◆逆転、大量破壊兵器がイラク戦争要因
15日付のニューヨークタイムズ紙が伝えたところでは2003年のイラク戦争時、イラク軍が大量破壊兵器を保持し、米軍が発見していたとのこと。
2003年、アメリカを中心とする有志連合は国連からの授権決議に基づき国連安保理決議に基づきイラクが生産及び保有が禁止されている大量破壊兵器を保持し廃棄を拒否している都市、イラクフリーダム作戦を発動、イラク領内へ侵攻し有志連合の軍事力をもって政権を崩壊させました。
イラクは過去に大量破壊兵器をイランイラク戦争時におけるイラン都市部攻撃や国内のクルド人への治安作戦での投入に加え、1991年の湾岸戦争時代に大量破壊兵器の存在が確認され、その処理には国連の要請の下自衛隊も参加しており、イラク政府による国際機関の査察拒否なども重なり有志連合による軍事行動へ至りました。
この際にイラク政府は査察を拒否しながら大量破壊兵器の自主的廃棄を主張していたため、果たして査察を拒否している生産設備や貯蔵設備に大量破壊兵器が貯蔵されているか否かが大きな論点となりましたが、ニューヨークタイムズ紙によれば、イラク戦争後にバグダッド周辺でフセイン政権時代のサリンなど化学兵器の弾頭5000発以上が見つかったと報じたとのこと。
イラク軍が大量破壊兵器を貯蔵し保持していたとのニューヨークタイムズ報道は、NYタイムズが「情報自由法の下で公開請求し入手した政府文書によるものとされ、関係者からの不確かな情報のきき取というようなものでは無くれっきとした政府文書にこの情報が記載されており、これを報じたというもの。
当時の小泉首相は支持を表明、イラク戦争後の復興人道支援任務へは我が国自衛隊も事実上の多国籍任務師団の指揮下に入る形を取り復興人道支援任務へ自衛隊を派遣、戦闘地域と非戦闘地域の混在する競合地域に延べ10000名近い隊員を送り、復興人道支援任務を完遂、一人の戦死者も記録されず帰国することが出来ました。
この支持と復興人道任務支援への自衛隊派遣や空輸支援任務への部隊派遣といった行動ですが、イラク戦争後には大量破壊兵器の保有に関する証拠が存在しないとの最初の発表が為された際、これにより国連決議を支えるウうような論拠が破綻したとして当時の野党の激しい反発に曝されています。
大量破壊兵器貯蔵の証拠なしとの当初結論は、日本以外にもアメリカと共に有志連合に参加し師団規模の既往部隊を参加させたイギリス国内においても大きな批判として扱われ、イラク戦争の開戦そのものが国連決議を歪曲した軍事行動とし、決定に立ったアメリカのブッシュ政権やイギリスのブレア政権を大きく批判しています。
ニューヨークタイムズによる今回のイラク軍大量破壊兵器貯蔵の報道は、適切な訓練を受けていない兵員が大量破壊兵器などに触れたことで少なくとも数十名が負傷し、この負傷した米兵らが適切な医療支援が受けられなかったとともに名誉戦傷賞など負傷兵が得られる勲章や年金資格を得られなかったという部分から報じられました。
敬意は別として、イラク戦争開戦時点での大量破壊平易保持は驚くべき事実で、在るはずだとは言われて射たもののこれまで5000発という少なくは無い化学砲弾など発見が公表されることなく推移してきたことには不思議な印象を覚える事となった、というのが当方の率直な印象です。
この報道に基づきアメリカ国防総省報道官は、20名の米兵が2004年から2011年までのイラク駐留期間中に神経ガスやマスタードガスにさらされた事実を認識していると補足していることから画定情報という事が出来、一部で指摘された見込み違いのイラク攻撃や分析不足という批判は誤っていた、という結論に至るところ。
他方でイラク戦争を開始した正統性にもかかわる大量破壊兵器の存在を公表しなかった姿勢が批判されるところですが、これについてアメリカ国防総省は敵対する勢力の手に化学兵器が渡ることを避けるための情報であったとしており、数年を経て情報が開示されたところから情報公開の姿勢は見る事が出来るかもしれません。
しかし、大量破壊兵器が存在したということでイラク戦争の正当性が漸く確認されたとの国連決議の有効性を考えると共に新しい問題が生じています。一部報道ではイラク及びシリアでの軍事行動を強めるISILイスラム国がこのうちアメリカ軍の未発見化学兵器を奪取したとの報道があるのです。もちろん経年劣化している可能性はありますが、調査されなければなりません。
化学兵器という大量破壊兵器の脅威に備えイラク戦争を、特に我が国は地下鉄サリン事件としてカルト教団による無差別テロというものを経験していたためその軍事行動を支援した我が国ではありますが、元々イラク胃の大量破壊兵器保有への危惧はこれらの大量破壊兵器がテロリストなどの武装勢力へ譲渡されることを防ぐためのもの。
ISILには元イラク軍の指揮官クラスが参加しているとの情報があるため、アメリカ駐留時代に発見できなかった化学兵器の存在はある程度想定は出来るのですが、このまま大量破壊兵器が流通し使用されるような状況となってしまえば、イラク戦争の多大な犠牲を払って阻止しようとした危惧が現実のものとなりかねません。
思想信条を越えて個々人の自己実現を阻害する社会は回避されるべきで、大量破壊兵器の使用はその侵害の最たるものです。イラク戦争辞典での大量破壊兵器イラク軍保有が確認されたと共に、これら兵器が武装勢力の手で使用される可能性はどの程度あるのか、化学兵器は経年劣化しますが、慎重にその脅威度を見極め対処することが必要でしょう。
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