■ラッカ&モスルで有志連合攻勢
戦車と戦闘ヘリコプター、近年特に我が国において軽視されつつある陸上防衛の骨幹打撃力について、認識を改める戦訓が現在、築かれつつあるもよう。
我が国のエネルギー政策へ影響の大きな中東、その中東にて今月に大きな動きが連続しました。ISIL(イスラム国)の首魁バグダディ容疑者戦死の可能性、中東と欧州に猛威奮ったISILのイラクとシリアでの壊乱、このほかシリア領内での米軍機によるシリア空軍撃墜、イラン制裁巡るカタールへの湾岸諸国国交断絶、などなど。しかし今回は別の視点から見てみましょう。
ISILはイラクでの最大拠点であり最後の拠点、北部のモスルでの掃討作戦が最終段階に入りつつあるようです。市街地では大量の非戦闘員を人間の盾として市内に備蓄された食糧を用い遅滞戦闘を展開していましたが、増援を得られず、イラク軍はアメリカ軍を中心とした有志連合の支援下、市内の最後のISIL拠点となっている旧市街へ進出しつつあります。
ISILが首都と位置づけるシリアのラッカに対してもアメリカが支援する有志連合軍は攻勢に出ており、シリア軍はロシア軍の支援を受けシリア国内でのISIL拠点へ戦車を中心として次々に攻略、一時はイラクのバクダッドに迫り、将来的に南欧地域へ浸透する可能性が危惧されたISILの過激主義に基づくイスラム国家建設運動は終りが見えつつあるようです。
ISILの首魁バグダディ容疑者、ロシアの空爆により死亡した可能性が出てきました。現在ロシアとアメリカなどの情報機関が確認中ですが、ISILが首都と位置づけ占領を続けるシリアのラッカ北部へロシア軍が実施した空爆、先月28日にISILの幹部会合を狙って実施された航空攻撃により無力化できた可能性があるとの事です。ただ、確認段階である、と。
モスル攻略ではアメリカ陸軍が運用するAH-64D戦闘ヘリコプターによる近接航空支援とハンヴィー高機動車の連携が大きな威力を発揮しています。ISILは多数の小型無人機を当初運用していましたが、AH-64Dはその発着位置を正確に標定し打撃を加え、地上部隊上空を常時掩護する事により地上部隊の不機遭遇を徹底し回避、戦線に大きな影響を与えた。
AH-64Dは2003年のイラク戦争に際し、イラク軍による14.5mm機銃等の従来型防空火器と携帯電話網等を利用した巧みな防空体系に当初大きな損耗を被り、戦闘ヘリコプターの時代は終わったとも論じられたのですが、地上部隊から突出して単独運用を避け、陸上戦闘体系の一端として協同する事で威力を発揮、陸上戦闘での有用性を大きく誇示しました。
シリア軍の攻勢ですが、ロシア軍から軍事援助を受け損耗分の補填を受け続けたT-72戦車が大きな威力を発揮しています。T-72戦車は我が74式戦車の好敵手として対峙した比較的旧式の戦車で、湾岸戦争ではイラク軍が運用した輸出仕様T-72が米軍M-1A1戦車に完敗しましたが、歩兵部隊の戦闘に防御力を活かし掩護を続ける事で先鋒を担い続けています。
T-72の難点は弾薬配置が乗員区画と重なり、対戦車火器等で一旦貫徹されると大火災により乗員が死傷する点です。戦車戦闘を留意し車高を抑えた設計も市街地では仰角俯角が限られ苦戦を強いられていますが、ロシア軍は徹底した火災対策を行い一挙に誘爆する危険性を可能な限り排除、更に装甲車と連携し擱座戦車要員救出の戦術を確立した模様です。
戦車の市街地展開は一時市街地の死角の多さから戦術上の禁忌と論じられたものの、軽歩兵のみの市街地戦闘はそもそも“市街地は兵を呑む”として回避する戦術上の定石があり、敢えて市街地戦闘を掃討作戦として強要された際、戦車を如何に市街地において運用するかが重要である、シリア軍の戦車運用、無論膨大な車両損耗、新しい戦術といえましょう。
北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
戦車と戦闘ヘリコプター、近年特に我が国において軽視されつつある陸上防衛の骨幹打撃力について、認識を改める戦訓が現在、築かれつつあるもよう。
我が国のエネルギー政策へ影響の大きな中東、その中東にて今月に大きな動きが連続しました。ISIL(イスラム国)の首魁バグダディ容疑者戦死の可能性、中東と欧州に猛威奮ったISILのイラクとシリアでの壊乱、このほかシリア領内での米軍機によるシリア空軍撃墜、イラン制裁巡るカタールへの湾岸諸国国交断絶、などなど。しかし今回は別の視点から見てみましょう。
ISILはイラクでの最大拠点であり最後の拠点、北部のモスルでの掃討作戦が最終段階に入りつつあるようです。市街地では大量の非戦闘員を人間の盾として市内に備蓄された食糧を用い遅滞戦闘を展開していましたが、増援を得られず、イラク軍はアメリカ軍を中心とした有志連合の支援下、市内の最後のISIL拠点となっている旧市街へ進出しつつあります。
ISILが首都と位置づけるシリアのラッカに対してもアメリカが支援する有志連合軍は攻勢に出ており、シリア軍はロシア軍の支援を受けシリア国内でのISIL拠点へ戦車を中心として次々に攻略、一時はイラクのバクダッドに迫り、将来的に南欧地域へ浸透する可能性が危惧されたISILの過激主義に基づくイスラム国家建設運動は終りが見えつつあるようです。
ISILの首魁バグダディ容疑者、ロシアの空爆により死亡した可能性が出てきました。現在ロシアとアメリカなどの情報機関が確認中ですが、ISILが首都と位置づけ占領を続けるシリアのラッカ北部へロシア軍が実施した空爆、先月28日にISILの幹部会合を狙って実施された航空攻撃により無力化できた可能性があるとの事です。ただ、確認段階である、と。
モスル攻略ではアメリカ陸軍が運用するAH-64D戦闘ヘリコプターによる近接航空支援とハンヴィー高機動車の連携が大きな威力を発揮しています。ISILは多数の小型無人機を当初運用していましたが、AH-64Dはその発着位置を正確に標定し打撃を加え、地上部隊上空を常時掩護する事により地上部隊の不機遭遇を徹底し回避、戦線に大きな影響を与えた。
AH-64Dは2003年のイラク戦争に際し、イラク軍による14.5mm機銃等の従来型防空火器と携帯電話網等を利用した巧みな防空体系に当初大きな損耗を被り、戦闘ヘリコプターの時代は終わったとも論じられたのですが、地上部隊から突出して単独運用を避け、陸上戦闘体系の一端として協同する事で威力を発揮、陸上戦闘での有用性を大きく誇示しました。
シリア軍の攻勢ですが、ロシア軍から軍事援助を受け損耗分の補填を受け続けたT-72戦車が大きな威力を発揮しています。T-72戦車は我が74式戦車の好敵手として対峙した比較的旧式の戦車で、湾岸戦争ではイラク軍が運用した輸出仕様T-72が米軍M-1A1戦車に完敗しましたが、歩兵部隊の戦闘に防御力を活かし掩護を続ける事で先鋒を担い続けています。
T-72の難点は弾薬配置が乗員区画と重なり、対戦車火器等で一旦貫徹されると大火災により乗員が死傷する点です。戦車戦闘を留意し車高を抑えた設計も市街地では仰角俯角が限られ苦戦を強いられていますが、ロシア軍は徹底した火災対策を行い一挙に誘爆する危険性を可能な限り排除、更に装甲車と連携し擱座戦車要員救出の戦術を確立した模様です。
戦車の市街地展開は一時市街地の死角の多さから戦術上の禁忌と論じられたものの、軽歩兵のみの市街地戦闘はそもそも“市街地は兵を呑む”として回避する戦術上の定石があり、敢えて市街地戦闘を掃討作戦として強要された際、戦車を如何に市街地において運用するかが重要である、シリア軍の戦車運用、無論膨大な車両損耗、新しい戦術といえましょう。
北大路機関:はるな くらま
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