北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

平成27年度防衛予算概算要求概要⑲・・・自衛隊の特殊武器防護能力拡充Ⅱ

2014-10-27 23:10:19 | 防衛・安全保障

◆部隊防護から国民保護の特殊武器対処へ
 厚生労働省によれば本日夕刻、羽田の東京国際空港にてリベリアからの帰国邦人に発熱があり、エボラ出血熱を想定し対応中とのこと。さて、前回、人員等除染能力に従来の人員除染と装備品除染へ加わる形で様々な能力が付与されるとしました。
Oimg_2782  特に国民保護の観点から能力の強化が為され、精密機材除染として新たに付与される能力は従来の特殊武器攻撃難い人除染という段階を踏んでの能力を以て部隊行動能力を維持し敵の化学剤生物剤攻撃に続く企図する行動を撃破無力化するという段階から、国民保護能力を期した救助活動を想定したもの、と説明しました。
Oimg_5095  歩行不能者除染、並んで新たに付与される能力は化学剤や生物剤により歩行不能の重篤状態となった人員救護を目的とするものです。歩行不能者の救出には微塵装備などでの作業を行う研究予算が今年度概算要求に盛り込まれていましたが、この研究と開発が一つ進むかたちです。
Himg_1247  歩行不能者、戦闘時に化学剤攻撃を受けての部隊での発生であれば部隊内で防護準備を完了した要員が人力搬送し、対特殊武器衛生機能を有する部隊へ中和剤や解毒剤等の治療を施し、装備によっては化学剤や生物剤状況下において十分行動できるため戦闘を継続します。戦車や普通科及び特科と施設科はこうした能力を持っています。
Phimg_1256  しかし、一般国民の居住地域への特殊武器攻撃が行われた際には、その地域は例えば弾道ミサイルやゲリラコマンドーによる攻撃に曝された際、適切な対処能力を持っているとは中々考えられません。従って、防護能力を有する要員により即座に搬送することは難しく、消防警察の能力でも限界は否めないでしょう。
Img_4450  ここで自衛隊は、汚染地域へ防護装備を有する普通科部隊をはじめとする防護部隊を展開させ、汚染地域での致死性物質が充満している地域ではトリアージの関係上優先度は下がる事となりますが、その外郭に展開する避難地域において救急措置及び応急治療を行うとともに安全圏へ搬送することとなるかたち。
Mmimg_2023  現在の装備でも個人防護機材は、少なくとも補給処備蓄分を含め全員に行き届いており、防護服は十回程度の除染洗濯により化学剤防護に必要な繊維劣化が生じるため長期的には不十分という指摘も為されるのですが、2001年の9.11米本土同時多発テロにおける米軍州兵のように全員分の防護服がそもそも無い、という状況ではありません。
Gimg_5354  しかし、現在の防護装備を以てしても対応できないのは、安全圏へ搬送する際の除染です。人員に対する除染は自衛隊では個人用除染装置、正確には中和剤を含む温水シャワーを高圧で使用することにより中和し無毒化しますが、今回想定する歩行不能者は自力での中和能力を有していないというところが相違点として大きい。
Img_4393h  また、自衛隊の師団や旅団は数千名規模ですが、化学剤などの汚染が大都市に対して行われた場合、師団や旅団は隷下の連隊戦闘団が100km四方程度の隊区をもち機動運用することとなるのに対し、大都市では1km四方に一個旅団や一個師団全員に脾摘する市民が居住することは珍しくありません、これは何を意味するか。
Fimg_6253  それは避難地域から搬送される歩行不能者の数が現在の自衛隊が自隊行動を維持するための特殊武器防護能力が想定する除染規模をはるかに上回っている可能性があるという事です。神経剤のような攻撃用化学兵器は短時間で分解しますが、糜爛剤などの地域汚染剤は付着すれば数週間威力を出し続けます、此処が脅威の大きなところ。
Img_9799  化学剤が歩行不能者衣服などに付着し、そのまま後方の医療機関などに搬送された際、衣服についた微量の化学剤であっても皮膚に触れる事で重篤な状況を引き起こします。もちろん、攻撃用の神経ガスよりは糜爛剤は毒性は低いのですが持続するため、自衛隊はじめ各国軍隊では靴底や車輪部分の除染を念入りに行うのはこのため。
Img_1905  したがって、歩行不能者を大量に受け入れた場合の組織的な大量の歩行不能者除染を行う能力が歩行不能者除染には含まれます。搬送と除染、歩行不能者除染とはこうした現在の自衛隊に無い大量の除染を行うための能力整備である訳です。もちろん、この種の能力を消防が整備されれば、人員規模の面から心強いのですが、現状では致し方ないところでしょう。
Fsimg_5972  またもちろん、この能力は福島第一原子力発電所事故型の対応にも寄与する能力です。福島第一原子力発電所事故では高射性降下物圏外へ移動する際中に被爆された方が居ます。被ばく線量は即座の人員除染を必要とするほどのものでは幸いありませんでしたが、我が国がエネルギーを自給できない島国である以上、また周辺国に核開発を行う国がある以上、必要な能力整備です。

北大路機関:はるな

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