限の稼働は維持できる、それはこの75式の長所です、と愛着をこめてお教えいただきました。
第11旅団記念行事真駒内駐屯地祭2011、今回は75式自走榴弾砲を運用する第11特科隊です。














北大路機関:はるな
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